感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
2023.4.20.(木)
介護施設等入所者の医療ニーズが増大・複雑化しており、施設類型に応じて「施設での医療対応力を強化していく」手法と「外部医療機関の往診などをより柔軟に認めていく」手法とを組みわせ、施設入所者へ適切な医療提供を確保していく必要がある—。
介護施設等と医療機関の連携に当たっては、施設入所者に求められる医療と、医療機関の役割とのミスマッチが生じないようにすべきではないか。例えば「高度急性期医療を担う特定機能病院との連携」などは相応しくないのではないか—。
介護施設等の感染対策強化に向け、例えば【感染対策向上加算】などの要件となっている合同カンファレンス・訓練に、介護施設等の参加を求めていくことが重要ではないか—。
4月19日に開催された、中央社会保険医療協議会と社会保障審議会・介護給付費分科会の主要メンバーが参画する「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」で、こういった議論が行われました。
目次
施設類型により医療対応力に差がある点を踏まえた「対応力強化」方策を検討
2024年度には診療報酬・介護報酬の同時改定(さらに障害福祉サービス等報酬の改定も加わり、トリプル改定となる)が行われることから、医療・介護等のいずれにもまたがる課題について解決していくことが求められます。
このため「中医会における診療報酬改定論議」と「介護給付費分科会における介護報酬改定論議」を始めるまえに、両会議体の委員が「医療・介護等のいずれにもまたがる課題」を整理し、共通認識を持っておくことになりました。
意見交換会は3回(3月・4月・5月)開かれ、(1)地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携(2)リハビリテーション・口腔・栄養 (3)要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療(4)高齢者施設・障害者施設等における医療(5)認知症(6)人生の最終段階における医療・介護(7)訪問看護(8)薬剤管理(9)その他—の9項目を議題とします(第1回意見交換会の記事はこちら)。
4月19日の第2回会合では、(4)高齢者施設・障害者施設等における医療(5)認知症—を議題としました。本稿では「高齢者施設・障害者施設等における医療」、とりわけ「介護施設における医療」に焦点を合わせ、「認知症」については別稿で報じます。
介護保険施設や居住系介護サービスの入所者は、要介護状態にあると同時に、何らかの健康負担を抱えるケースが少なくありません。また施設等で生活を送る中で、傷病に罹患するケースもあります。
こうした介護施設における医療については、「介護保険給付(介護報酬)の中で評価される部分」と「医療保険給付(診療報酬)の中で評価される部分」とがあります。
例えば、医療施設でもある「介護医療院」(医療・介護・住まいの3機能を併せ持つ施設)や「介護老人保健施設」では、医師が常駐しているため「日常的な医療は基本報酬(介護報酬)の中に包括評価」されています。ただし、特殊な医療については「別の介護報酬」(例えば介護医療院で重度者への医学的管理等を行うことを評価する【特別診療費】、老健施設で肺炎、尿路感染症等治療を行うことを評価する【所定疾患療養費】など)が設けられています。
他方、「特別養護老人ホーム」には、医師配置が行われているものの常駐ではないため▼配置医による健康管理・療養上の指導は介護保険給付▼末期がん、看取り、配置医師の専門外で特に診療を必要とする場合等に行う往診などは医療保険給付—とする切り分けがなされています。
また、医師が配置されていない「特定施設」(有料老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、養護老人ホーム)では、外来・在宅医療などは医療保険給付となりますが、看護師は配置されているため、一部(末期がん対応など)を除き、介護にかかる費用は介護保険給付となっています。
高齢化の進展により、多様な医療ニーズを抱える高齢者が増えることから、介護施設等においても「医療ニーズへの対応力」を強化していく必要がありますが、その際には、上述した介護施設等の類型に応じて、「施設内での医療対応力を強化して、それを介護報酬で評価する」手法と、「外部医療機関からの往診・訪問診療を柔軟化し、それを診療報酬で評価する」手法とを、うまく組み合わせていくことが求められると厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は強調します。
この点、長島公之委員(日本医師会常任理事、中医協委員)や松本真人委員(健康保険組合連合会理事、中医協委員)らは「安易に外部医療機関に頼るよりも、まず施設での医療対応力を高めるべきである。そのうえで、施設の対応範疇を超える場合には、地域の医療機関が連携して医療提供を行う仕組みを構築すべきである」と訴えています。
「医療施設である介護医療院や老健施設」であっても、個々の施設で医療対応力には差があり、結果「救急搬送に頼ってしまう」ケースが少なくありません。介護医療院入所者の19.8%が「医療機関へ退所」(つまり入院)しており、肺炎や尿路感染症による入院も少なくありません。
「施設内の医療対応力を強化する」方針に沿えば、例えば「医療施設である介護医療院・老健施設では、尿路感染症や肺炎には自施設で対応せよ」と求めることなどが考えられそうですが、厚労省は「患者の病状は様々であり、また施設側の医療対応力(例えば医師の専門性など)も様々である。一律に『●●疾患は施設内で対応すること』などのルールを定めることは困難である」と説明しています。
今後、介護給付費分科会で「施設内での医療対応力を強化していくためにどのような方策が考えられるか、それを介護報酬でどう支えていくか」を議論していくことになります。この点「看護配置の充実・強化、とりわけ夜間の看護体制の強化を図ってはどうか」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事、介護給付費分科会委員)、「老健施設では基本的な医薬品費用は基本報酬に包括されているため、高額な医薬品(心疾患治療薬など)を服用する高齢者については受け入れを躊躇してしまうこともあり、見直しを検討すべき」などの具体的な提案もすでに出ています。
