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薬剤師が患者と対面・電話でコミュニケーションをとり、適切な処方内容への変更を実現できた好事例—医療機能評価機構

2023.1.6.(金)

薬剤師が対面あるいは電話(コロナ患者)で患者と密接にコミュニケーションをとり、適切な処方内容への変更を実現できた—。

日本医療機能評価機構が1月5日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになっています(機構のサイトはこちら)。

薬剤交付時の説明では、「添付文書」などを確認して行うことが重要

日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、事例の集積・解析結果を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、薬剤師が薬剤交付時に誤った説明をしてしまった事例です。

40歳代の女性患者に更年期障害等の治療に用いる「エフメノカプセル100mg」1日1回就寝前が処方されました。薬剤師は患者から「就寝前の服用を忘れることが多いため、夕食後に服用してもよいか」と相談され、これに対し「夕食後に服用してもよい」と返答しました。しかし、患者が夕食後に服用したところ傾眠やめまいの症状が現れたため、処方医に経緯を報告し、同剤の服用は一時中止となりました。その後再開になり、患者は指示通り「就寝前」に服用しています。同罪の添付文書には「食後に本剤を投与した場合、Cmax(最高血中濃度)およびAUC(薬剤の吸収率を示す指標)が上昇するとの報告がある。食事の影響を避けるため食後の服用は避ける」旨が明記されています。

事例の背景には「新しく取り扱う薬剤に関する知識が不足していた」「服用方法について説明する際、添付文書等を見て薬剤情報を確認しなかった」ことが挙げられます。

機構では、▼薬剤の飲み忘れなどの相談を受けた際は、添付文書やインタビューフォーム、医療従事者・患者向け資材などに基づき適切に服薬指導を行う必要があり、最新の情報を常に閲覧できる環境 を整えたり、薬局で新しく取り扱う薬剤について研修を行うなどして理解を深めておく▼飲み忘れや 飲み間違いなどがあれば、生活リズムなどの患者背景を聴取して要因を洗い出し、服薬コンプライアンス・アドヒアランスが改善するよう支援を行う▼支援を行っても服薬コンプライアンス・アドヒアランスが改善せず、処方変更の必要があると判断した場合 は、処方医に患者の服薬状況や薬剤に関する情報を提供し、服用方法や他剤への変更を提案する—ことなどをアドヴァイスしています。



2つ目は、薬剤師の患者の状況を確認し「必要性が低いにも関わらず、漫然と投与されていた薬剤」の投与を削除した事例です。

ある患者に、▼非がん性の慢性疼痛治療などに用いる「トアラセット配合錠」1日4錠・1日4回▼薬剤投与時の消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満、腹痛)抑制に用いる「ドンペリドン錠10mg『日医工』」1日4錠・1日4回—が継続して処方されていました。しかし、患者は吐き気がなかったため「ドンペリドン錠」は服用していませんでした。薬剤師は「現時点で吐き気がない」ことを確認したうえで処方医に情報提供。処方中止を提案した結果、「ドンペリドン錠」が削除になりました。

日本ペインクリニック学会による非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン 改訂第2版では、▼オピオイド鎮痛薬による悪心・嘔吐は、非がん性慢性疼痛患者の14-34%で見られ、対処する必要がある▼悪心・嘔吐は、耐性の形成により改善することが 多く、一般的には「制吐薬の長期投与」は不要である—旨が明記されていますが、患者は処方医に対して「吐き気はなく、ドンペリドン錠を服用していない」ことを伝えていませんでした。この点、薬剤師が患者から状況を聞き出し、適正な処方内容への改善が実現できています。

機構では、「副作用発現の予防・軽減目的で処方された薬剤が継続されている場合は、副作用好発時期を考慮したうえで、患者の服薬状況や副作用発現の有無を確認し、処方医にそれらの情報を提供して服薬継続の要否を確認することが重要」とアドヴァイスしています。



3つ目は、薬剤師が電話で「患者の副作用歴」を聞き出し、適切な内容に処方変更できた事例です。

医療機関の発熱外来で、新型コロナウイルス感染症患者に解熱鎮痛剤の「ロキソニン錠60mg」1日3錠・1日3回・毎食後7日分を含む薬剤が処方されました。患者は自宅療養を指示されたため、電話で服薬指導を行うことになりました。患者はこの薬局を利用したことがなかったため、副作用歴などを確認したところ「1年前にロキソニン錠の服用で腎障害が発現した」ことがわかりました。処方医に情報提供し薬剤変更を提案した結果、「カロナール錠500」1日3錠・1日3回・毎食後7日分へ変更となりました。

事例の背景には、医療機関の発熱外来が逼迫し「患者の副作用歴を確認できなかった」可能性が伺えますが、薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、必要な情報を聞き出して、適切な処方内容への変更が実現できています。

機構では、▼「0410対応」(患者が電話等による服薬指導等を希望する場合)あるいは「CoV自宅」、「CoV宿泊」と記載された処方箋を受けた場合には、とりわけ自局を利用したことがない患者の場合、来局しない患者に電話で 薬剤服用歴、既往歴・現病歴、副作用歴、アレルギー歴など、調剤するうえで必要な情報を丁寧に分かりやすく聴取るする必要がある▼今後オンライン服薬指導がさらに広がると予想され、オンラインの特性を理解したうえで有効に活用できるような体制の構築に取り組み、薬剤師が患者の個別の状況に応じて薬学的知見に基づき適切に対応できるよう業務手順を検討し、手順書を作成・周知しておく必要がある—とアドヴァイスしています。

同剤に関しては、▼流涙の副作用がある▼涙道閉塞により外科的処置に至った例も報告されていることから、流涙等の症状があらわれた場合には、眼科的検査を実施するなど適切な処置を行う—ことが示されています。本事例は、この副作用に関する知識を薬剤師が把握しており、医療機関の受診を勧奨した好事例と言えます。

機構では、▼一般用医薬品の販売は、使用者の症状や病歴、薬剤服用歴などを把握したうえで、適切に対応することが重要である▼近年、通院でがん化学療法を受ける患者が増えており、薬局薬剤師にはプロトコールに基づく薬物療法の管理が求められている。日頃から知識を深め、一般用医薬品の販売時にもその知識を活用することが重要である—とアドヴァイスしています。





薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、今年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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