高額療養費制度、長期療養者や低所得者に配慮した「自己負担限度額の引き上げ」を具体的に検討すべきでは—高額療養費専門委員会
2025.12.10.(水)
1か月あたりの医療費自己負担を一定程度に抑える「高額療養費」制度の重要性は論を待たないが、医療保険制度の持続可能性確保、負担の公平性確保という点から一定の見直しも必要となるのではないか。その際、長期療養患者や低所得者への配慮が必要となる―。
また、新たに「患者の年間自己負担上限」の仕組みを検討してはどうか―。
12月8日に開かれた「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(以下、専門委員会)で、こうした議論が行われました。さらに議論を深めます。
70歳以上高齢者の特性を踏まえた「外来特例」をどう考えていくべきか
Gem Medで報じているとおり、「高額療養費制度の見直し」論議が進められています。
我が国の公的医療保険制度(健康保険制度)では、患者は医療機関等の窓口で医療費の1-3割を負担します(残りの7-9割が保険から給付される)。しかし、入院して手術を受けたり、高額な医薬品を使用するなどして医療費が高額になることがあります。例えば2024年度の健保組合加入者では、1か月当たり医療費最高額は1億6871万3210円でした。約1億7000万円の3割は5100万円ですが、これを「自分自身で毎月負担できる」患者はごくごく稀でしょう。
このため、我が国の医療保険制度では「毎月の医療費自己負担を一定程度に抑える」(患者自身が支払える額に抑える)ための【高額療養費制度】が設けられています。

高額療養費の概要1(社保審・医療保険部会2 241121)

高額療養費の概要2(社保審・医療保険部会3 241121)
高額療養費制度は「安心して保険医療を受けられる」ための非常に重要な意味(セーフティネット機能)を持っており、「堅持すべき」との意見が大勢を示しています。一方で「医療保険財政が厳しい中で制度を見直してく必要性がある」との意見も強く、現在、専門委員会で見直し論議が進められています(これまでの議論に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
12月8日の会合では、厚生労働省保険局保険課の佐藤康弘課長から、これまでの議論を踏まえた「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」案が提示されました。次のような考え方が示されています。
【高齢化の進展や医療の高度化等により増大する医療費への対応】
▽医療保険制度はもとより、高額な医療を必要とする状態になった場合における極めて重要なセーフティネット機能である高額療養費制度を将来にわたって堅持していくためには制度改革に取り組んでいかなければならず、その際、「医療保険制度全体の改革」を進めつつ、その中で高額療養費の在り方を検討していくことが必要である
▽高額療養費制度を取り巻く課題や将来への制度の継承を確かなものとするためには、近年の高額療養費の伸び等に一定程度対応した形での自己負担限度額(以下、限度額)の見直しを行っていくことの必要性は理解する
▽限度額見直しに当たっては、「長期療養者の経済的負担の在り方」に十分配慮し、「短期療養者を中心に限度額を見直す場合」でも、低所得者への適切な配慮を行うことが必要である
【年齢にかかわらない応能負担に基づく制度の在り方】
▽現行の高額療養費制度の所得区分は、例えば年収約370万円の者と770万円の者が同じ区分に整理され、限度額も同じ取扱いとなっており、あまりにも大括りな制度と言わざるを得ず、「応能負担」の考え方を踏まえた制度設計という観点から改善の余地がある
▽所得区分を細分化(住民税非課税区分を除く1つ1つの所得区分を、さらに3区分に細分化)し、所得区分の変更に応じて限度額ができる限り急増・急減しないようにすることが適当である
▽その際、現在の限度額から著しく増加することのないよう応能負担の考え方とのバランスを踏まえた適切な金額(限度額)設定とすべきである。
▽70歳以上高齢者のみに設けられている「外来特例」については、高齢者の特性を踏まえると必要性は理解できるが、現役世代の保険料負担軽減という観点から「制度の見直し自体は避けられない」という方向性で概ね一致した
▽月額上限・年額上限のそれぞれについて応能負担という視点を踏まえた限度額の見直し(引き上げ)を行う
▽高齢者の健康寿命延伸、受療率低下などに鑑みて、医療保険部会における高齢者の負担の在り方の議論の状況を踏まえた上で「対象年齢(現在70歳以上)の引き上げ」も視野に入れて検討すべき
▽この点、「高齢者の負担の在り方の議論の動向を見極めた上で慎重な議論が必要」との意見や、「現役世代との公平性の観点から、将来的な廃止を含めて検討すべき」との意見がある
