薬剤師が専門知識を活かし、患者の検査値を確認、情報を聴取し「正しい処方内容への変更」がかなった好事例—医療機能評価機構
2023.7.5.(水)
薬剤師が、患者の検査値を確認し、また患者や家族から様々な情報を聴取して「処方内容に疑義」を持ち、それを放置せずに照会することで「正しい処方内容への変更」が実現できた—。
日本医療機能評価機構が6月29日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
外用副腎皮質ホルモン剤には「名称類似薬」が多い点に留意を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。
再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらとこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は「名称類似の薬剤を取り違えかけた」事例です。
患者に、アトピー性皮膚炎等の治療に用いる副腎皮質ホルモン剤の「クロベタゾン酪酸エステル軟膏0.05%」が一般名で処方された。しかし、調製者は誤って「クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏0.05%『MYK』」を取り揃えました。同じく副腎皮質ホルモン剤ですが、効能効果は「主として頭部の湿疹・皮膚炎群、乾癬」となっています。ただし、鑑査者が薬剤が間違っていることに気付き、「クロベタゾン酪酸エステル軟膏0.05%『テイコク』」を調製し直し、患者に交付することができました。
忙しい時間帯で、名称が類似した薬剤を「よく確認しない」ままに調製してしまったようですが、副腎皮質ホルモン剤のランクが前者は「IV群:ミディアム」ですが、後者は「I群:ストロンゲスト」であり、誤って交付してしまった場合には様々な問題が生じてしまうところでした。
機構では、▼外用副腎皮質ステロイド剤には名称類似薬が複数販売されており、「取り違えが起きやすい」ことを認識したうえで、名称を末尾まで確認し調剤を行うことが必要である▼取り違えが起きやすい薬剤の組み合わせについて薬局内で共有しておくことが有用である▼処方時にも薬剤の選択間違いが起きる可能性がある—とアドヴァイスしています。
2つ目は、「薬剤変更時に処方内容に誤りがあったことに薬剤師が検査値や患者家族ヒアリングから気付き、正しい処方内容に変更できた」好事例です。
ある患者に、▼心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫などの治療に用いる「アゾセミド錠30mg『JG』」0.5錠▼高血圧症や心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫などの治療に用いる「スピロノラクトン錠25mg『トーワ』」1錠—が処方されていましたが、前者のアゾセミド錠が中止となり、後者のスピロノラクトン錠が1.5錠に増量となりました。薬剤師が処方箋に記載された検査値を確認すると、血清カリウム値が5.5mEq/Lで、2週間前の4.6mEq/Lから上昇していました。また、患者家族から「血清カリウム値が上がっているので薬剤を調節する必要がある」と医師から説明があったことを薬剤師が聴取。しかし、スピロノラクトン錠は高カリウム血症の患者には禁忌である(高カリウム血症を増悪させるおそれがある)ことから、薬剤師は処方変更の内容を疑問に思い、疑義照会を行いました。その結果、スピロノラクトン錠が中止になり、前者のアゾセミド錠2錠に変更となりました。
今回の誤りは「処方医が、処方内容を変更する際に入力を誤ったもの」と推測できます。
機構では、▼利尿剤など、服用を継続することで電解質異常が起こる可能性がある薬剤が処方された際は、患者の検査値の推移を把握することが大切である▼薬剤服用歴に検査値を記録し、次回調剤を担当する薬剤師と情報を共有できるようにしておくことが重要である▼処方監査を行う際は、診察時の医師とのやり取りを含む「患者から聴取した情報」「検査値」「薬剤服用歴に記録した患者情報」など複数の情報から処方内容の妥当性を検討する必要がある—とアドヴァイスしています。
3つ目も、薬剤師が専門知識を活かし、医療機関に疑義照会を行ったことで「適切な処方内容への変更」がかなった好事例です。
以前より医療機関Aによる訪問診療を受けている患者の病状が悪化し、医療機関Bに入院しました。同院を退院後に初めて医療機関Aの処方箋を応需した薬剤師は、これまで処方されていた「イグザレルト錠15mg」(非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中・全身性塞栓症の発症抑制、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症)の治療・再発抑制に用いる)の記載がないことに気付きました。薬剤師は、患者から受け取った医療機関Bからの薬剤管理情報提供書やお薬手帳を確認したところ「退院後にイグザレルト錠が中止となる可能性は低い」と推測し、医療機関Aに問い合わせたところ、医療機関B→医療機関Aへ提供された診療情報提供書に「イグザレルト錠の記載がない」ことが分かりました。医療機関Aから医療機関Bに問い合わせを行った結果、診療情報提供書の記載漏れが判明し、イグザレルト錠が追加になりました。
