「医療DX推進の工程表」(誰が何をいつまでに実現するのか)の作成に向け、広く国民から意見募集
2023.3.14.(火)
より効率的・効果的で質の高い医療サービス等を確保するために「医療DX」を推進する必要がある—。
そこで医療DXとは何かを明確にしたうえで、医療DXで何を実現するのか、さらに具体的にどのような施策を、いつまでに実行するのかを明確化する—。
政府は3月8日から、こうした内容の「医療DXの推進に関する工程表(骨子案)」について広く国民から意見募集を開始しました。4月6日まで意見を募集し、それを踏まえて「医療DXの推進に関する工程表」作成に入ります(政府のパブリックコメント募集サイトはこちら、骨子案はこちら)。
電子カルテ情報を共有可能とする仕組み構築、診療報酬改定の共通モジュール作成
未曽有の少子高齢化が進む中では、医療従事者の確保、医療保険制度の維持などの面から「効率性」を高めていくことが、これまで以上に必要となっていきます。あわせて、国民・患者のニーズが多様化する中では「より質の高い医療」の必要性も高まっていきます。
このため政府は「より効率的かつ効果的で良質な医療サービス」の提供を目指し、医療DX推進本部(本部長:岸田文雄内閣総理大臣)を設置。今般、下部組織である医療DX推進本部幹事会(議長:松野博一内閣官房長官)に「今後、どのような事項を、いつまでに実現するか」を明らかにする工程表の作成に向けた骨子案がまとまり、広く国民から意見を募集することになりました。
まず骨子案では「医療DX」について、次のように定義しました。共通認識のないまま「紙情報を電子化すれば、それが医療DXだ」などの考えが1人歩きしてしまえば、目標達成が危うくなるためです。
●保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータに関し、その全体が最適化された基盤を構築・活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように社会や生活の形を変えていくこと
さらに、こうした医療DXの推進により次の5項目の実現を目指すことを明らかにしています。
(1)国民のさらなる健康増進
→誕生から現在までの生涯にわたる保健医療データをPHR(Personal Health Record)として自分自身で一元的に把握可能とし、個人の健康増進に寄与する。自分自身で記憶していない検査結果情報、アレルギー情報等を可視化し、将来的にも安全・安心な医療の受療を可能とする
(2)切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
→本人同意を前提として、全国の医療機関等がセキュリティを確保しながら必要な診療情報を共有することにより、切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供を可能とする。災害や次の感染症危機を含め、全国いつどの医療機関等にかかっても必要な医療情報を共有できるようにする
(3)医療機関等の業務効率化
→システムコスト低減により医療機関等のデジタル化を促進し、業務効率化、効率的な働き方を実現する。次の感染症危機において、医療現場における情報入力等の負担を軽減するとともに、必要な情報を迅速かつ確実に取得することを可能とする
(4)人材の有効活用
→診療報酬改定に関する作業を効率化し、医療情報システム人材の有効活用や費用の低減、医療保険制度全体の運営コストの削減を可能とする
(5)医療情報の2次利用の環境整備
→民間事業者との連携も図りつつ、保健医療データの2次利用により創薬、治験等の医薬産業やヘルスケア産業の振興に資することを可能とし、結果、国民の健康寿命の延伸に貢献する
これらを実現するためには、さまざまな施策を組み合わせる必要があります。また、実現までにはインフラ整備・法制度の整備・国民の意識改革などさまざまなハードルを乗り越える必要があり、相当の時間がかかります。
そこで骨子案では、上記の5つの目標を実現するために必要となる施策を掲げ、あわせて「どの施策を、いつまでに、どこまで達成するのか」(到達点)を整理しています。
(a)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等
▽マイナンバーカード1枚で保険医療機関・薬局を受診することで、患者本人の健康・医療に関するデータに基づいたより適切な医療を受けられるなど、マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認は医療DXの基盤となる
