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薬剤師・薬局は「薬学的疑義を解消しないままの薬剤交付」をしてはならず、適切に疑義照会をせよ!—医療機能評価機構

2023.5.2.(火)

薬剤師が「患者が注射薬の使用法を誤っている」ことに2か月間、気づけなかった—。

患者が「名称の類似した」薬剤の処方誤りについて、違和感を持ったものの疑義照会せずに交付してしまい、患者が一部を服用してしまった—。

日本医療機能評価機構が4月27日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになっています(機構のサイトはこちら)。

コロナ治療薬について「処方量誤り」などが多発、不慣れな医薬品の処方・調剤は慎重に

日本医療機能評価機構では、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、「患者が正しい手法で薬剤を使用していない」ことに2か月かかって気づいた事例です。

ある患者に対し、「2か月前」に2型糖尿病治療薬の「ゾルトファイ配合注フレックスタッチ」が初めて処方されました。その後、血糖値が改善しなかったため、たびたびドーズ数が増量になり、今回の処方でも増量されていました。薬剤師が薬剤交付の際、患者に注射の手技について確認したところ「針ケースのみ外し、針キャップをしたまま皮膚に押し当てていた」ことが分かりました。これでは薬液が体内に注入されません。薬剤師が処方医に状況を伝えたところ「今回は増量せずに様子を見る」ことになりました。

機構では、「注射薬を初めて交付する際に、薬剤師が患者に注射の手技等を確認していれば、『2か月もの間、薬剤投与が事実上行えていなかった』事態を防ぐことができた」可能性があるとし、▼患者に注射薬が処方される際は、処方した医療機関でデバイスや注射針の取り扱い、注射の手技に関する指導を行うが、薬局でも「患者が説明された内容を正しく理解しているか、手技に不安や疑問はないか」を確認し、患者が適切に自己注射を行うことができるよう支援する▼デバイスや注射針の取り扱い、注射の手技など、注射薬に関する患者の理解が不十分な場合は、患者指導用資材やデモ器を活用し、患者が理解しやすいように補足説明する▼注射薬交付後も適宜フォローアップを行い、患者が適切にデバイスを取り扱い、指示された単位数・ドーズ数を注射できているかを継続的に確認すること▼自己注射チェックリストなどを利用して確認する—ことなどをアドヴァイスしています。



2つ目は、コロナ治療薬の「処方量誤り」を防止できた好事例です。

ある患者にコロナ感染症重症化防止薬の「ラゲブリオカプセル200mg」が1日800mg・1日2回として処方されました。しかし、薬剤師はラゲブリオカプセル200mgの1日量が「1600mg」であることを確認し、処方医に疑義照会した結果、「1日1600mg・1日2回」に変更になりました。

機構には、「ラゲブリオカプセルの処方量間違い」事例が数多く報告されており、この背景には、「ラゲブリオカプセルは一般流通が開始された直後であり、処方医の薬剤に関する知識が不十分」「ラゲブリオカプセルを処方したことがない医師からの処方」などがあります。

機構では「薬価収載されて間もない新医薬品が処方された際は、処方医、調剤する薬剤師ともに薬剤に関する知識が不十分である可能性を認識し、薬剤師は、添付文書やインタビューフォーム、製薬企業から提供される適正使用ガイドなどから必要な情報を収集、確認したうえで調剤を行うことが重要である」とアドヴァイスしています。



3つ目は、「類似した名称」の異なる薬剤が処方されたことに気づけなかった事例です。

70歳代の患者に解熱鎮痛剤「アセトアミノフェン錠200mg」が1回2錠・1日1回7日分として処方されましたた。薬局薬剤師が、患者から「左腰部に発疹があり受診したところ、医師から帯状疱疹と診断されたが、痛みはない」ことを聴取。薬剤師は「処方された薬剤」と「患者から聴取した内容」が一致しないことに違和感がありましたが、「指示通りに服用する」よう説明し、アセトアミノフェン製剤である「カロナール錠200」を交付しました。その際、患者へ「疑わしい点があれば医療機関に確認する」ことも併せて伝えた。後日、医療機関から連絡があり「アメナリーフ錠200mg」の入力間違いであることが分かり、患者に連絡を取りましたが「すでに2錠服用している」ことが分かりました。

事例の背景には、▼いずれの薬剤も、頭文字の「ア」と末尾の「錠200mg」が同じであり、医師が入力を誤りやすかった▼いずれの薬剤も「帯状疱疹」の患者に使用される可能性があった▼繁忙期である年末の昼前の時間帯であった▼患者がため、多くの患者で混雑していた。当該患者は、混雑している 医療機関で長時間長い待ち時間のためにイライラしていた▼薬剤師は「患者に早く薬剤を交付しなければならない」と焦り、違和感があったが疑義照会しなかった—ことが複雑に絡みあっています。

機構では、▼薬学的疑義を解消することなく、患者に薬剤を交付してはならない▼疑義照会を行う際は、患者に「その必要性」「薬剤交付までに時間がかかる」ことを十分に説明し、理解を得る▼日頃から「疑義照会を行う場合がある」ことについて待合室に掲示するなどの啓発を行っておく▼疑義照会も含め「調剤に関する決められた手順を理解し、遵守」する—ことを求めています。





薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、今年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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