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複数薬効のある「デュロキセチン製剤」、「先発品と後発品」などの重複投薬に留意を—医療機能評価機構

2022.5.16.(月)

異なる医療機関や診療科から、「デュロキセチンカプセル」と、その後発品が処方されている(同成分薬剤の重複投薬)ことに薬剤師が気づき、疑義照会の結果、適正な処方内容へと変更できた—。

日本医療機能評価機構が5月13日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。

名称が極めて類似した漢方製剤などの「処方間違え」に留意を

日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上も重要事業の1つに据え、全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)を収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。

その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、薬剤の取り違えに気付かなかった事例です。

泌尿器科を受診した患者に、前立腺肥大に伴う排尿障害改善治療のために「【般】タダラフィル口腔内崩壊錠5mgZA」1回1錠・1日1回・夕食後が処方されました。薬局の調製者は「タダラフィルOD錠5mgZA『トーワ』」を取り揃えるべきところ、誤って肺動脈性肺高血圧症治療に用いる「タダラフィル錠20mgAD『TE』」を取り揃えてしまいました。その際、鑑査者、交付者ともに間違いに気付かず、患者に薬剤を交付してしまいました。患者は40日間服用後に「薬剤が違う」ことに気付き薬局に連絡。薬剤師は、副作用発現が疑われる症状はないことを患者から聴き取り、処方医へ報告を行っています。

タダラフィルには、▼前立腺肥大に伴う排尿障害改善治療のためのZA錠▼肺動脈性肺高血圧症治療のためのAD錠▼勃起不全改善のためのCI錠—の大きく3種類があり、今般、その取り違えが生じてしまったものです。

薬剤ごとに効能・効果や用法・用量が異なるだけではなく、警告や禁忌などにも違いがあることから、機構では「タダラフィル製剤が処方された場合は、患者の疾患や治療目的と処方された薬剤の効能・効果を照合し、さらに、添付文書の警告や禁忌などを確認して該当する項目がないかを検討する必要がある」と強調しています。



2つ目は、薬剤師が薬歴確認・患者とのコミュニケーションにより「処方間違い」を正せた好事例です。

患者に、かかりつけの医療機関Aから漢方製剤が処方されました。電子薬歴を確認すると2か月前に医療機関Bから神経質、ノイローゼ、めまい、動悸、息切れ、頭痛などの諸症状緩和に用いられる「ツムラ苓桂朮甘湯エキス顆粒(医療用)」が処方され、当薬局で調剤していたことが分かりました。薬局では、処方箋から「医療機関Bと同じ漢方製剤が処方された」のかと思いましたが、処方箋の2次元コードを読み取ったところ「初処方」と表示され、薬剤名を確認すると「ツムラ苓姜朮甘湯エキス顆粒(医療用)」(腰痛、腰の冷え、夜尿症)でした。薬剤師が患者から聴取を行ったところ「以前に医療機関Bから処方されていた漢方製剤の処方を、かかりつけ医に依頼した」ことがわかりました。薬剤師が疑義照会したところ「ツムラ苓桂朮甘湯エキス顆粒(医療用)」へと処方変更になりました。

漢方製剤の名称が非常によく似ている((正)ツムラ苓桂朮甘湯エキス顆粒(医療用)、(誤)ツムラ苓姜朮甘湯エキス顆粒(医療用))ことから、医療機関Bで処方間違いが生じたものです。

薬剤師が薬歴をチェックし、患者とコミュニケーションをとることで「処方間違い」に気づき、疑義照会の結果、正しい処方内容に変更できた好事例と言えます。機構では▼患者から聴取した内容や薬剤服用歴から、患者の症状を把握し、処方された漢方製剤の効能・効果が一致しているかなどを検討し、疑わしい点があれば疑義照会を行う▼調剤監査支援システムなどの電子機器を活用して、薬剤の取り違えを発見し、誤った薬剤の交付を防ぐ―などの取り組みを行うようアドヴァイスしています。



3つ目は、小児患者に10倍量の過量投与が行われてしまった事例です。薬剤師の処方監査が行われず、過量処方に気づくことが適いませんでした。

60歳代の患者に、医療機関A(整形外科)から疼痛緩和・うつ病治療に用いる「サインバルタカプセル20mg」1回1カプセル・1日1回朝食後・14日分と、神経障害性疼痛治療に用いる「タリージェ錠」、疼痛緩和に用いる「ノイロトロピン錠」が処方されました。薬局で管理している薬剤服用歴を確認したところ、当該患者には医療機関Bの精神科からうつ病治療・疼痛緩和に用いる「デュロキセチンカプセル20mg『日新』」1回33カプセル・1日1回・朝食後28日分が処方されていたことが分かりました。薬剤師が整形外科の処方医に情報提供を行った結果、デュロキセチンの後発品である「サインバルタカプセル」が削除となりました。

本事例は、B医療機関から「デュロキセチンカプセル」が、A医療機関から同剤の後発品である「サインバルタカプセル」が処方され、薬剤師が「同成分薬剤の重複投与である」ことに気づき、処方内容見直しを実現できた好事例で、同様の事例が複数報告されています。

機構では、A医療機関の整形外科医が▼お薬手帳を確認しなかった▼デュロキセチンカプ セルがサインバルタカプセルの後発医薬品であると認識していなかった—可能性を指摘。▼デュロキセチン製剤は精神科、内科、整形外科などの複数の診療科から処方される可能性があり、他医療機関・診療科から同成分の薬剤や同薬効の薬剤がしょほうされていないか確認することが重要である▼同成分・同薬効の薬剤の重複は、先発医薬品同士や後発医薬品同士、先発医薬品と後発医薬品の組み合わせがあることに留意し、患者が服用している薬剤を確認する際は、薬剤の成分名を認識して重複を見落とさないよう注意する必要がある—とアドヴァイスしています。



薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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