一方、後述する「介護施設等と医療機関との連携」を強化し、より柔軟に「外部医療機関が介護施設等で診療を行えるようにしてはどうか」との意見も出ています。池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、中医協委員)は「特別養護老人ホームにおいて、現在は末期がん患者等にのみ、外部医療機関からの往診が可能であるが、より柔軟に幅広く往診を可能にすることも検討してはどうか」と指摘しました。入所者が重度化して医療ニーズが増加・複雑化していきます。その際「介護施設等サイドの医療対応力向上」には限界があり、「現実を考慮すれば、外部医療機関の協力をより深めるほうが近道なのではないか」とも考えられるのです。
この点、一律にいずれかの方向を選択するのではなく、施設類型により医療対応能力が異なる点を踏まえ「ある施設類型では医療対応能力を高めていく」(例えば医療施設である介護医療院・老健施設など)、「ある施設類型では外部医療機関の対応をより柔軟化していく」(例えば特定施設など)と考えていくことになるでしょう。
介護施設等と医療機関との連携、機能とニーズのミスマッチを避けよ
施設内の医療対応力をどれほど強化したとしても、「すべての傷病に介護施設等が対応可能になる」わけではありません。難しい傷病に罹患した、重篤な状態である場合には、外部医療機関による応援(往診、救急搬送など)が必要となります。
このため「介護施設等と医療機関との連携」が重要であり、各施設等の運営基準には「入所者の病状の急変等に備えるため、あらかじめ協力病院を定めておかなければならない」等の旨が規定されています(運営基準を遵守しなければ施設を稼働させられないため、このルールに則って協力病院が施設等毎に定められている)。
しかし、例えば特別養護老人ホームの8.1%は「協力病院を特定機能病院としている」状況があります。特定機能病院は、述べるまでもなく「高度急性期医療」を提供する医療機関です。一方、高齢者施設の協力医療機関に求められるのは「高齢者施設入所者が急変した場合の相談対応、往診」などであり、ミスマッチが生じてると指摘されます。このため、前回の意見交換会でも「要介護高齢者の急性期入院医療は、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきではないか」との意見も数多く出ています(関連記事は こちら)。
この点、委員からは「介護施設等と特定機能病院との連携は形式的な連携であろう。そうではなく、地域包括ケア病棟を持つ病院や在宅療養支援診療所・病院などと『実質的な連携』を日頃から行うことが重要である」(長島委員)、「特養から医療機関への入院ルールなどを検討することも重要である」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与、介護給付費分科会委員)、「連携の要となるケアマネジャーに適切に情報が集約化される仕組みが必要ではないか」(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長、介護給付費分科会委員)、「連携促進のために医療分野・介護分野ともに情報の標準化・電子化(いわゆる医療・介護DX)を推進すべきではないか」(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、「介護側から気軽に相談できるような連携関係の構築が重要である」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事、中医協・介護給付費分科会双方の委員)、「介護施設等からの救急搬送において、医師や専門性の高い看護師からアドバイスを受ける仕組み、オンライン診療の活用などを進めてはどうか」(小塩隆士委員:一橋大学経済研究所教授、中医協会長)などの意見が出ています。
新型コロナウイルス感染症対策の中でも「介護施設等の入所がコロナ感染し、入院加療が必要な場合、『介護・リハビリ力が強化された病院』(例えば地域包括ケア病棟)での受け入れを特別に評価する」特例が設けられています。この特例の効果なども踏まえながら「高齢者施設と医療機関との連携」充実を、診療報酬・介護報酬でどうサポートしていくかを検討していくことになるでしょう。
【感染対策向上加算】で求められる合同カンファレンス等に介護施設等の参加を求めよ
関連して「介護施設等での感染対策を強化する必要がある。【感染対策向上加算】【外来感染対策向上加算】では合同カンファレンス・訓練の実施が求められているが、介護施設等がこの合同カンファレンス・訓練の輪に入ることを求めてはどうか」との意見が多くの委員から出されました(関連記事はこちら)。平時からの連携の一助にもなる、優れた提案と言えるでしょう。今後、介護給付費分科会などで具体的な制度設計が議論される見込みです。
また、コロナ禍での成果も踏まえ「医療機関に所属する感染管理の知識・技術を備えた看護師(例えば感染管理認定看護師、特定行為研修修了看護師など)が、平時から介護施設等スタッフに研修などを行い、感染拡大時には施設内で感染管理を行うような枠組みを設けてはどうか」といった提案も、田母神委員や池端委員、田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事、介護給付費分科会委員)らから出ています。
重症化リスクの高い高齢者が集団生活を送る介護施設等では、ひとたび感染者が出ればクラスターに繋がりやすく、結果、「地域の感染症対応を行う医療機関の負担を重く」してしまいます。このため「医療機関が平時から介護施設等と連携し、通常の感染対策はもちろん、感染拡大時には手厚いサポートを行う」ことが極めて重要なることが再認識されました。コロナ急性期対応の中心を担う全国自治体病院協議会の小熊豊会長も、この点を強く指摘しており(関連記事は こちらと こちら)、中医協・介護給付費分科会で具体的な仕組みの検討に期待が集まります。
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