DPC病院の経営向上に向け、診療情報管理士の確保・クリニカルパスの導入使用・救急患者受け入れ等推進を—入院・外来医療分科会(2)
2023.4.25.(火)
DPC病院の中にも、データの精度向上に向けた「診療情報管理士の配置」を行っていない、医療の標準化・質向上・在院日数短縮に向けた「クリニカルパスの導入・使用」を行っていない、急性期医療の根幹となる「救急患者の受け入れ」を行っていないところが一部に存在する—。
4月24日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(中央社会保険医療協議会の下部組織、以下「入院・外来医療分科会」)では、こうした報告も行われました(2023年度におけるDPC機能評価係数IIの分布状況等に関する記事はこちら)。
DPCは「急性期入院医療」を包括評価するもので、各病院の取り組み状況を機能評価係数IIとして評価しています。上記のような「基本的な取り組みを怠る」病院では、機能評価係数IIが低くなり、病院経営にも支障が出てきます。多くの病院で基本的な取り組みをまず進めることが重要です。
目次
データの精度向上に向けた「診療情報管理士の配置」を行っていないDPC病院がある
入院・外来医療分科会では、▼入院医療の諸課題▼医師働き方改革▼かかりつけ医機能を含めた外来医療の諸課題▼感染対策—などの技術的検討を行い、次期診療報酬改定に関する中医協論議につなげます。
その一環として2022年度には「DPCに関する特別調査」が行われました(関連記事はこちら)。「機能評価係数IIの上位50病院・下位50病院のそれぞれで、取り組みにどのような違いがあるのか」、「極端なアウトライヤー病院では、どのような特徴があるのか」を調べ、DPC制度改革につなげることが狙いです(2023年度にも特別調査が行われる)。
本稿では「機能評価係数IIの上位50病院・下位50病院のそれぞれで、取り組みにどのような違いがあるのか」に注目し、アウトライヤー病院の特徴については別稿で報じます。
DPCの機能評価係数IIは、いわば「各DPC病院の取り組み、努力を、さまざまな角度から評価する」もので、2018年度から(A)保険診療係数(B)効率性係数(C)複雑性係数(D)カバー率係数(E)救急医療係数(F)地域医療係数―の6項目となっています(これらの和が機能評価係数IIとなる)。
機能評価係数IIはDPC点数に乗じられる(DPCの包括評価部分収益はDPC点数×医療機関別係数(この1要素が機能評価係数II)×入院日数で計算される)ため、機能評価係数IIを向上させることが、包括部分の収益を上げるために極めて重要です。
機能評価係数IIを向上させるためには「自院と他院(全体)とを比較し、他院よりも優れた取り組みを行う」ことが重要です。
さらに、「後塵を拝しないように、DPC病院に求められる基本的な取り組み」を欠かさないことが何よりも重要です。
今般の特別調査では「機能評価係数IIの上位50病院・下位50病院のそれぞれの取り組み」が明らかにされました。「他病院がどのような取り組み」を行っているかを確認したうえで、「自院での取り組みが不十分なものとなっていないか」を検証すること、つまり「最低限の取り組みがなされているか」の確認が行えます。
保険診療係数は、提出データの質や医療の透明化、保険診療の質的向上など「医療の質的な向上を目指す取り組み」を評価するものです。精度の高いデータを定められた時期に提出することが基本となり、「部位不明・詳細不明コード」の使用割合が多かったり(10%以上)、未コード化傷病名の割合が多かったり(2%以上)する場合などには減算が行われます(自院のホームページで自院の診療実績等を公表した場合には加算が行われる)。
精度の高いデータを作成するためには、まず「適切なコーディング」を行うことが重要です(傷病名・診療行為などから、適切な「診断群分類」を選択する)。この点に関連し、今般の調査では、次のような状況が明らかにされました。
▽【診療情報管理部門の診療情報管理士配置】について、「2人以上3人未満配置」「1人以上2人未満配置」の病院が多いが、「10人以上配置」している病院もある。また、1人も配置していない病院が160(10.7%)もある
