急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
2023.4.20.(木)
認知症患者の「早期発見・早期対応」が極めて重要であり、2024年度の診療報酬・介護報酬改定に向けて多職種連携などをこれまで以上に推進していく必要がある—。
急性期入院医療においても「身体拘束ゼロ」を目指すべきであり、そのためには医療・介護スタッフの認知症対応力を向上させ、また医療機関・介護事業所間で「様々な情報の連携」を進める必要がある—。
4月19日に開催された、中央社会保険医療協議会と社会保障審議会・介護給付費分科会の主要メンバーが参画する「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」では、こういった議論も行われています(高齢者施設など医療強化に関する記事はこちら)。
目次
認知症を早期に発見・診断するために、どのような取り組みが必要か
2024年度には診療報酬・介護報酬の同時改定(さらに障害福祉サービス等報酬の改定も加わり、トリプル改定となる)に向けて、中医会と介護給付費分科会の主要メンバーによる「医療・介護等のいずれにもまたがる課題整理し、共通認識醸成」のための意見交換会が行われています(地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携、リハビリテーション・口腔・栄養、要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療に関する記事はこちら、高齢者施設・障害者施設等における医療に関する記事はこちら)。
本稿では「認知症」に関する議論を眺めてみます。
高齢化の進行に伴って認知症患者が、今後さらに増加すると見込まれています。2018年には認知症患者数は500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」という状況になり、2025年には約700万人(同じく5人に1人)、2040年には約800-950万人(同じく約4-5人に1人)に達すると見込まれています。
政府は、認知症対策の充実・強化に向け、新オレンジプランを大改革した「認知症施策推進大綱」を2019年6月に取りまとめました。そこでは、「認知症の人との共生」「認知症の予防(発症を遅らせる)」を目指し、(1)普及啓発・本人発信支援(2)予防(3)医療・ケア・介護サービス・介護者への支援(4)認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援(5)研究開発・産業促進・国際展開―という5つの柱を打ち立てており、大綱に沿った施策が進められています(関連記事はこちら)。また、介護保険制度改革においても「認知症対策」が重要な柱の1つに位置づけられています(関連記事は こちら)。
しかし、認知症対策においては、依然として「早期発見・早期治療が重要であるが、増加する独居高齢者について適切な発見・治療につなげられていない」「服薬支援・管理や口腔・栄養の管理等などが十分に進んでいない」「人生の最終段階における医療・介護について、本人による意思決定が困難な場合が多い」「認知症高齢者等を早期発見するためのツール(評価尺度)が設けられてない」「医療機関において身体拘束が少なからずなされている」「医療・介護間での情報共有が十分になされていない」などの課題が指摘されています。
認知症対応は「進行を遅らせるための適切な診断・治療」という医療的側面と、「本人の尊厳を保持し、本人・家族に寄り添ったケア」という介護的側面があり、まさに「診療報酬・介護報酬の同時改定で、施策推進を加速させる」ことが重要になります。
まず早期発見については、次のような対策を推進することが重要ではないかと厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の笹子宗一郎課長は指摘します。
▽「日頃ごろからの地域における社会参加活動」「健康相談のできる身近な存在である、かかりつけ医による健康管理」など通じた早期発見
▽介護従事者が、より簡便にかつ短時間に認知症の認知機能、生活機能を評価できるような指標の確立
