薬剤師が患者とコミュニケーションとり、専門知識も活かして「適切な処方内容」へ変更できた好事例—医療機能評価機構
2022.6.7.(火)
疾病により用法用量が異なる薬剤について、患者とコミュニケーションをとって適正な処方内容に変更することができた。また、手術を控えた患者に抗血栓薬が処方されたことを受け、担当医に確認して適正な処方内容に変更することができた—。
日本医療機能評価機構が6月6日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。
名称・包装が類似した薬剤の「取り違え」に留意を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上も重要事業の1つに据え、全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。
その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、名称・包装の類似する薬剤の取り違えに関する事例です。
普段から当該薬局を利用している患者に対し、アルツハイマー型認知症治療剤の「リバスタッチパッチ18mg」が処方されました。薬剤師Aは、名称等が似ているが効能効果の異なるパーキンソン病治療薬の「ニュープロパッチ 18mg」とを取り揃え、間違いに気付かずに鑑査へ回してしまいまいした。幸い鑑査を行った薬剤師Bが間違いに気付き、薬剤師A が調製をし直すことができました。
両剤を取り違えてしまった事例は他にも報告されており、その原因として「医薬品や包装の外観類似」 があります(包装や外箱が規格ごとに色分けされているが、一部の色が類似している)。機構では、▼名称だけでなく、規格や外観が類似する薬剤の取り違えにも注意する▼薬剤が患者の疾患や症状と一致しているか確認する▼取り違えが起きる可能性がある薬剤を抽出し、「離れた場所に配置する」「注意喚起のラベルを薬剤棚に貼る」などの対策が有効である▼「調製者と別の鑑査者が処方箋と薬剤を照合する」「調剤監査支援システムなどの機器を導入する」「交付時に患者と共に薬剤を確認する」など「取り違えに気づける仕組み」を構築する―などのアドヴァイスを行っています。
2つ目は、「患者の疾患や体重により用法・用量が異なる薬剤」に対し適切な対応を行った好事例です。
疥癬と診断された患者に、皮膚科から駆虫剤の「ストロメクトール錠3mg」1回4錠・1日1回・就寝前7日分が処方され、調製者、鑑査者は処方内容に疑義を抱きませんでした。しかし交付者は、▼患者の体重に照らし投与量は問題ない(通常「体重1kgあたり200μg」を投与するとされ、1日あたり3mg・4錠は「51—65kg」で、確認した患者の体重に合致した)▼疥癬治療では通常「1回」だけ服用するため、投与日数「7日分」に疑義があり—として疑義照会を実施。その結果、「ストロメクトール錠3mg 」1回4錠・1日1回・就寝前1日分に変更となりました。
ストロメクトール錠3mg(イベルメクチン)は、▼腸管糞線虫症▼疥癬—の治療に用いる駆虫剤で、疾患によって投与回数、投与間隔が定められています。
機構では、ストロメクトール錠3mgが処方された際は、▼患者に診断内容を確認したうえで、添付文書に記載されている投与回数などと処方内容が一致するか確認する▼患者の体重を確認し、投与量が適正であるか検討する—という具体的なアドヴァイスを行うとともに、「患者の疾患や体重により用法・用量が異なる薬剤は、調剤時に確認が必要な事項を薬剤棚に掲示する」など、注意喚起のための対策を講じることが望ましいとも助言しています。本事例は、こうした基本に沿った取り組みを確実に実施した好事例と言えます。
3つ目は、手術を控えた患者に「抗血栓薬」が処方され、薬剤師が疑義解釈を行い適正な処方内容に変更が行えた好事例です。
80歳代の患者に、血栓・塞栓形成の抑制などに用いる「バイアスピリン錠100mg」が他の薬剤と一緒に30日分処方されました。患者からは「手術の予定がある」こと、「手術予定日の7日前からバイアスピリン錠100mgの服用を中止する」よう医師から指示されたことを聴取しました。処方医に疑義照会を行ったところ、 バイアスピリン錠100mgの処方日数が「23日分」に変更となりました。
機構では、▼「手術・検査に伴い服薬を休止する可能性がある薬剤」を患者に交付する際は、手術・検査予定や内容を確認する必要があり、「手術・検査の前後に服薬の休止を検討する必要がある薬剤」をリストアップし、それらの薬剤が処方された際の対応について業務手順を定め、薬局内で共有しておく▼抗血栓薬を服用している患者に手術・検査の予定がある場合は、患者に「服薬休止について指示を受けているか」を確認し、指示がなければ処方医、あるいは手術・検査を実施する医療機関に問い合わせ確認する▼手術・検査に伴い継続して服用していた薬剤を休止した場合は、その後の患者の体調変化や手術・検査後の薬剤の再開の有無や時期を確認する―ようアドヴァイスしています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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