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鏡視下手術で、切除した臓器・組織を体内から回収し忘れる事例が散発、術場スタッフが連携し摘出標本の確認徹底を―医療機能評価機構

2020.12.30.(水)

今年(2020年)7-9月に報告された医療事故は1094件、ヒヤリ・ハット事例は6638件であった。医療事故のうち5.9%では患者が死亡しており、9.5%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い。前四半期に比べて、こうした重大な医療事故が増えている—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が12月25日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第63回報告書(今年(2020年)7-9月が対象)から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2020年4-6月)を対象にした第62回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では、(1)リハビリテーションを受けている患者に関連した事例(第62回報告書に続く)(2)手術で切除した臓器や組織が体内に残存した事例(3)温めたタオルによる熱傷に関連した事例―の3テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。このうち手術で切除した臓器や組織が体内に残存した事例は、すべて鏡視下手術で生じています。機構では、術場スタッフが連携して摘出した標本の確認などを行うことを提案しています。

2020年7-9月、前四半期に続いて重大な医療事故が減少

今年(2020年)7-9月に報告された医療事故1094件を、事故の程度別に見ると▼死亡:65件・事故事例の5.9%(前四半期に比べて0.7ポイント減)▼障害残存の可能性が高い:104件・同9.5%(同0.3ポイント減)▼障害残存の可能性が低い:303件・同27.7%(同2.9ポイント減)▼障害残存の可能性なし:273件・同25.0%(同0.4ポイント増)―などとなりました。前四半期に続き、「死亡」や「障害残存の可能性が高い」という重大な医療事故はやや減少しており、好ましい傾向と言えます。ただし中長期的な動向を見ていく必要があります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で383件・事故事例の35.0%(前四半期に比べて2.2ポイント増)、次いで「治療・処置」358件・同32.7%(同0.9ポイント増)、「ドレーン・チューブ」81件・同7.4%(同1.3ポイント減)、「薬剤」73件・同6.7%(同1.6ポイント減)などと続いています。さまざまな医療行為の場で「事故の可能性がある」点を再認識した業務遂行が必要でしょう。

医療事故の概要(医療事故情報収集等事業63回報告書1 201225)

ヒヤリ・ハット事例、仮に実施すれば重大事故になったものが増加

ヒヤリ・ハット事例を見てみると、今年(2020)年7-9月の報告件数は6638件。内訳を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2335件・ヒヤリ・ハット事例全体の35.2%(前四半期と比べて0.3ポイント増)、次いで「療養上の世話」1176件・同17.7(同1.7ポイント減)、「ドレーン・チューブ」1027件・同15.5%(同0.4ポイント減)などとなっています。医療事故と同じく、広範な医療行為の場で、ヒヤリ・ハット事例が生じていることが分かります。

ヒヤリ・ハット事例のうち医療機関での実施がなかった3213件について、「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.4%(前四半期から0.8ポイント増)と、ほとんどを占めている状況に変化はありません。しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.9%(同0.5ポイント増)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.7%(同0.4ポイント増)あります。ごく少数ですが、「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じており、前四半期より増加している点を重視、全ての医療機関において院内のチェック体制を改めて点検しなおす必要があります。

ヒヤリハット事例の概要(医療事故情報収集等事業63回報告書2 201225)



その際、「個人が気を付ける」ことはもちろん重要ですが、個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできません。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ極めて多忙な医療従事者は、ミスが生じやすい環境で働いています。こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると指摘されています。

「人はミスを犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付け、また包み隠さず報告できるような仕組みを構築する」「院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要となります。

鏡視下手術で、切除した臓器・組織を体内から回収し忘れる事例が散発

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)リハビリテーションを受けている患者に関連した事例(第62回報告書に続く)(2)手術で切除した臓器や組織が体内に残存した事例(3)温めたタオルによる熱傷に関連した事例―の3テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。

本稿では、(2)の「手術で切除した臓器や組織が体内に残存した事例」に焦点を合わせ、事故の背景や対策について少し詳しく見てみましょう。

2015年1月から今年(2020年)9月までに、外等事例は9件報告されています。障害残存の可能性が低いものばかりですが、7件では「残存した臓器や組織を摘出するために再手術」という患者への予定外の侵襲が生じています。

診療科別に見ると、▼産婦人科・婦人科:5件▼外科:4件―となっており、すべて「腹腔鏡下の手術」で生じています。

また、当事者である医師の経験年齢を見ると、▼5-9年:3件▼10-14年:3件▼15-19年:1件▼20年以上:3件―と、ベテランで生じる事故であることが分かります。

事例をいくつか見てみましょう。

ある病院で、直腸S状結腸がんに対し腹腔鏡下高位前方切除術を施行。その際、執刀医は、切除した直腸S状結腸がんに小腸の癒着を認め、合併切除を施行しました。執刀医は、腹腔内から切除した標本を摘出し、外回り看護師へ渡した。手術終了後に患者は回復室へ移動しましたが、標本を整理していた医師が「切除した小腸がない」ことを執刀医へ報告。腹腔内に残存している可能性があるため「再手術」を施行し、腹腔内に残存していた小腸を摘出したといいます。

また別の病院では、多発性子宮筋腫の患者に対し、腹腔鏡下子宮筋腫核出術を施行。核出した子宮筋腫は、1cm大のものから10cm大のものまで10個ありました。1cm大の小さな筋腫数個は、すぐに取り出さないと見失う可能性があるため、核出するたびに12㎜のポートから腹腔外へ取り出していました。しかし大きな筋腫は核出後すぐには体外へ出さず、腹腔内に置いておき、回収バッグに収納後にまとめて組織細切除去器にて取り出しました。術後の経過は概ね良好でしたが、4日目の診察時に「3cm大の腫瘤像」を認められ、血腫が疑われました。術後の血液検査で著明な貧血の進行がないことから患者と相談し、「外来にて経過観察」の方針を決め、退院しました。後日、主治医が手術動画を見直したところ核出した10個の子宮筋腫のうち9個しか体外に取り出していないことに気付き、執刀医に報告。執刀医が手術動画を確認したところ、3cm大の子宮筋腫1個が体内に残存していることを確認しました。



こうした事故の背景には、▼スタッフ間の情報共有・伝達不足(例えば、上記事例では「摘出した標本」を各スタッフが確認していれば防げた)▼閉創前の確認不足▼サインアウト時の確認不足▼思い込み(上記事例では、執刀医は「小腸を分離せず一緒に摘出した」と認識していた)―などがあります。

機構では、▼切除した臓器や組織の摘出の手順▼情報の共有▼手術室内に標本整理台を置き、別の医師が標本の分離のみ(固定は困難)を術中に行い、切除した標本が全て含まれているか確認する▼摘出した標本の確認(例えば、医師と外回り看護師間で標本の受け渡しをする際に明確なやり取りを行い、一緒に目視で確認するなど)▼カウントの手順(閉創時の確認は、「執刀医」「助手」「器械出し看護師」がコミュニケーションを取りながら確実に行う)—といった改善策を例示しています。

このほか機構では、「腹腔鏡手術は、カメラを通して見える術野の範囲が限られており、切除した臓器や組織を一度見失うと、閉腹前に取り出すことを『失念する』可能性がある」こと、「切除した臓器や組織だけでなく、それらを体外に取り出すための回収バッグとともに残存した事例が含まれている」ことなども指摘し、事故防止策を十分にとるよう注意喚起しています。

改善策の例(医療事故情報収集等事業63回報告書3 201225)

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