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薬剤師が患者から諸情報を収集し、適正な処方内容(薬剤の減量、禁忌薬の回避、中止すべき薬剤の中止)を実現—医療機能評価機構

2025.2.26.(水)

薬剤師が患者とコミュニケーションをとって様々な情報を収集し、適正な処方内容(薬剤の減量、禁忌薬の回避、中止すべきだが中止されていなかった薬剤の中止)を実現できた—。

日本医療機能評価機構が2月25日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

患者の既往歴などを薬剤師が聴取し、禁忌の薬剤処方を回避できた好事例

日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。

再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。

1つ目は、薬剤師が患者とコミュニケーションをとって現在の状況を詳しく確認した結果、「適正な投与量」に修正できた好事例です。

ある薬局で、塞栓防止薬の「エリキュース錠5mg」1回1錠・1日2回を継続服用している、非弁膜症性心房細動の患者の処方箋を応需しました。前回来局時から今回までの間に、患者は80歳になっていたため、薬剤師が患者に「気になる症状がないか」を確認したところ、「紫斑が出現している」ことを聴取し、さらに「現在の体重は42kgである」「血清クレアチニン値は0.66mg/dLである」ことを確認しました。患者の年齢・体重が「エリキュース錠の減量基準」に該当するため、薬剤師が処方医へ疑義照会を行った結果、「エリキュース錠2.5mg」1回1錠・1日2回に減量となりました。

事例の背景には、主治医が「患者の年齢と体重が変化したことにより、エリキュース錠の減量基準に該当している」ことに気付かなかった点があげられます。

機構では、▼非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中・全身性塞栓症の発症抑制を目的にエリキュース錠を使用する場合には「減量基準」があるため、薬局で処方監査を行う際は「用量が標準的であるか」の確認、「患者の状態が減量基準に該当しないか」の確認が必要である▼一般に「高齢者は腎機能が低下し、エリキュース錠の血中濃度が上昇するおそれがあるため、特に注意して用量の確認を行う」ことが重要である▼患者に初めてエリキュース錠が処方された時に減量基準に該当していなくても、「服用を継続している間に患者の年齢や体重、腎機能が変化し、減量基準に該当することがある」ため、薬剤師は「エリキュース錠を服用している患者の年齢や体重、腎機能の変化を定期的に把握する」ことが重要である—とアドヴァイスしています。



2つ目も、薬剤師が患者とコミュニケーションをとり「禁忌の処方」を是正できた好事例です。

排尿障害で医療機関を受診した患者に、前立腺肥大症に伴う排尿障害治療に用いる「ザルティア錠5mg」が初めて処方されました。薬剤師が患者のお薬手帳を確認したところ「塞栓形成抑制に用いるバイアスピリン錠100mgを服用中」であることがわかり、薬剤師が患者に既往歴を確認したところ「2か月前に脳梗塞を発症していた」ことが確認できました。ザルティア錠の添付文書では「脳梗塞・脳出血の既往歴が最近6か月以内にある患者」は禁忌とされており、薬剤師が処方医に疑義照会した結果、「セルニルトン錠」に変更となりました。

本事例の背景にも「処方医の確認不足」があります。

機構では、▼ザルティア錠が処方された際、併用薬に抗凝固薬や抗血小板薬などがあれば、「心筋梗塞や脳梗塞・脳出血の既往があるか、発症時期はいつか」を聴取する必要がある▼処方された薬剤の病態禁忌に患者が該当するか否かを検討するために、薬剤師は患者の既往歴や現病歴、検査値などを把握しておくことが重要であり、「情報を収集する手順」などを決めて薬局内に周知し、漏れなく確認する必要がある—とアドヴァイスしています。



3つ目は、「オピオイドの中止」指示があり不要となった薬剤が中止漏れとなっていたことに薬剤師が気付いた好事例です。

ある患者に、▼中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛などに用いるオピオイドの「オキシコンチンTR錠」▼オピオイド誘発性便秘症の防止に用いる「スインプロイク錠0.2mg」が継続して処方されていましたが、疼痛が改善したためオキシコンチンTR錠が中止になりました。しかし、スインプロイク錠が継続処方されたため、薬剤師が処方医に疑義照会を行ったところスインプロイク錠も中止となりました。

事例の背景には、処方医がオキシコンチンTR錠を中止した際、スインプロイク錠を中止することを失念したと考えられます。

機構では、▼スインプロイク錠0.2mgは「オピオイドの副作用」(オピオイド誘発性便秘症)防止のために処方されるため、オピオイド投与を中止する際はスインプロイク錠0.2mgも中止する必要がある▼薬剤師は、薬剤の作用機序などの特性を理解したうえで処方監査を行うことが重要であり、そのためには、日頃から薬剤に関する知識を深めておく必要がある—とアドヴァイスしています。



薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つことが重要です(関連記事はこちら)。

あわせて、2022年7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。

とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。



こうした考え方も踏まえて、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経営的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。

「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。

さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身に花素子を聞いてくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。



なお、厚労省は昨年(2024年)7月22日に▼「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」の改訂▼「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」の策定—を行っています。病院、クリニック、薬局が連携して「地域ごとに、関係者が面でポリファーマシー対策を進める」ことの重要性を強調しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。



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