薬局で受け取った医療機関Bからの薬剤管理情報提供書に誤りはありませんでしたが、医療機関Bから医療機関Aへ提供された診療情報提供書に誤りがありました。医療機関Bへの入院中に多くの薬剤が変更となり、診療情報提供書の記載が漏れた可能性があるようです。
機構では、▼「医療機関が変更になった時は処方漏れが起きる」可能性が高いことを考慮し、医療機関からの情報提供書やお薬手帳、患者から聴取した情報と処方内容を照らし合わせ、齟齬がないか確認することが重要である▼「入院した医療機関」と「退院後に処方を行う医療機関」が異なる場合は、医療機関間の情報伝達に間違いが生じる可能性も考慮し、入院前や入院中・退院時の処方内容を確認する必要がある▼処方内容に疑義があり、処方元の医療機関へ疑義照会を行っても疑義が解消されない場合は、「紹介元の医療機関への問い合わせ」も考慮することが望ましい—とアドヴァイスしています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
あわせて、昨年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
【関連記事】
薬剤師が製薬メーカーに「正しい情報」の問い合わせまでし、併用禁忌を回避できた好事例—医療機能評価機構
薬剤師・薬局は「薬学的疑義を解消しないままの薬剤交付」をしてはならず、適切に疑義照会をせよ!—医療機能評価機構
薬剤師・薬局は添付文書確認など徹底し、患者とコミュニケーションをとり「適切な服薬指導」を行うことが重要—医療機能評価機構
薬剤師・薬局は「患者が気軽に薬剤療法などについて相談できる」環境を日頃から整備することが重要—医療機能評価機構
薬剤師が専門知識を十分に発揮し「同時併用が適切でない薬剤の処方」を是正できた好事例—医療機能評価機構
薬剤師が患者と対面・電話でコミュニケーションをとり、適切な処方内容への変更を実現できた好事例—医療機能評価機構
薬剤師が患者の訴えから「抗がん剤の副作用」を疑い、医療機関の受診を勧奨した好事例—医療機能評価機構
薬剤師が「紹介先医療機関」だけでなく、「紹介元医療機関」にも確認し、適切な処方内容とできた好事例—医療機能評価機構
薬剤師が患者の過去の情報を活用し、医療機関にも積極的に働きかけ、「禁忌薬剤の処方」を回避できた好事例—医療機能評価機構
薬剤を調整する際、「レセコンへの誤入力」の可能性を考慮し、必ず「処方箋」に照らすことが重要—医療機能評価機構
薬剤師は「最新の専門知識」に加え、「患者とのコミュニケーション」をとって「適切な処方内容か」の確認徹底を—医療機能評価機構
「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局は経営が成り立たない—ような調剤報酬へ移管せよ
薬剤師は、最新の専門知識と患者・家族からの情報を踏まえ「適切な処方内容か」の確認を—医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり、専門知識も活かして「適切な処方内容」へ変更できた好事例—医療機能評価機構
複数薬効のある「デュロキセチン製剤」、「先発品と後発品」などの重複投薬に留意を—医療機能評価機構
薬局薬剤師が多忙で処方監査がおろそかになり「10倍量の過量投与」を見逃してしまった—医療機能評価機構
薬局薬剤師が患者・付き添い人とコミュニケーションとり、専門知識を発揮し「併用禁忌」など回避—医療機能評価機構
薬局薬剤師が患者とコミュニケーションとり、代替薬をエビデンス添えて提案して禁忌薬剤を回避—医療機能評価機構
薬局薬剤師が疑問を放置せず、処方医に加え病院薬剤部にまで疑義照会し「適切な処方内容への変更」を実現—医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり、専門知識を発揮して「適切な処方内容への変更」を実現—医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり処方内容改善や重複投薬阻止を実現できた好事例—医療機能評価機構
患者の薬剤服用歴を確認し「禁忌薬剤の処方」を食い止めることができた好事例—医療機能評価機構
「名称類似するが異なる薬剤」の処方を患者とのコミュニケーションで把握し、処方変更できた好事例—医療機能評価機構
併用禁忌等の不適切な処方内容を、薬剤師が専門知識・患者からの情報で見抜き、適正内容に変更した好事例—医療機能評価機構
「徐放性製剤の粉砕投与」リスクなどを薬剤師が主治医に説き、適切な処方内容への変更を実現―医療機能評価機構
