薬剤を調整する際、「レセコンへの誤入力」の可能性を考慮し、必ず「処方箋」に照らすことが重要—医療機能評価機構
2022.9.13.(火)
薬局において、処方内容をレセプトコンピュータに入力する「誤ってしまう」ことは数多くある。このため「レセコンへの入力内容」をベースに薬剤を調整するのではなく、「処方箋」に照らして薬剤を調整することが必要である―。
日本医療機能評価機構が9月8日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになっています(機構のサイトはこちら)。
薬剤の添付文書・適正ガイドなど参照し、「適切な用法」か否かの確認も重要
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、事例の集積・解析により「再発防止策」の策定を目指すものです。
その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに2つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、レセプトコンピュータの入力間違いによる薬剤を取り違えてしまった事例です。
ある患者に不眠症治療薬「マイスリー錠5mg」を含む薬剤が処方されました。薬局の事務スタッフが処方内容をレセコンへ入力する際、マイスリー錠の入力が漏れてしまいました。調製者はレセコン入力内容を見て調製したため、マイスリー錠を取り揃えませんでしたが、鑑査者が入力漏れに気付きレセコン入力内容を訂正。しかし、その際に誤って抗てんかん剤である「マイスタン錠5mg」と入力してしまいした。調製者はマイスタン錠を取り揃え、鑑査者が患者に交付。交付後に処方内容を確認した際「薬剤の取り違え」に気付き、患者に電話して薬剤を交換することができました。
本事例は、「レセコンの入力内容」と「処方箋」との照合や、「処方箋」にもとづく調整を行えば容易に防ぐことができました。しかし、同様の「レセコンへの誤入力により作成された▼薬剤情報▼薬袋▼薬剤情報提供書▼薬歴画面—などを見て調製を行った」ことによる薬剤取り違え事例は数多く報告されています。レセコンへの入力時に「似た名称の薬剤を誤って選択してしまう」ことも数多く報告されています。
機構では、▼調剤の際は「処方箋を確認する」ことが必須であり、業務手順を作成し徹底する▼レセコンへの処方内容入力に間違いがあり訂正した際は、その内容を2人以上で確認する—ことが重要であるとアドヴァイスしています。
2つ目は、薬剤師が専門知識を活かし(添付文書の活用)、適切な用法に変更できた好事例です。
ある患者に、非小細胞肺がん・胃癌・膵がん・大腸がんの悪液質治療に用いる「エドルミズ錠50mg」が「朝食後」の用法で処方されました。しかし、本剤は「食事の影響により吸収が低下する」薬剤であることから、薬剤師が「空腹時に服用する必要があるのではないか」と判断し処方医に疑義照会を行いました。その結果、用法が「起床直後」に変更になりました。
機構では「患者が正しい服用方法で服薬を継続できるよう、製薬企業が作成している患者向けの資材を活用し、 患者に適切な指導を行うことが重要」とアドヴァイスしています。
本剤は、非小細胞肺がん・胃がん・膵がん・大腸がん—における「日本初のがん悪液質に対する治療薬」で、医療従事者向けの適正使用ガイドには▼起床直後に飲む▼服用後は1時間以上たってから食事をする—ことが記載されており、患者にも「服用後1時間は食事をしない」ことを説明しておく必要があります。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
あわせて、今年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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