【セーフティネット機能としての高額療養費制度の機能強化】
▽長期療養者に配慮し、「多数回該当の限度額」は現行水準を維持するべき
▽仮に多数回該当以外の限度額を見直した場合、「限度額に到達しなくなり、長期療養が必要だが多数回該当から外れてしまう」者が発生するため、新たに患者負担に「年間上限」を設けることも考えられる。
▽こうした趣旨を踏まえると、「年間上限」対象者は、例えば「年に1回以上、現在の限度額に該当した者」とすることなどが考えられる
▽実務的な面でも精査が必要となるが、保険者におけるシステム面での対応が制約条件にならないよう「患者本人からの申出を前提とした運用」で開始することも含め、実現に向けた制度設計の詳細や課題を早急に整理すべき
▽例えば、年収200万円未満で「仕事と治療を両立している長期療養者」の経済的負担は非常に重いため、所得区分を細分化する際には、こうした者への経済的負担に「特に配慮」すべきとの意見もある
【その他】
▽高額療養費制度への意識を改めて喚起し、制度への理解を更に深めるため「高額療養費制度を利用した場合に、全体としてどの程度の医療費がかかっているのか、高額療養費としてどの程度の金額が還付されているのか」などの全体像の見える化を進めていくことが重要であり、実務的な対応も含めた検討を深めていくべき
▽疾病構造や治療の在り方が大きく変化していることを踏まえると、「特定疾病に係る特例」の在り方についても検討が必要との指摘があり、今後、医療保険制度全体を議論する場などでの検討が必要と考えられる
【まとめ】
▽具体的な金額(限度額)等については、医療保険制度改革全体の議論を踏まえて設定すべき
▽施行時期については、国民・医療関係者への周知、保険者・自治体の準備(システム改修等)などを考慮すると「一定の期間」が必要であり、「来夏(2026年夏)以降、順次施行できる」ように丁寧な周知等を求める
これまでの議論を踏まえたものであり、全体に対する異論・反論は出ていません。
ただし、例えば患者団体を代表する天野慎介委員(全国がん患者団体連合会理事長)や大黒宏司委員(日本難病・疾病団体協議会代表理事)からは次のような修正を求める意見が出ています。
▽新たな「年間の自己負担上限」案が示されており、これは良い方向である。しかし、これが求められる趣旨は「限度額が引き上げられ、高額療養費の対象とならなくなってしまうが、自己負担が相当程度高いままである者」を救済するためである。そうすれば、対象者を「年に1回以上、高額療養費の対象になる者」に限定することなどは好ましくない
▽「年間の自己負担上限」への該当について、難病患者等は申告が難しいケースも少なくないため、将来的には「自動的な適用」を検討してほしい
▽特定疾病(例えば人工透析、血友病、HIVなど)の取り扱いが盛り込まれているが、これまで当該患者の意見も聴取しておらず、また議論も十分に行っていない。論点のように取り上げるべきではない
▽退職・転職などで医療保険が変わった場合の「通算」制度なども検討項目に盛り込むべき
また、▼外来特例については、高齢者の健康状況改善等の状況や現役世代との公平性確保の観点から「廃止」に向けて議論すべきである。少なくとも高齢者の健康状況改善等を踏まえて、「対象年齢の引き上げ」を先送りすることは許されない(北川博康委員:全国健康保険協会理事長、佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理、山内清行委員:日本商工会議所企画調査部長)▼外来特例の将来的廃止は妥当と思うが、段階的な見直し・廃止が好ましい。低所得者は相対的に医療費負担が重くなっており、見直しにあたっては「限度額の引き下げ」を検討すべき(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)▼外来特例は、高齢者の特性を踏まえれば「維持」が妥当である。健康状態の改善に鑑みて「対象年齢の5歳引き上げ」(現行の70歳以上→75歳以上)を求める声もあるが、実態はせいぜい「2歳分の改善」にとどまっている。安易な対象年齢引き上げもすべきではない(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼段階を追った制度改正が必要である。激変は好ましくない(島弘志委員:日本病院会副会長)▼介護保険制度についても「高齢者の負担引き上げ」論議が進んでいる点に留意した検討が必要である―などの意見・注文がついています。
こうした意見も踏まえてさらに議論を進めていきます。
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