薬剤師が患者の過去の情報を活用し、医療機関にも積極的に働きかけ、「禁忌薬剤の処方」を回避できた好事例—医療機能評価機構
2022.10.20.(木)
薬剤師が患者から聴取した情報をもとに、医療機関に積極的に確認を行った結果、「禁忌薬剤の処方」を回避することできた―。
日本医療機能評価機構が10月18日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになっています(機構のサイトはこちら)。
調剤監査支援システムは、あくまで調剤の補助であり、「人の目」が重要な点に留意を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、事例の集積・解析により「再発防止策」の策定を目指すものです。
その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに2つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、薬剤取り違えの事例です。
ある患者に2型糖尿病治療薬の「メトホルミン塩酸塩錠250mgMT『三和』」・1日9錠・1日3回・30日分が処方されました。合計270錠(1日9錠×30日分)を調製すべきところ、誤って▼メトホルミン塩酸塩錠250mgMT「三和」:70錠▼メトグルコ錠(同じく2型糖尿病治療薬)250mg:200錠—を取り揃え、患者に交付してしまいました。患者から連絡があり、そこで薬剤取り違えに気付きました。
▼外観が類似している▼70錠のPTPシートに細かな端数があり、そこに気をとられてしまった▼ポリムス(調剤監査支援システム)で読み込む際、メトホルミンのみを読み込んだため、メトグルコに関するエラーが表示されなかった—などの背景があります。
機構では、▼調剤監査支援システムでは、通常、PTPシートや包装箱などのどれか1か所のバーコードを読み込むため、「取り違えた薬剤が混在している」場合に、正しい薬剤と照合してしまえばエラーが表示されない点に留意する▼システムを活用するのは「人」であり、システムはあくまでも「業務の補助」と捉え、仕様や特徴を理解したうえで適切に運用する—ことなどをアドヴァイスしています。
2つ目は、薬剤師が専門知識を活かし(添付文書の活用)、適切な用量に変更できた好事例です。
あるパーキンソン病の患者に対し、治療薬として「ニュープロパッチ9mg」1日2枚が処方されていましたが、切り替えで、同じくパーキンソン病治療薬の「ハルロピテープ 32mg」1日2枚が処方されました。薬剤師が添付文書を確認したところ、ニュープロパッチからハルロピテープへ切り替える際の投与量として適切ではない(下図参照)と判断し、処方医に疑義照会を行った結果、「ハルロピテープ32mg」1日1枚へ変更となりました。
機構では、処方薬剤が変更された際は、▼患者から薬剤の効果や副作用発現などに関する情報を収集し、変更になった経緯を把握する▼交付後にフォローアップを行い、薬剤変更後の患者の状態を確認し、処方医と情報を共有する—ことが重要であると、さらにドパミンアゴニストの内服薬(速放錠、徐放錠等)や貼付剤が処方されていた患者にハルロピテープが処方された際は投与量や切り替えタイミングなどを検討することが重要であるとアドヴァイスしています。
3つ目は、薬剤師が専門知識を活かすとともに、患者と適切なコミュニケーション、さらに医療機関への確認という積極的な行動をとり、適切な処方内容に変更できた(禁忌薬剤の処方を避けられた)好事例です。
医療機関Aの眼科で緑内障治療中の患者に対し、眼圧が下がらないため緑内障・高眼圧症治療薬の「アイラミド配合懸濁性点眼液」が追加されました。薬剤師は、以前にこの患者から「2年前に医療機関Bで左腎を摘出し、腎機能を示すeGFR の値が25.5mL/min/1.73m2とかなり低い」(腎機能が低下している)ことを聴取していた。アイラミド配合懸濁性点眼液は「重篤な腎障害のある患者に禁忌」であるため、薬剤師が医療機関Bに現在の検査値を確認したところ「検査値に大きな変化はなく、腎機能が高度に低下した」状態であった。薬剤師が眼科医に情報提供を行い、その結果、 「アイファガン点眼液0.1%」へ変更となりました。
機構では、▼患者から現病歴・既往歴や併用薬、必要に応じてその他の情報を聴取し、それらの情報を考慮したうえで処方内容の妥当性や副作用発現の可能性を検討する▼患者やお薬手帳などから入手した情報は薬剤服用歴に記録し、処方監査時に確認できるように管理しておく―ことをアドヴァイスしています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
あわせて、今年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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