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「自身が感染してしまうかもしれない」との恐怖感の中でのコロナ対応、普段なら生じない医療事故の発生も―医療機能評価機構

2021.4.6.(火)

昨年(2020年)10-12月に報告された医療事故は1168件、ヒヤリ・ハット事例は6448件であった。医療事故のうち5.8%では患者が死亡しており、9.0%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が3月26日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第64回報告書(昨年(2020年)10-12月が対象)から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2020年7-9月)を対象にした第63回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では、(1)研修医に関連した事例(2)新型コロナウイルス感染症に関連した事例―の2テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。慣れない「新型コロナウイルス感染症対応」の中では、「自身が感染してしまうかもしれない」という恐怖感もあり、普段であれば生じない医療事故も発生しています。

2020年10-12月、前四半期に続いて重大な医療事故はやや減少

昨年(2020年)7-9月に報告された医療事故1168件を、事故の程度別に見ると▼死亡:68・事故事例の5.8%(前四半期に比べて0.1ポイント減)▼障害残存の可能性が高い:105件・同9.0%(同0.5ポイント減)▼障害残存の可能性が低い:327件・同28.0%(同0.3ポイント増)▼障害残存の可能性なし:305件・同26.1%(同1.1ポイント増)―などとなりました。前四半期に続き、「死亡」や「障害残存の可能性が高い」という重大な医療事故はやや減少しており、好ましい傾向と言えます。もちろん、より中長期的な動向を見ていく必要があります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で396件・事故事例の33.9%(前四半期に比べて1.1ポイント減)、次いで「治療・処置」364件・同31.2%(同1.5ポイント減)、「ドレーン・チューブ」103件・同8.8%(同1.4ポイント増)、「薬剤」96件・同8.2%(同1.5ポイント増)などと続いています。さまざまな医療行為の場で「事故の可能性がある」点を再認識した業務遂行が必要なことがわかります。

2020年10-12月に生じた医療事故の概要(医療事故調査制度第64回報告書1 210326)

ヒヤリ・ハット事例、実施していれば重大事故につながったものも

ヒヤリ・ハット事例を見てみると、昨年(2020)年7-9月の報告件数は6448件。内訳を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2431件・ヒヤリ・ハット事例全体の37.7%(前四半期と比べて2.5ポイント増)、次いで「療養上の世話」1220件・同18.9%(同1.2ポイント増)、「ドレーン・チューブ」959件・同14.9%(同0.6ポイント減)などとなっています。

ヒヤリ・ハット事例のうち医療機関での実施がなかった3750件について、「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.1%(前四半期から0.3ポイント減)と、ほとんどを占めている状況に変化はありません。しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも3.0%(同0.1ポイント増)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.9%(同0.2ポイント増)あります。ごく少数ではありますが、「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じており、前四半期より増加している点を重視、全ての医療機関において院内のチェック体制を改めて点検しなおす必要があるでしょう。

2020年10-12月に生じたヒヤリハット事例の概要(医療事故調査制度第64回報告書2 210326)



その際、「個人が気を付ける」ことはもちろん重要ですが、個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできません。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ極めて多忙な医療従事者は、ミスが生じやすい環境で働いています。こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると指摘されています。

「人はミスを犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付け、また包み隠さず報告できるような仕組みを構築する」「院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要となります。

慣れない「コロナ感染症対応」の中で、医療事故も散発

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)研修医に関連した事例(2)新型コロナウイルス感染症に関連した事例―の2テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。

本稿では、(2)の「コロナ感染症関連事例」に焦点を合わせ、事故の背景や対策について少し詳しく見てみましょう。

昨年(2020年)初頭より、我が国でも新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。機構では昨年(2020年)1年間の事故報告事例の中からに「COVID」「コロナ」「PCR」「SARS」のいずれかが含まれる56件をピックアップ。▼昨年(2020年)5月に最も多く事故が発生している(第1波)▼内科が最も多い▼70歳代以上が過半数である―という特徴があります。

また事故は、25件が「感染者・疑い患者の治療中」に発生しており、24件が「コロナ感染症への対応を目的とした院内のルール・手順の変更」に起因して発生しています。

まず「治療中」に生じた事故の約半数(12件)は「感染対策」が影響しています。具体的には、▼CVC(中心静脈カテーテル)挿入時の動脈誤穿刺▼手術開始の遅れ▼急変時の対応遅れ―などです。中には「個人用防護具(PPE)着用に時間がかかった」「フェイス ガード着用により視界が限定された」ことから、気管切開チューブの離脱に気づくのが遅れたなどのケースが含まれています。

ほかにも、平時には使用することの少ない「ECMO」(体外式膜型人工肺)を導入した際の「カテーテルの固定が不十分であった」事例や、「別の患者に使用し、片付け方法を検討するために人工呼吸器回路を透明な袋に入れておいたところ、別のスタッフが『セッティング済』と思い込み使用してしまった」事例など、様々なケースが報告されています。

また、「看護師は、平時であればコード等の緩みを見逃さないが、『感染してしまうかもしれない。早く部屋から出たい』という恐怖などから見逃してしまった可能性もある」と指摘される事故もありました。



後者の「コロナ感染症への対応を目的とした院内のルール・手順の変更」とは、コロナ感染症の拡大防止のために、院内ルール・手順を「平時とは異なるもの」へ見直したことに関連して生じた事故です。

例えば、平時と異なるルートで治療室等に向かうこととなったため、患者が「なれない階段で足を踏みはずして転倒し、急性硬膜外血腫が生じてしまった」事例などが代表的です。



新型コロナウイルス感染症の治療・管理は、平時とは異なる「慣れない」状況で行われ、また医療従事者も「他の患者に感染させてはいけない」と考えると同時に、「自分が感染してしまうかもしれない」という恐怖と闘いながら実施されています。1つ1つの事例を重く受け止め、再発防止策を構築、共有することが重要です。

なお、ECMO等の操作に関する研修については、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の中に「新型コロナウイルス感染症重症患者に対応する医療従事者養成研修事業」が新メニューとして盛り込まれました。人工呼吸器やECMOといった高度機器を操作するための知識・技術を身に着ける研修の経費(開催費)について、▼新型コロナ患者対応 ECMO 研修(基礎編および応用編)では1開催当たり450万円▼新型コロナ患者対応人工呼吸器研修(基礎編および応用編)では同じく200万円—を上限に補助するものです。こうした研修への積極的な参加も、医療事故防止に大きく役立つと考えられます(関連記事はこちらこちら)。



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