薬剤師が専門知識を活かし、また患者・家族とのコミュニケーションにより「規格間違い」の処方内容を是正できた好事例—医療機能評価機構
2024.6.27.(木)
複数の規格がある薬剤について、薬剤師が専門知識を活かし、また患者・家族とのコミュニケーションにより「規格間違いではないか」と疑念を持ち、処方医に疑義紹介をした結果、処方内容を是正できた—。
日本医療機能評価機構が6月25日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」から、こういった重要知見が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
薬局でも「患者の取り違え」が生じる可能性がある点に留意を
日本医療機能評価機構は、保険薬局(調剤薬局)における医療安全の確保・向上を目指した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」も展開しています。全国の保険薬局から「患者の健康被害等につながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例」(ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を求め、重要な事例の集積・解析・公表を踏まえて「再発防止」を目指すものです。
再発防止の一環として、ヒヤリ・ハット事例の中から、医療安全確保のために有益な情報を「共有すべき事例」として定期的にピックアップ・公表しています(最近の事例に関する記事はこちら)。今般、新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は「異なる患者に薬剤を交付してしまった」、つまり患者を取り違えてしまった事例です。
薬剤師が薬剤を交付するため女性患者「X」の氏名を呼んだ際、男性患者「Y」が投薬カウンターに来ました。薬剤師は「患者Xの家族が薬剤を取りに来た」ものと思い込み、薬剤を患者「Y」に交付した。その後、待合室にいた女性患者「X」から「薬はまだですか」と聞かれたため、未交付の薬剤を確認したところ患者Yの薬剤が残っており、患者Yに患者Xの薬剤を間違って交付してしまったことに気付きました。
事例の背景には、▼薬局内が混雑し、薬剤師に焦りがあった▼患者Yは難聴であった▼患者Yは急いでおり、薬剤交付の際に説明を聞いていなかった—ことなどが複雑に関係しています。
患者誤りは重大な健康被害を引き起こす可能性もあり、機構では▼薬剤交付の際は、薬剤を受け取りに来た患者や代理人から受診の目的・症状や経過などの必要な情報を聴取し、聴取した症状や病状に照らし「薬剤が適正であるか」を検討する▼患者確認を行うための具体的な手順を薬局内で定めて運用する▼薬剤交付の際は、薬袋や薬剤情報提供書に記載されている氏名を患者と一緒に確認する▼受付時に引換番号札を渡して、交付時に確認する—などの点をアドヴァイスしています。
2つ目は「外観が類似する分包品」を取り違えてしまった事例です。
ある患者に、一般名処方で気管支喘息等治療薬の「カルボシステイン錠」500mg・1回1錠・1日3回毎食後・7日分が処方されました。出荷調整の影響で「カルボシステイン錠500mg」の在庫がなかったため、薬剤師は、処方医に「規格変更をしてよいか」と問い合わせを行った結果、「カルボシステイン錠」250mg・1回2錠・1日3回毎食後・7日分へと変更となりました。問い合わせを行った薬剤師から、変更内容を聞いた入力者は、変更後の薬剤の規格、錠数をレセコンに「正しく入力」しました。入力者が調製を行ったところ、カルボシステイン錠250mgを「42錠」(2×3×7)を取り揃えるべきところ、誤って「21錠」を取り揃えた。鑑査者が確認した際に「錠数が足りない」ことに気付きました。
事例の背景には、「処方変更になった際は、問い合わせた内容と結果を処方箋の備考欄に記載するという当該薬局の手順に従わなかった」「入力者が調製を行ったが、処方箋に記載されていた元の「1回1錠1日3回毎食後7日分」を見て21錠を取り揃えてしまった」ことがあります。
機構では、再発防止に向けて▼処方医に問い合わせを行った際は、問い合わせた内容と結果を速やかに処方箋の備考欄などに記録し、関係スタッフ全員と情報を共有できるようにする▼処方内容が変更になった際、「取り揃える薬剤の規格や剤形、錠数が記された指示書」などを調剤時に補助的に活用する▼調剤手順を、スタッフに周知し、常時確認できるようにしておくこと▼鑑査は「交付前の最終確認」と強く意識し、処方内容や調製された薬剤、薬袋・薬剤情報提供書の記載内容などを確認する—ことが重要と提言しています。
3つ目は、薬剤師が専門知識を活かし、また患者・家族とコミュニケーションをとり「規格間違い」の処方を是正できた好事例です。
