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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

薬剤師・薬局は「患者が気軽に薬剤療法などについて相談できる」環境を日頃から整備することが重要—医療機能評価機構

2023.3.14.(火)

薬剤師が患者と話す中で「自己判断で薬剤を減量している。その旨を医師には伝えていない」ことが判明。薬剤師から処方医へ報告し、適切な処方内容へ変更できた—。

日本医療機能評価機構が3月9日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになっています(機構のサイトはこちら)。

透析中患者には「服用してはいけない一般用医薬品がある」ことの丁寧な説明が必要

日本医療機能評価機構では、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局を対象に「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちらこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、「薬剤の取り違え」が生じてしまった事例です。

気管支喘息等の治療に用いる「スピリーバ2.5μgレスピマット60吸入」を継続使用している患者が処方箋を持って来局しました。患者に薬剤を見せながら交付した際、患者から「前回もらった吸入薬と色が違う」と言われました。確認すると、「前回、誤って慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状緩和に用いる『スピオルトレスピマット60吸入』を交付していた」ことがわかりました。患者に有害事象等の発現がないかを確認したうえで、処方医へ状況を報告しています。

この薬局では、気管支喘息等治療薬「スピリーバ」とCOPD症状緩和訳「スピオルト」とを離れた場所に保管することで取り違え防止の対策を行っていました。しかし、▼前回交付時は忙しい時間帯であり調製者に焦りがあった▼両剤は名称が類似していた▼使用するデバイスの形状も同一であった—ため、鑑査者も取り違えに気付かなかったと考えられます。

機構では、取り違え防止のために、▼薬剤の保管場所を離すだけでなく、それぞれの薬剤棚に「スピリーバとスピオルトの取り違え注意」と表示するなど具体的に注意を促すような対策を講じる▼鑑査時に「薬剤を処方箋と照合する」、交付時に「患者と一緒に薬剤を確認する」など、調剤における各工程で確認を行う—ことなどが重要とアドヴァイスしています。



2つ目は、薬剤師が「患者が自己判断で薬剤を減量している」ことに気づき、適切な処方内容へ変更できた好事例です。

継続して血栓塞栓症の治療薬「ワーファリン錠」を服用している患者が、薬局に処方箋を持参しました。処方箋を確認したところワーファリン錠の1日量が4.75mgから5mgに増量になっていました。薬剤交付時に患者から「以前、ワーファリン錠を1日5mg服用していた際に鼻血と結膜下出血があり、1日4.75mgに減量になった。しかしその後も同様の症状が続いたため、自己判断でワーファリン錠を4mgに減量し、約3か月間服用している」ことを聴取しました。患者は「減量して服用している」ことを処方医へ伝えておらず、処方医は「PT-INRの値を踏まえ増量した」と考えられました。薬剤師が、患者から聴取した内容を処方医へ伝えた結果、ワーファリン錠の用量が1日4.25mgへと変更になりました。あわせて薬剤師から患者へ「ワーファリン錠の用量を自己判断で変更することは危険である」と説明しています。

患者が「自己減量」していた背景には「ワーファリン錠が1日4.75mgに減量された後も副作用による症状が気になっていることを医師に伝えていたが、医師がワーファリン錠の投与量を変更しなかった」ことがあるようです。患者の訴えにきちんと耳を傾け、分かりやすく丁寧に説明することが重要だと再認識できる事例ですが、患者にとっては「医師には話しにくい」ことも「薬剤師には話せる」ことが少なくありません。

機構では、患者が安全に服薬を継続できるよう、薬剤師は日頃から▼「患者が薬物療法に関していつでも気軽に相談できる」関係を築く▼服薬状況や副作用発現などの情報を収集する▼患者に薬剤を交付した後は、必要に応じて服薬状況や副作用の有無、薬物療法における不安や疑問の有無などを確認し、適切なフォローアップを行う—ことが重要とアドヴァイスしています。本事例でも、「患者の自己減量」に気づくまでに3か月もかかっており、「より気軽に相談できる体制」づくりに期待が集まります。



3つ目は、一般用医薬品の不適切販売を阻止できた事例です。

薬局に来局した50代男性から、「胃もたれや胸やけなどに効く『スクラート胃腸薬』を服用してよいか」と薬剤師に相談がありました。薬剤師が、男性のお薬手帳を見て服用中薬剤を確認したところ、高カリウム血症改善薬「ポリスチレンスルホン酸Ca」(旧名称「アーガメイト」)と高リン酸血症治療剤「カルタン」を服用していることが分かり、さらに透析療法を受けていることも聴取できました。薬剤師は「 スクラート胃腸薬は透析療法を受けている人は服用できない」ことを伝え、代替薬として「新セルベール整胃プレミアム」を紹介し、販売しました。

機構では、▼一般用医薬品を販売する際は、お薬手帳や購入者から聴取した情報をもとに「希望製品使用が適切か」を判断し、不適切な場合には代替薬提案や受診勧奨を行う▼一般用医薬品を購入する際に適切な情報を得られるように、「薬剤師への相談を促す」ための注意書き掲示などを行う▼透析中患者の処方箋を応需した際は、交付する薬剤の説明だけでなく、「服用を避けなければならない一般用医薬品がある」ことも伝え、一般用医薬品の購入・服用前に主治医や薬剤師に相談するよう指導する—ことが重要とアドヴァイスしています。





薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、今年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2021年)3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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