薬剤師は「最新の専門知識」に加え、「患者とのコミュニケーション」をとって「適切な処方内容か」の確認徹底を—医療機能評価機構
2022.8.8.(月)
患者が、薬剤に関する専門知識を活かし、さらに患者とコミュニケーションを十分にとって「状況」を詳しく把握。そうした情報を元に疑義照会を行い「適切な処方内容への変更」を実現できた—。
日本医療機能評価機構が8月4日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要事例が報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちら)。
一般用医薬品、ブランド名が同じでも「使用法」などが異なることがある点などに留意を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した、「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、事例の集積・解析により「再発防止策」の策定を目指すものです。
その一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のためにとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、薬剤師が専門知識を活かし、また患者とのコミュニケーションをとることで「適切な処方内容」への変更が実現できた好事例です。
普段から当薬局を利用している透析患者に、人工透析内科より「【般】沈降炭酸カルシウム錠500mg(制酸剤)」1回1錠・1日2回朝夕食直後が処方されました。沈降炭酸カルシウム錠には、制酸剤の炭カル錠と高リン血症治療剤のカルタン錠などがあります。薬剤師は「今回は高リン血症の治療目的で処方された可能性が高い」と考え、患者に確認したところ「リンの検査値が高くなったため薬剤が処方された」ことがわかりました。薬剤師が処方医に疑義照会をし、「【般】沈降炭酸カルシウム錠500mg(高リン血症用)」へ変更となりました。
機構では、「沈降炭酸カルシウム製剤には、制酸剤と高リン血症治療剤の2種類がある」→「沈降炭酸カルシウム製剤が一般名処方された際は『薬剤名の末尾』まで確認し、処方された薬剤の効能・効果と患者の疾患・治療目的が一致しているか検討する必要がある」とアドヴァイスしています。
2つ目は、薬剤師が「患者の健康状態」(検査値データ)を注意深く把握し、また専門性を活かし(添付文書の活用)、「禁忌薬剤を投与」を阻止できた好事例です。
在宅療養中の70歳代患者に2型糖尿病治療薬の「メトグルコ錠250mg」が処方されました。処方内容はここしばらく変わっていませんが、「患者は以前からeGFRが低く、今回の血液検査の結果は28.1mL/min/1.73平米に低下」していました。メトグルコ錠は、重度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m平米未満)のある患者には「禁忌」であるため、疑義照会を行った結果、削除となりました。
機構では、▼患者の腎機能や肝機能、電解質などの検査値を把握したうえで、処方内容の妥当性や副作用発現の可能性を検討する▼患者の生理機能は病状の進行や年齢により変化することを考慮し、検査値の推移を把握するため継続的に情報収集を行う▼処方箋に検査値記載がない場合でも、患者から聴き取りを行い、必要に応じて処方元の医療機関等に問い合わせるなど積極的に情報を収集する—ようアドヴァイスしています。
3つ目は、一般用医薬品に関する説明を誤ってしまった事例です。
来局者が一般用医薬品の解熱鎮痛剤「ロキソニンS」の購入を希望しました。しかし、在庫がなかったことから薬剤師は代替品として解熱鎮痛剤「ロキソニンSプレミアム」を勧め、ロキソニンSと同様に1回1錠を服用するよう説明した。その後、ロキソニンSプレミアムの添付文書を来局者と一緒に確認すると「1回22錠を服用する」ことが分かり、説明した内容を訂正するに至りました。
機構では、「一般用医薬品は、▼複数の有効成分が含まれている薬剤▼商品名に含有量が入っていない薬剤—が多いこと、ブランド名が同じ・類似していても『有効成分や用法・用量が異なる場合がある』ことを認識し、正しい情報を把握したうえで販売する必要がある」とアドヴァイスしています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
あわせて、今年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
【関連記事】
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