▽【コーディングに携わる部門全体における診療情報管理士の配置】状況を見ると、「2人以上3人未満配置」「3人以上4人未満配置」の病院が多いが、「15人以上配置」している病院もある。また、1人も配置していない病院が57(3.8%)ある
▽【DPC(14 桁分類)コーディングの主たる確認者】としては、診療報酬請求部門が担う病院が 770 病院で過半数を占める。「確認は行わない」 病院が13病院(0.9%)もある
▽【コーディング委員会の開催頻度】を見ると、2021年11月から22年10月までの1年間で、最低ラインの「4回」であった病院が多いが、「12回以上」(つまり月1回以上)という病院も少なくない。また、最低ラインの「4回」に満たない病院が116(7.8%)もあった(厚労省が理由などを確認する)
コーディング委員会では、▼医療資源病名の選択に係る留意点▼部位不明・詳細不明コード▼未コード化傷病名▼他院からの転院の有無に応じた評価の見直し▼敗血症、DIC、術後合併症病名▼様式1作成における電子カルテ記載▼アウトライヤー症例検討▼ベンチマーク分析▼診断群分類、在院日数からみた医療資源の投入量比較▼査定・返戻—を検討しています。
また、データの質向上に向けては、▼コーディングにおける主治医と診療情報管理部門の連携(主治医が「詳細不明コ ード」を選択した場合に、診療情報管理部門が代替リストを提示するなど)▼コーディング委員会における情報共有(「病名選択を注意した方がよい事例」「未コード化病名の割合」など)▼コーディング委員会への他部署責任者の参加を求め、病院全体で DPCに対する理解を深める▼コーディングテキスト等を用いたコーディングのチェック▼院内でのDPCコーディングマニュアルの作成▼データの相互チェック等、二段階点検の実施▼院内独自の仕組みに則った点検により、データ提出支援ツールでは補えて いない範囲の項目確認を行う▼グループ内の別施設の人材による監査▼対出来高点数で乖離が大きいデータの抽出とコーディング内容の確認▼査定、返戻症例の検証—などが行われています。
こうした取り組みによりスタッフ間で「精度の高いデータ作成・提出」に取り組む風土が生まれるとともに、各スタッフの知識・技術向上も当然期待されます。これらの状況から、「診療情報管理士を確保する」(例えば有資格者の雇用、既存スタッフの資格取得支援など)、「コーディング委員会を適切に開催する」ことの重要性が伺えるでしょう。
なお、簡易カルテと言える様式1の作成・確認に当たっては、▼電子カルテ、医事会計システム等を活用し、不明点は診療情報管理士や主治医・看護師等に確認する▼電子カルテ等に様式1作成の仕組みが組み込まれ、必須項目についてチェックがかかるため、目視等で確認する▼チェック用ツールを独自に作成、活用する▼確認者(事務担当者、主治医等)が目視で確認する▼委託業者に確認を依頼する▼入力者以外の担当者でダブルチェックを行う—などの取り組みが行われています。
医療の標準化等に向けた「クリニカルパスの導入・使用」を行っていないDPC病院がある
次に効率性係数を見てみましょう。「在院日数短縮の努力」を評価するものです。在院日数の延伸には「ADLの低下」「認知機能の低下」「院内感染のリスク増大」「経済損失」「日常生活への復帰遅れ」といった弊害があり、急性期入院医療においてはもちろん、すべての入院医療分野において「在院日数の短縮」を進めることが強く求められます。
ただし、闇雲に「在院日数短縮」を進めれば「予期しない再入院の増加」など、医療の質低下を招きかねません。
そこで、まず「クリニカルパス導入」など医療の標準化を進めることが、在院日数短縮において重要となります。
この点、今般の特別調査では次のような状況が明らかになりました。
▽昨年(2022年)11月1日時点の「自院におけるクリニカルパスの種類数」を見ると、「1―49種類」が最も多いが、「400種類以上」という病院も少なくない。またクリニカルパスを導入していない病院が65病院(4.4%)ある