また委員からは、「口腔内が突然不潔になった、歯科診療の予約を忘れたなど、歯科医療機関が認知症の早期発見に助力することも可能である」(林正純委員:日本歯科医師会常務理事、中医協委員)、「様々な疾患で外来を受診した際、訪問看護の訪問時などに看護師が異変を察知し、早期発見につなげることが可能である」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事、介護給付費分科会委員)、「すでに多くの地域包括ケアセンターで、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどに『このような状態の人がいた場合、認知症の可能性があるため、連絡してほしい』と依頼する取り組みが進められている。こうした仕組みを充実することが重要であないか」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与、介護給付費分科会委員)などの提案が出ています。
この点、「独居の高齢者が認知症になった場合、社会とのつながりが少なく発見が遅れ、適切な対応が困難になる」ことが大きな問題になってきています。医療・介護の範疇を超えるテーマでもあり、総合的な検討が強く求められます。
認知症患者を「早期に適切な医療・ケアにつなげる」ことも極めて重要
早期に「この人は認知機能が低下しているのではないか」と気づいたとして、「どこにつなげばよいのか」と迷うケースも少なくないでしょう。地域ごとに▼医療機関・高齢者施設等で適切な治療が実施されるための取り組み▼容態に応じた療養の場での適切なサービスの提供の推進▼地域包括支援センターと認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センターの連携 等を含めた重層的な医療・介護を提供できる体制—を構築し、それを地域住民や地域の関係者に「広く周知する」ことが重要です。医師や看護師であっても、介護福祉士であっても、必ずしも認知症の専門家であるわけではありません。地域に「認知症に対応する医療・介護資源として何があり、どのように連絡すればよいのか」などの情報を浸透させることが早期対応において不可欠となります。
この点、東京都健康長寿医療研究センターが「認知症の人と家族のための心理支援の手引き」を作成しており、各地域でこれも参考にした取り組みに期待が集まります(関連記事はこちら)。
急性期入院医療においても「身体拘束ゼロ」を目指していくべきではないか
また、医療機関や介護施設等において「認知症対応力を向上させる」ことが非常に重要となります。例えば、2021年度の前回介護報酬改定では、▼訪問系(訪問入浴介護を除く)▼居宅介護支援▼福祉用具貸与(販売)―を除くすべてのサービス(裏を返せば、▼訪問入浴介護▼通所系サービス▼短期入所系サービス▼多機能系サービス▼居住系サービス▼施設系サービス―のいずれも)で、「介護に直接かかわる医療・福祉関係の資格を有さないスタッフ」に【認知症介護基礎研修】の受講を求めました(サービス事業者に対し、受講のために必要な措置をとることが義務付けられる、関連記事は こちら)。
3年間の経過措置が設けられていますが、状況を踏まえて「2024年度介護報酬改定での更なる対応」が検討されていくことになるでしょう。
一方、医療機関においては、2016年度診療報酬改定で【認知症ケア加算】が創設され(関連記事は こちら)、2020年度改定で充実が図られています(関連記事は こちら)。また、さまざまな認知症対応力向上に向けた研修も用意されています。
こうした「認知症対応力向上」の中で多くの委員が問題視したのが「医療機関での身体拘束」です。介護保険施設では「身体拘束ゼロ」を打ち出し、▼介護保険施設等の運営基準で「身体拘束を原則として禁止」する▼緊急やむを得ない場合に身体的拘束を実施する際の記録を行う▼身体的拘束適正化検討委員会の定期的開催を行う▼身体的拘束適正化のための指針を整備する▼身体的拘束適正化のための定期的な研修の実施—などを実施。こうした取り組みを行わない場合には、介護報酬、しかも基本報酬を減算。減算率、つまり身体拘束ゼロに向けた取り組みを行っていない介護保険施設は1%未満となっています。
医療機関においては、【認知症ケア加算】において、「身体拘束を行った日の40%減算」(本則の点数の60%しか算定できない)があり、一定程度「身体拘束廃止」に向けた取り組みが進められています。しかし、「主に急性期において必要な医療を提供し安全を確保するため緊急やむを得ない場面がある」ことを考慮しても、「更なる身体的拘束の予防・最小化が行える可能性がある」と笹子認知症施策・地域介護推進課長は指摘しています。