患者とのコミュニケーションや薬剤服用歴を通じて「骨粗鬆症治療薬」の適正使用(重複回避など)に努めよ―医療機能評価機構
お薬手帳や患者とのコミュニケーション通じて「医薬品の併用禁忌」発見などに努めよ―医療機能評価機構
一般用医薬品販売においても、薬剤師は患者・主治医から情報収集し不適切な薬剤使用防止に努めよ―医療機能評価機構
薬剤師が、患者とのコミュニケーションで副作用発現を察知し、処方変更に結び付けた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が、医師の誤処方(薬剤名誤入力、禁忌薬処方)に気づき、適正な処方に結び付けた好事例―医療機能評価機構
医師が気づかなかった「危険な処方変更」を、薬剤師が専門性を発揮して回避し、副作用発生を防止できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「かかりつけ」機能発揮する好事例、専門知識に加え、患者の状態にも配慮―医療機能評価機構
薬剤師が添付文書を確認し「不適切な薬剤」「併用禁忌の薬剤」処方を阻止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師は、患者の検査値など多角的な情報から「副作用の兆候」確認を―医療機能評価機構
お薬手帳は医療従事者が処方内容確認のために使うこともあり、「毎回記録」が重要―医療機能評価機構
メトトレキサート、「休薬期間」「患者の腎機能」などを確認し、適切量等の処方・調剤を―医療機能評価機構
患者からの収集情報に加え、「検査値」を積極的に入手し、それに基づく処方監査を―医療機能評価機構
定期処方薬剤についても患者とコミュニケーションとり、「副作用発現の有無」を確認せよ―医療機能評価機構
薬剤師は添付文書等から「正しい服用方法」など確認し、当該情報を処方医にも共有せよ―医療機能評価機構
薬剤師は診療ガイドライン等通じて「薬物療法の広い知識」身につけ、患者にも丁寧な情報提供を―医療機能評価機構
薬剤師は「薬剤添付文書の確認」「患者の服用歴確認」「医師への既往歴確認」などを―医療機能評価機構
骨粗鬆症治療、外来での注射薬情報なども「お薬手帳」への一元化・集約化を―医療機能評価機構
薬剤師が患者の服用状況、添付文書内容を把握し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、薬剤の専門的知識を発揮して医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「患者の処方歴やアレルギー情報」を十分に把握し、医療事故を防止できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「薬剤の用法用量や特性に関する知見」を活用し、医療事故を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者とコミュニケーションとり、既往歴や入院予定を把握して医療事故防止―医療機能評価機構
薬剤師が薬剤の添加物を把握し、患者とコミュニケーションをとってアレルギー発現を防止―医療機能評価機構
薬剤の専門家である薬剤師、患者の検査値・添付文書など踏まえ積極的な疑義照会を―医療機能評価機構
高齢患者がPTPシートのまま薬剤を服用した事例が発生、服用歴から「一包化」等の必要性確認を―医療機能評価機構
薬剤師の疑義照会により、薬剤の過量投与、類似薬の重複投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が多職種と連携し、薬剤の過少・過量投与を回避できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の訴え放置せず、メーカーや主治医に連絡し不整脈など発見できた好事例―医療機能評価機構
薬剤師が併用禁忌情報等に気づき、処方医に疑義照会した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が患者の腎機能低下に気づき、処方医に薬剤の減量を提案した好事例―医療機能評価機構
薬剤師が「検査値から患者の状態を把握」し、重大な副作用発生を防止した好事例―医療機能評価機構
薬剤師も患者の状態を把握し、処方薬剤の妥当性などを判断せよ―医療機能評価機構
複数薬剤の処方日数を一括して変更する際には注意が必要―医療機能評価機構
どの医療機関を受診しても、かかりつけ薬局で調剤する体制を整備―厚労省「患者のための薬局ビジョン」
病院入院前の薬剤状況確認、入院中の処方変更、退院後のフォローなど各段階で「ポリファーマシー対策」を―厚労省
外来や在宅、慢性期性期入院医療など療養環境の特性踏まえ、高齢者への医薬品適正使用を―厚労省
外来・在宅、慢性期医療、介護保険施設の各特性に応じた「高齢者の医薬品適正性」確保を―高齢者医薬品適正使用検討会
医師と薬剤師が連携し、高齢者における薬剤の種類・量の適正化進めよ―高齢者医薬品適正使用検討会