介護保険制度改革案固まる!給付と負担の見直しの内容については、期限は違えど「すべて結論は先送り」に—社保審・介護保険部会(1)
2022.12.19.(月)
介護保険制度改革に向けた社会保障審議会・介護保険部会の意見が12月19日の会合で取りまとめられました。
ただし、最大の争点となっている「給付と負担の見直し」については、多くの項目が「将来に向けて結論を得る」、いくつかの項目が「来夏(2023年夏)まで(骨太方針2023まで)に結論を得る」とされており、事実上の「先送り」となりました。今後も「給付と負担の見直し」論議が介護保険部会で継続されることとなり、「意見とりまとめと言えるのだろうか」と疑問を投げかける識者もおられます。
●介護保険制度の見直しに関する意見(案)はこちら(今後、文言修正がなされる可能性大)
給付と負担の見直し内容は、来夏から将来と時期は違えど、結論は先送り
Gem Medで報じているとおり、2024年度から新たな介護保険事業計画(市町村が作成)・介護保険事業支援計画(都道府県)がスタートし、市町村等はこの計画に沿ってサービスの確保・保険料の設定などを行います。介護保険部会では、市町村・都道府県による計画作成のための基本的な考え方を議論しています。
【第1ラウンド論議の記事】
処遇改善やICT活用等の諸施策が「介護人材の確保・定着」にどれだけ効果を生んでいるのか検証を—社保審・介護保険部会
介護人材確保、医療介護連携や認知症対策の推進などが介護保険改革の重要な柱と再確認—社保審・介護保険部会
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【第2ラウンド論議の記事】
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介護人材の確保が今後の最重要検討課題!介護助手は有益だが、成り手確保に苦労する地域もある!—社保審・介護保険部会
ケアマネ自己負担、軽度者サービスの地域支援事業への移行など「給付と負担の見直し」で賛否両論—社保審・介護保険部会
認知症初期集中支援チーム、実態把握のうえで「役割、在り方の再検討」を行う時期に来ている—社保審・介護保険部会
介護ニーズとサービス量の齟齬解消に向け「エリア外の介護サービス利用」を柔軟に認めるなどの工夫をしてはどうか—社保審・介護保険部会
12月5日の前回会合で(1)生活を支える介護サービス等の基盤の整備(2)様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現(3)保険者機能の強化(4)介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進—の各項目について、方向性に関する「意見」(介護保険部会の意見)案が提示され、さらに12月19日の会合では「給付と負担の見直し」に関する方向性の「意見」案が示されました。
後者(給付と負担の見直し)の部分を眺めてみましょう。以下の論点(改革項目)について議論が重ねられてきましたが、いずれについても賛否両論が入り混じっており(関連記事はこちらとこちらとこちら)、厚労省老健局総務課の林俊宏課長は次のような考え方を提示しました。
【早急に検討、遅くとも来夏(2023年夏)まで(骨太方針2023まで)に結論】
(1)高所得者の1号保険料の負担の在り方
→国の定める標準段階の多段階化、高所得者の標準乗率の引上げ、低所得者の標準 乗率の引下げ等について検討を行うことが適当(具体的な段階数、乗率、低所得者軽減に充当されている公費と保険料の多段階化の役割分担等について、次期計画(2024年度からの第9期計画、以下同)に向けた保険者(市町村)の準備期間等を確保するため、早急に結論を得る)
(2)「一定以上所得」の判断基準
→「一定以上所得」(2割負担)の判断基準について、 後期高齢者医療制度との関係、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、高齢者の方々が必要なサービスを受けられるよう高齢者の生活実態や生活への影響等も把握しながら検討を行い、次期計画に向けて結論を得ることが適当
(3)多床室の室料負担
→介護老人保健施設・介護医療院の多床室の室料負担の導入について、在宅でサービスを受ける者との負担の公平性、各施設の機能や利用実態等、これまでの本部会における意見を踏まえつつ、介護給付費分科会において介護報酬の設定等も含めた検討を行い、次期計画に向けて結論を得る
【第10期計画期間の開始までの間(つまり2026年度まで)に結論】
(4)ケアマネジメントに関する給付の在り方
→利用者やケアマネジメントに与える影響、他のサービスとの均衡等も踏まえながら、包括的に検討を行い、第10期計画期間の開始までの間(つまり2026年度中)に結論を出すことが適当
(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
→介護サービスの需要が増加する一方、介護人材の不足が見込まれる中で、現行の総合事業に関する評価・分析等を行いつつ、第10期計画期間の開始までの間(つまり2026年度中)に、介護保険の運営主体である市町村の意向や利用者への影響等も踏まえながら包括的に検討を行い、結論を出すことが適当
