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薬剤師が「患者の生活情報」を把握し、また専門知識を活かして、適切な処方内容へ変更できた好事例—医療機能評価機構

2023.11.1.(水)

薬剤師が「患者の生活情報」を把握し、また専門知識を活かして「疼痛レスキュー薬」の量を計算し、適切な処方内容へ変更できた—。

日本医療機能評価機構が10月26日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

薬剤調製前に、調剤指示書などで「レセコン入力内容」と「処方箋内容」との照合を

日本医療機能評価機構では、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は「秤量間違い」事例です。

小児患者に抗菌剤の「サワシリン細粒10%」1日6g・1日3回毎食後が処方されました。患者家族が後発医薬品を希望したため、入力者はレセプトコンピュータに「ワイドシリン細粒20%」1日3gと入力しました。調製者は、調剤指示書を見て、「取りそろえる薬剤をワイドシリン細粒に変更する」ことは確認しましたが、「含量規格が20%の製剤へ変更されている」ことに気付かず、「ワイドシリン細粒20%」を処方箋に記載されてしまい、「1日6g」で秤量してしまいました。鑑査者が、調製されたワイドシリン細粒20%の1日量の力価が処方量の2倍になっていることに気付き、調製者に再調製するよう伝えることができました。

事例の背景には、調製者が薬剤師歴1年目であり「サワシリン細粒からワイドシリン細粒に変更して調剤する際に、含量規格が異なる製剤へ変更が可能であることを知らず、同じ10%の製剤だと思って調製してしまった」ことがあるようです。

機構では、▼薬剤の調製を行う前に、調剤指示書などを用いて「レセコンに入力された内容」と「処方箋の記載内容」とを照合する(薬剤の規格や秤量する量を処方箋と照合するなど)▼レセコン入力時に「含量規格が異なる製剤に変更」した場合は、入力者から調製者に「薬剤の規格や秤量する量を変更した」ことを伝えるなどの手順を薬局内で取り決め、遵守する▼調剤経験が浅い薬剤師に対して、入職時に薬局の調剤に関する業務手順について教育する体制を構築しておく▼処方された薬剤の規格変更を行う際は、処方箋に「規格変更」などの注意喚起の札を添付するなどの具体的な対策を講じる—といった点をアドヴァイスしています。



2つ目は「レスキュー薬の投与量誤り」に薬剤師が気付き、適切な内容に変更できた好事例です。

ある患者に、中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛に用いる▼「オキシコドン徐放カプセル5mg」1回1カプセル・1日2回7日分▼「オキノーム散5mg」1回1包・疼痛時20回分—が初めて処方されました。通常、オキノーム散をレスキュー薬として使用する際の1回量は「定時投与するオキシコドン塩酸塩経口製剤の1日量の1/8から1/4」ですが、処方されたオキノーム散の1回量は「オキシコドン徐放カプセルの1日量の1/2である」ことに薬剤師が気付きました。レスキュー薬の用量について疑義照会を行った結果、「オキノーム散2.5mg」に変更となりました。

事例の背景には、処方医は「処方入力の際に規格を確認しなかった」可能性が伺えます。

機構では、▼通常、レスキュー薬として処方されるオピオイド鎮痛薬の1回量は「定時投与中のオピオイド鎮痛薬の1日量」を基準に決められるため、レスキュー薬が処方された際は、「定時投与量をもとにレスキュー薬の1回量が妥当であるか検討を行う」ことが重要である▼薬剤師は、添付文書やインタビューフォーム、厚生労働省の「医療用麻薬適正使用ガイダンス」などを活用し、日頃からオピオイド鎮痛薬に関する知識を深めておく必要がある—とアドヴァイスしています。



3つ目は、「来局者の症状から医療機関受診を勧奨した」好事例です。

鼻汁が出るため医療機関を受診した患者に、アレルギー性鼻炎等の治療に用いる【般】「オロパタジン塩酸塩錠5mg」1回1錠・1日2回朝・就寝前が処方されました。薬剤師は患者から「自動車の運転を行う仕事に就いている」ことを聴取しました。ところで「オロパタジン塩酸塩錠5mg『ZE』の添付文書には「眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう十分注意する」旨の記載があるため、薬剤師から処方医へ疑義照会。その結果、同様の効能を持つが、重要な基本的注意などにそうした記載のない【般】「フェキソフェナジン塩酸塩錠60mg」1回1錠・1日2回朝夕食後に変更となりました。

事例の背景には、医療機関側では「患者の具体的な生活状況まで聴取していなかった」可能性が伺えます。こうした「生活状況の徴収」を十分に行い、より適切な処方内容に変更することも薬剤師にとって極めて重要であることが、今回の好事例から確認できます。

機構では、▼添付文書に「自動車運転等の禁止」などの記載がある薬剤が処方された際は、患者の生活状況の情報を入手し「自動車等の運転や危険を伴う作業への従事がないか」を確認し、処方薬剤の適否を検討する▼自動車の運転や高所作業への従事などに関する情報を得るために、新規患者アンケートの質問項目などを工夫し、得られた情報は薬局内で共有する—ことが重要であるとアドヴァイスしています。





薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、昨年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は2021年3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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