【GHC】院内にそびえる「専門性の壁」、乗り越える3ステップ|選ばれる病院の条件(2)
2026.1.6.(火)
病院の大再編時代が到来した今、生き残れる「選ばれる病院の条件」とは何か――。3回シリーズの連載企画で検証していきます。
2回目は「診療」をテーマに、「どうすれば経営と診療が円滑に連携できるのか」「診療の現場が経営に協力的になるポイントは何か」などについて探ります。これらのことを考える上での最大の課題は、院内にそびえる「専門性の壁」です。役職、部門、職種など病院は専門性が高い職員たちの集合体です。それぞれの専門性を追究するがゆえに経営の視点を理解してもらえない場面も多いです。本稿では経営と診療の現場が通じ合えない理由と「壁」を乗り越えるための3ステップを解説します。(本記事はGHC主催ミニウェビナー「選ばれる病院の条件 ~経営・診療・信頼を変える3つの戦略~第2回 病院経営の基礎を読み解く ~医療の質と経営を両立させる仕組み~」の内容から一部抜粋して構成されています)。
経営は質の高い「診療を支える技術」にすぎない
経営と診療の現場が通じ合えない理由を考える上で最初に欠かせない視点は、「病院にとって経営は、質の高い診療提供を実現するための『技術』の一つにすぎない」ということです。
改めて病院にとっての最大の目的を考えてみてください。大半の方は「患者の命を守る」「質の高診療の提供」などと答えるのではないでしょうか。病院は標榜する診療科の医療を適切に届けることが何よりも重要で、その診療提供体制を維持するための一つの要素として経営があるのです。つまり、病院にとって経営は、質の高い診療提供を実現するための「技術」の一つにすぎません。
この視点が欠かせないのは、「診療」の現場からの協力を得るためです。経営改善を推進しようとすると、とかく経営や財務の専門用語を使ったり、経営の理屈で物事を考えがえたりしがちです。ただ、そうなってしまうと「質の高い診療の提供」を第一に考える診療の現場に声が届かなくなります。結果、経営改善が進まなくなります。
ですから、経営改善を推進する上での軸は必ず「診療」を置き、各種経営指標は診療の何と繋がっているのかをしっかりと理解した上で、診療の何をどう変えたら各種経営指標がどう変わるかという観点で経営を考えてください。そうすることで、実効を伴う経営改善を推進できるようになります。
課題は「責めどころ」ではなく「変えどころ」
では、具体的にどうすればいいのか。大きく分けて3つのステップがあります。
まず大切なことは、「なぜその数字になっているのか」という視点で、課題を客観的に把握することです。「経営」を軸に考えると、「この診療科の収益が伸びていない」「この病棟の稼働率が低い」など、経営改善する上での「責めどころ」ばかりに目線の先が行きがちです。ただ、「診療」を軸に考えて、診療の現場に伝わるように経営指標を翻訳すると、課題は「責めどころ」ではなく「変えどころ」に変わります。
どういうことか。我々コンサルタントが病院経営の改善を行う上でまず取り組むのは、経営指標は診療の何とつながっているのかを細かく因数分解し、そのことをクライアントにしっかりと理解していただくことです。以下の図表は急性期病院の一例ですが、利益という経営指標を診療現場の職員たちが理解できるように「平均在院日数短縮」「手術件数増加」などにまで落とし込んでいきます。例えば、平均在院日数であれば、計算式は「在院日数合計÷症例数」であり、長期入院症例が平均在院日数を引き上げている可能性や疾患構成に影響されるところまでを診療現場の視点を加味して掘り下げています。
こうすることで、常に「診療」を軸に、いかに「医療の価値」を向上させることができるのかというバランス感覚を持って経営改善に臨めます(以下図表)。「医療の価値」とは、「医療の質÷コスト」で求めるもので、経営改善によってたとえコストは下がったとしても、それによって医療の質が低下してしまえば医療の価値は下がります。またコストは変わらなくても医療の質が上がれば医療の価値は上がると考えます。このような視点であれば診療の現場も納得する価値観で、病院経営においても最大の目的である「質の高い医療提供」に合致するので、経営としても非常に意義のある取り組みになります。