医療機関の小児科医から小児患者にアトピー性皮膚炎治療薬の「モイゼルト軟膏1%」が初めて処方された。同罪の添付文書には「通常、小児には0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。症状に応じて1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布することができる」と記載されています。薬剤師は患者家族から「他院での処方歴もなく、初めて使用する薬剤である」ことを聴取し、「小児に対しても1%製剤は使用できるものの、確認する必要がある」と考えて、念のために処方医に疑義照会。その結果、「1%製剤」から「0.3%製剤」へと処方変更することがかないました。
事例の背景には「医師がモイゼルト軟膏の用法・用量を把握していなかった」可能性があります。
機構では、▼モイゼルト軟膏は、小児には「通常0.3%製剤」を使用するが、症状に応じて「1%製剤」の使用も可能であるため、小児に処方されたモイゼルト軟膏の規格に疑義が生じた場合は、使用歴や診察時の医師とのやり取りなどを患者家族から聴取したうえで、処方医に問い合わせを行う必要がある▼薬局で新規に薬剤を採用する際、薬剤の適正使用や取扱い、使用上の留意点などに関する勉強会を行うなど、スタッフの知識獲得の機会を設けて、適切な処方監査環境を整えることが有用である—とアドヴァイスしています。
薬局・薬剤師には「対物業務」から「対人業務」への移行が求められ、いわゆる「かかりつけ薬局・薬剤師」が▼服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導▼24時間対応・在宅対応▼かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—の機能を持つべきことが重要です(関連記事はこちら)。
あわせて、昨年(2022年)7月には「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」が、▼「対物業務のみ・対人業務に力を入れない」薬局経営が成り立たないような調剤報酬へ移管する必要がある▼「対物業務の効率化」のため、まず「一包化業務の他薬局」への外部委託認可を検討する▼「ICT化・DX対応」を進めるとともに、薬局薬剤師は「地域の多職種や、病院薬剤師と顔の見える関係」構築に努める必要がある—との考えをまとめています(関連記事はこちら)。
とりわけ高齢者においては多剤投与が健康被害を引き起こす可能性が高く(ポリファーマシー)、厚生労働省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」および「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を取りまとめ、注意を呼び掛けています。とくに外来医療等では、患者のそばに常に医療従事者がいるわけではないことから、保険薬局(調剤薬局)のかかりつけ機能が極めて重要となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。3つ目の事例は、薬局薬剤師によるポリファーマシー対策実践の重要事例と言えます。
こうした考え方を先取りし、2018年度の調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)の新設▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的にサポートする基盤が整備され、前回の2020年度改定での充実(例えば【服用薬剤調整支援料2】の新設など)、今回の2022年度改定での充実(例えば「調剤料の処方日数に応じた評価の見直し」や「調剤管理料の新設」など)も図られています。
「疑義照会=点数算定」という単純構造ではないものの(要件・基準をクリアする必要がある)、今回の事例のような薬剤師の素晴らしい取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価(評判)が高まり、診療報酬での評価にも結び付くでしょう。
さらに、患者から「あの薬局、あの薬剤師さんは親身になってくれ、お医者さんに問合せまでしてくれる」との良い評判が立つことが、薬局経営の安定化に非常に効果的です。
なお、厚労省は2021年3月31日に通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」を示しており、病院はもちろん、地域のクリニックや薬局と連携して「ポリファーマシー対策」を進めることの重要性を指摘しています。医療安全確保のためにも「地域連携」が極めて重要です。
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