【将来の検討課題】
(6)被保険者範囲・受給権者範囲
→、介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当
(7)補足給付に関する給付の在り方
→補足給付に係る給付の実態やマイナンバー制度を取り巻く状況なども踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当
(8)「現役並み所得」の判断基準
→「現役並み所得」(3割負担)の判断基準については、医療保険制度との整合性や利用者への影響等を踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当
(1)から(3)については、介護保険部会あるいは介護給付費分科会で検討が継続されますが、(4)(5)については「今後の検討」、(6)(7)については「将来に向けて検討」という位置づけで、「見直しをするのか、しないのかが良く分からない」結論となっています(結論になっていないとの指摘もある)。
医療保険改革において「75歳以上の後期高齢者の保険料(税)負担が引き上げられる」方向が固まったため、介護保険での負担も上がれば「高齢者にダブルパンチ」となり、政府与党への風当たりが強まることを危惧し、政治的判断で「議論の先送り」となったとの見方もあります。
こうした「先送り」について、河本滋史委員(健康保険連合会専務理事)や井上隆委員(日本経済団体連合会専務理事)、岡良廣委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)らは「後代にツケを回すものであり、非常に残念である」と指摘。「来夏までの結論」などがスケジュール通りに確実に出されるべきと強く年を押しました。
一方、介護サービス提供者や自治体サイドからは「総合事業における多様なサービスの受け皿が整っていない中で結論を出すことはできない」「認知症高齢者を総合事業の中でどう受けるのかが十分に議論されておらず、また現状で出来るとも思えない」「ケアマネジメントは介護保険の入り口であり、そこへの自己負担導入はサービス利用を狭め、重度化防止・自立支援に反してしまう」との考えを改めて強調。
意見の隔たりは一向に埋まっておらず、「介護保険部会で時間をかけて議論しても結論は出ないのではないか」「今の介護保険部会のように、委員が自分の意見を述べるだけで、議論を行わない状況では、意見集約には至らないのではないかとの懸念もあります。
例えば、サービス提供側委員らの多くは「利用者負担増などに反対」の立場をとっていますが、そうした委員は「制度の持続可能性についてどう考えているのか」が見えてきません。逆に「利用者負担増などに賛成」の費用負担者委員は「給付が狭まることで、要介護度が上がり、結果、介護費が増大してしまう」という懸念への考え方を十分には示していません。「サービスは手厚く確保せよ、財源のことは知らない」「財源が最優先だ、利用者や家族の生活などは関知しない」という立場は困ります。両者が歩み寄り、別の視点に立つと現行制度はどう見え、将来をどう考えるべきかを勘案し(例えばサービス提供側は「制度の持続可能性、費用負担」をどうあるベきと考えているのか、費用負担者は「サービスの質向上」などをどう進めるべきと考えているのかを明確にするなど)、「実のある議論」が行われることに期待が集まります。
なお津下一代委員(女子栄養大学特任教授)らは「ケアマネの利用者負担など、今から議論の素材を作らなければ、第10期計画の開始までの結論に間に合わない。研究事業やモデル事業などを通じして、素材を準備するとともに、国民への情報発信を強化してほしい」と要望しています。
介護情報を利活用する新たな基盤整備、地域支援事業の中で行ってはどうか
ところで、前回会合で示された「顕名の介護情報(介護レセプト情報、要介護認定情報、LIFE情報、ケアプラン、主治医意見書等)を自治体・利用者・介護事業者・医療機関などが電子的に閲覧できる情報基盤」の整備について、その目的・メリットを▼自治体が、被保険者が受けている自立支援・重度化防止の取組の状況等を把握し、地域の実情に応じた介護保険事業の運営に活用できる▼利用者が自身の介護情報を閲覧できることで、自身の自立支援・重度化防止の取り組みを推進できる▼介護事業者・医療機関が、本人の同意の下、介護情報等を適切に活用することで、介護・医療サービスの質を向上できる▼紙でのやりとりが減り事務負担が軽減する—の4点に整理。このように日本国民全体がメリットを享受できる点を勘案し、「保険料と公費の財源により実施する地域支援事業として位置付けることが適当」との考えを改めて説明しました。
こうした情報の利活用に反対する意見はありませんが、「市町村の財政・マンパワーにも制約がある。位置づけについては今後、さらに協議していくこととしてほしい」と要望しています。
委員から「文言修正」に関する意見が多数でおり、菊池馨実部会長(早稲田大学理事・法学学術院教授)と厚労省とで最終調整を行い、「意見書」を固めます。その後、厚労省で必要な制度改正内容(例えば必要な法律改正、運用通知の見直しなど)を固め、今後に備えることになります。
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