▽2021年度における「自院のクリニカルパス使用率」を見ると、「30%以上40%未満」が最も多いが、「90%以上」という病院も少なくない。また「ゼロ%」の病院が75 病院(5.3%)あった
クリニカルパスの導入・使用は「医療の標準化」(=在院日数の短縮・管理、質の向上)を進めるために欠かせません。また、クリニカルパスは「一度導入して終わり」では困ります。最新の医学・医療情報をベースに常にアップデートすることも重要です。
在院日数短縮に向けた取り組みとしては、▼クリニカルパスにおける入院期間の適正化▼電子カルテへのDPC期間の表示▼DPC分析ソフトを用いて「不必要な医療行為」の分析と削減▼他院と比較したベンチマークの実施▼内視鏡治療など「侵襲性の低い治療」の推進▼早期リハビリや術後せん妄予防、疼痛管理に関する積極的な取り組み▼院内感染、合併症、転倒、褥瘡等の予防に向けた取り組み▼病床状況、患者の入退院情報、医師の治療方針等の部門間における情報共有▼退院支援部門の設置や早期介入による早期退院▼転院に向けた取り組み▼地域連携に向けた他院、他施設との関係強化—など、さまざまな内容が浮上してきます。
まずは「クリニカルパスの導入・使用」「院内の情報共有」「入退院部門の設置」など、「自院で実施可能な取り組み」を進めることが重要です。
急性期医療の根幹となる「救急患者の受け入れ」を行っていないDPC病院がある
次に、救急医療係数について見てみます。救急患者では、▼「どのような傷病を抱えているのか」が明らかでないことから、入院初期に数多くの検査をしなければならない▼救命処置などのために、入院初期に通常よりも多くの薬剤投与・処置実施などがなされる—必要があるため、「平均値であるDPC点数」では、投下した医療資源を賄うことが困難です(実際の医療資源投入量>DPC点数)。
このため救急患者の受け入れを機能評価係数IIとして評価し、積極的な救急対応が推奨されています。
今般の特別調査では、「緊急にCTを撮像する体制」「緊急にMRIを撮像する体制」「緊急に手術を実施する体制」「緊急に血管造影検査を実施する体制」について、平日・夜間ともに一定数の病院が「敷いていない」ことが明らかになりました。もちろん、地域における病院の役割はさまざまですが、「救急医療」は「急性期医療の根幹」と言える点も考慮した体制整備を考える必要があります。
また、救急外来における受け入れ方針を見ると、「原則救急車の受け入れを断らず、24時間体制で受け入れを行っている」「人員体制の許す限り受け入れているが、当院で対応できない症例は、他医療機関へ転送する」「輪番群輪番制事業に参加し応需体制をとっている」「新型コロナウイルス感染症の疑い患者以外は受け入れを行っている」との答えが出る一方、「かかりつけ患者や他院からの紹介患者については、受け入れを行っている」「救急外来は行っていない」との回答も出ています。
地域の他医療機関との役割分担により「救急対応を行わない」という選択をすることは十分にあり得ますが、「地域で十分な協議を行い、『救急患者が行き場を失う』ような事態を避ける」ことが極めて重要です。
このほか、「急性期入院医療の質向上」に向けた病院独自の取り組みとして、例えば▼病院指標の公開、検討▼院内研修や委員会の実施▼事業(医療の質の評価・公表等推進事業、医療の質可視化プロジェクト)などへの参加▼1次脳卒中センターコア施設の認定▼ISO認証の取得▼救急隊や地域医療関係者にむけた講習会の開催▼TQM(Total Quality Management)の推進▼地域の根幹病院と連携した相互評価▼グループ病院とのベンチマーク—などが挙げられています。
Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンでは、「自院と他院との比較を行える」ツール(有償の病院ダッシュボードχと、無償の病院ダッシュボードχ【ZERO】)を準備しています。是非、ご活用ください(GHCサイトはこちら)。
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