▽本年(2023年)4月に「原則として保険医療機関・薬局でオンライン資格確認に対応する」
▽訪問診療・訪問看護等、柔道整復師・あん摩マッサージ師・はり師・きゅう師等の施術所等でのオンライン資格確認の構築、マイナンバーカードのスマホ搭載によるスマートフォンでの健康保険証利用の仕組みの導入等の取組を進める
▽2024年秋の「健康保険証の廃止」を目指す
▽生活保護(医療扶助)でのオンライン資格確認を2023年度中に導入する
(b)全国医療情報プラットフォームの構築
▽共有可能な医療情報の範囲の拡大、電子カルテ情報の標準化等を進める
▼オンライン資格確認等システムを基盤として、概ねすべての医療機関・薬局に電子処方箋の実施を拡大していく
▼全国の医療機関・薬局において「電子カルテ情報の一部の共有、閲覧を可能とする電子カルテ情報共有サービス(仮称)の構築」に取り組む
→当初は、3文書・6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、検査結果等)の共有から進め、順次、対象となる情報の範囲を拡大していく
→特に救急時に有用な情報等の拡充を進めるとともに、救急時に医療機関等において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組みを早急に整備する
→検査結果等については、PHRとして患者本人がマイナポータルを通じ情報を確認できる仕組みもあわせて構築する
→医療機関・薬局における電子カルテ情報の共有を進めるため、医療機関における標準規格に対応した電子カルテの導入を推進する
→標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の整備を行っていく
▽自治体や介護事業者等とも必要な情報を安全に共有できる仕組みを構築する
▼医療・介護等サービス提供に関し「患者、自治体、医療機関、介護事業者等で紙の書類のやりとりがなされている」業務フローを見直し、関係機関や行政機関等の間で必要な情報を安全に交換できる情報連携機能を整備し、自治体システムの標準化の取組と連動しながら、介護保険、予防接種、母子保健、公費負担医療や地方単独の医療助成などに係る情報を共有していく
▼個人が行政手続に必要な情報を入力しオンラインで申請ができる機能をマイナポータルに追加し、医療や介護などの手続をオンラインで完結させる
(c)診療報酬改定DX
▽現在、診療報酬改定時に、医療機関等やベンダが個別にシステム改修やマスターメンテナンスに対応しており、人的、金銭的に非常に大きなコストが生じている
▽限られたられた人的資源、財源の中で医療の質の更なる向上を実現するためには、こうした間接コストを可能な限り低減させることが重要であり、「マスタおよびそれを活用した電子点数表の改善・提供、診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通的な電子計算プログラム」として共通算定モジュールを開発・提供する
▽デジタル化に対応するため診療報酬点数表におけるルールの簡素化・明確化を図り、これらのマスタ、モジュールとの連携を前提とした標準型電子カルテの提供により、医療機関のシステムを抜本的にモダンシステム化していく
▽これらの取り組みにより医療機関等の負担軽減を図るとともに、「診療報酬改定の施行時 期について検討」する
(d)医療DXの実施主体の決定
▽医療DX関連施策を国の意思決定下で強力に推進していくため、「オンライン資格確認等システムを拡充して行う全国医療情報プラットフォームの構築」「診療報酬改定DX」など、工程表に記載される施策に係る業務を担う主体を定める
▽全国医療情報プラットフォームのベースとなるオンライン資格確認等システム、その他既存資産の活用の視点も踏まえつつ、「既存の組織に機能を追加する」ことを念頭に組織のあり方や人員体制等について速やかに検討し、必要な措置を講ずる
例えば、注目される「全国の医療機関で電子カルテ情報を共有する」仕組みについて、2023年度からシステム構築が社会保険診療報酬支払基金で進められますが、「運用はどの組織が行うのか」「費用は誰が負担するのか」、さらに「いつから運用が始まるのか」なども、この工程表の中で明らかにされます。
工程表骨子案については4月6日まで広く国民からの意見(パブリックコメント)募集がなされ、今後、国民の意見も踏まえ「具体的な工程表」を作成していくことになります。
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