「医療機関における身体拘束廃止に向けた取り組みの推進」に関しては、「まず実態を詳細に把握することが大前提となる」(田母神委員)、「身体拘束により認知機能も身体機能も悪化することの認識が重要である」ことは当然として、▼介護療養型医療施設では、悩み、勉強しながら身体拘束ゼロに向けて取り組み、相当程度実現できている。急性期病棟でも今後、こうした取り組みが求められていく(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、中医協委員)▼根性論では拘束ゼロは進まない、身体拘束ゼロに向けたマニュアルを作成し、医療機関に浸透させることが重要である(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事、介護給付費分科会委員)▼介護現場での取り組みを参考に、医療機関でも身体拘束ゼロを目指すべき(松本真人委員:健康保険組合連合会理事、中医協委員)—などの意見が出ています。
数多くの高度医療機器を用いた治療を行い、また介護スタッフが手薄な「急性期入院医療」の現場で、「介護保険施設と全く同じ取り組み」を求めることはすぐには困難かもしれませんが、介護現場の取り組み参考に「急性期医療版の身体拘束ゼロマニュアル」を作成し、浸透させる取り組みは早急に進める必要があります。すでに議論が始まっている「要介護高齢者の急性期入院医療をどのように考えるべきか」という論点とも密接に関連しており、様々な角度からの議論が必要となります(関連記事はこちら)。
医療・介護間で「認知症患者の情報」を共有し、ケア力を向上させて適切な対応実現を
身体拘束ゼロを実現するためには、医療・介護従事者等が「認知症対応力を向上させる」ことが求められます。介護報酬では上述のような「専門職でないスタッフへの研修義務化」が始まっていますが、このほかに「認知症対応の専門知識・技術を持つ看護師が、介護施設等でスタッフ研修を行うことでBPSD(危険行動などの周辺症状)を軽減できる。こうした取り組みを進めるべきである」(田母神委員)、「介護報酬では認知症対応『体制』の評価のみなされている。LIFEデータを分析することも含め、適切な『ケア』実施を報酬評価すべきではないか」(古谷委員)、「認知症サポート医や研修を受けた医師に、現場に出ていくことを求めるべきである。例えば地域ケア会議などへの出席をポイント評価し、そのポイント積算を報酬で評価することなどが考えられる」(池端委員)、「看護職員では認知症対応力向上に向けた研修が相当浸透してきている。今後、リハビリ専門職にも浸透させ、認知症患者に適切なリハビリを実施可能とすることで、在宅復帰等につなげられる」(田中委員)など、建設的な提案がなされています。今後の中医協・介護給付費分科会論議でも大いに参考にすべきでしょう。
さらに、認知症対応においては、「医療・介護間の情報連携」がことさら重要になるとの声も数多く出ています。例えば認知症患者が入院する際に、「この患者さんは、●●をすると機嫌が悪くなるが、その場合には◆◆をすると落ち着きやすい」などの日常生活上の情報が伝達されることで、医療機関の負担は相当減ると思われます。また認知症患者が医療機関での治療を上、介護施設等に入所する際に医療情報が不可欠なことは述べるまでもないでしょう。
情報連携としては、現在、健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」において、医療機関と介護事業所との間で「どのような情報を、どのように共有、連携することが望ましいか」などの議論が進められています(関連記事は こちら)。2024年度の同時改定までに結論が得られるものではありませんが、ワーキングの議論、同時改定の議論双方を睨みながら、「どのような情報をどのように医療機関・介護事業所間で連携することが好ましいか、それを報酬でどのように評価していくべきか」という議論が進みます。
なお、この際に「認知症患者の同意をどのように取得するか」という極めて重要な論点があることにも留意が必要です。現在、個人情報を利活用する際には「患者等の同意」が必須となりますが、認知症患者では「同意取得」が極めて困難であり、どのようにこの問題をクリアするかを関係者で検討することが求められるのです(関連記事は こちら)。
このほか、認知症の発症予防等に向け、「認知症発症などと関連の深い傷病(大腿骨近位部骨折など)について、当該傷病の治療に加え、認知症への配慮などの対応を強化する必要がある」(長島公之委員:日本医師会常任理事、中医協委員)、「残存歯が20本を切ると認知症リスクが1.2倍になるとの研究結果もある。口腔衛生による歯牙の保持が認知症予防にとっても重要となる」(林委員)などの意見も出されています。
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