このように経営指標を診療に翻訳することで、院内全体で経営指標がどういう仕組みであるのかを理解した上で、自分たちが何をするとその数字が動くのかを理解して経営改善活動を院内全体で推進できるようになります。まずはこの状態にすることが、経営改善のスタートラインとなります。
課題の明確な評価にはベンチマーク分析が必要
診療現場と一緒に経営改善のスタートラインに立つことができたら、次に行うのは「変えどころ」となる課題の評価を明確に行うことです。経営指標と診療を結びつけて課題を探っていくと、やはり経営にとって良くない項目に目が付きます。例えば、「ある診療科の収益はあがっているが、ほかの診療科の収益は頭打ち」というような状況です。ただ、こうした課題は季節や地域の役割、院内の人的リソースなど複数の要因が絡んでいます。単純に院内の他の診療科を比較して評価することはできません。
そこで重要なことは、できるだけ同じ条件の他病院と比較するベンチマーク分析です。こうすることで院内の診療科を別の診療科と比べたり、ある診療科を過去のデータと比較したりするだけではなく、全国の他病院の同じ診療を比較対象として、その課題は本当に課題なのか、「変えどころなのか否か」を正しく精査することができます。
平均在院日数などの経営指標についてもそのことは言えます。たとえ平均在院日数を1日短縮できたとしても、そもそも平均在院日数が他病院と比べてかなり長い病院であれば、短縮それ自体に価値はあるものの、さらなる短縮が求められます。こうした経営指標の中で個人的に最も難しいと感じるのは「1日単価」です。1日単価は「収益÷在院日数」で求めることができますが、疾患構成、出来高算定、係数、在院日数など複数の要素が影響してきます。これら複数の要素の中から何が正しい課題なのかを診療現場との対話の中から導き出せるかどうかは、経営改善の担当者の腕の見せどころでもあります。
対策は方針ではなく「行動の変更」
「変えどころ」が決まったら、最後のステップの「明日から何を変えるのか?」を関係者のすべてが把握できるように具体的な対策にまで落とし込みます。対策とは方針ではなく「行動の変更」なので、「誰が」「いつ」「何を」「どうやるか」まで細かく落とし込み、さらには実行した成果を振り返る機会を定期的に持つことが必要です。これを最初にしっかりと決めておかないと、改善案が抽象論で終わったり、期待していた成果が出なかったり、現場に意図がうまく伝わっていなかったりします(以下図表)。
例えば、課題が「集患」となった場合。具体的な対策を最初に決めておかないと、「患者は集まったが期待していた成果につながらない」「そもそも患者が集まらない」「大変すぎて担当者が体調を崩してしまった」などの状況に陥りがちです。当社が集患のコンサルティングをする場合は、「診療したい患者を効率よく集める『戦略的集患』をするために、『誰が』『いつ』『何を』『どうやるか』を最初に明確にしましょう」といつも言っています。具体的な「戦略的集患」の手順については、次回の記事の中でご説明させていただきます。
まとめと関連サービスのご紹介
経営と診療の現場が通じ合えない理由と「壁」を乗り越えるための3ステップを見てきました。縦割り組織の改善を促すために「壁を壊す」という表現を耳にすることがあります。個人的にはこの表現をあまり好ましく思っていません。病院は極めて専門性の高い職員の集団なので、どうしても「壁」と感じる場面はあります。ただ、この「壁」があるがために正しいと思うことができない状況は放置できません。この状況を改善する唯一の方法についてわたしは、「専門家たちの思いをつなぐ共通言語の仕組みを作ること」だと考えています。壁は壊すのではなく、残したまま、仕組みで乗り越えていきましょう。それをすることこそが、経営幹部にしかできない本当の意味での「経営」だと思っています。
ご興味がある方は以下の関連サービス、事例をご確認ください。また、本コラムのベースとなった病院経営に関するミニウェビナーは、原則、毎月開催しています。ご興味のある方は以下のイベントカレンダーをご確認ください。GHCクライアントの皆様は「病院ダッシュボードχ(カイ)」あるいは「病院ダッシュボードχ ZERO」にログイン後、画面右上の「学ぶ」→「オンデマンド動画」をクリックしてミニウェビナーの動画をご視聴いただけます。



