ADL維持等加算を特養等にも拡大し、算定要件を改善(緩和+厳格化)―社保審・介護給付費分科会(3)
2020.12.1.(火)
通所介護・地域密着側通所介護に導入されている【ADL維持等加算】について、小規模多機能型居宅介護や特別養護老人ホームなど「機能訓練スタッフを配置し、ADL維持改善を目指すサービス」に拡大する―。
また算定要件について、可能な範囲で「緩和」を行うとともに、クリームスキミング防止の視点を重視した「厳格化」を行い、要件と効果との結びつきを強化する―。
11月26日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった議論も行われています。
ADL維持等加算、認デイや小多機、特養ホームなどに拡大へ
11月26日の介護給付費分科会では、▼居宅介護支援(ケアマネジメント)▼介護保険施設▼横断的事項―に関して、これまでの議論を踏まえた「より具体的な見直し案」が厚生労働省から示されました。本稿では、2018年度の前回介護報酬改定で導入された画期的なアウトカム評価である【ADL維持等加算】の見直し案に焦点を合わせます(同日の、「介護医療院・介護療養型医療施設」、科学的介護の推進に関する議論はお伝え済です)。
【ADL維持等加算】は、「利用者の要介護度が維持・改善しているか」という点に着目したアウトカム評価です。
介護報酬は利用者の要介護度別に設定されていることから、「良質なサービスを提供し、利用者の要介護度が改善すると、報酬が低くなってしまい事業所・施設の経営が厳しくなる」という矛盾を抱えています。そこで、かねてから「要介護度の改善」に向けたインセンティブの設定が検討され、2018年度の前回介護報酬改定でついに【ADL維持等加算】が通所介護・地域密着型通所介護に導入されました。
加算の仕組みは非常に複雑ですが、「要介護度の改善が見込まれる軽度者のみを選別する」(クリームスキミング)ことが生じないように配慮した上で、利用者のADL維持・改善の実績に応じて加算が算定できるものです。定められた実績要件を満たした場合には【ADL維持等加算1】(月3単位)を、さらに実績要件を満たした後も、Barthel Index(BI)を用いて利用者のADLを測定し、その結果を保険者に報告した場合には【ADL維持等加算2】(月6単位)を算定できます。
厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長からは、次のような具体的な見直し案が提示されました。
(1)加算の算定対象を「機能訓練等に従事する者を十分に配置し、ADLの維持等を目的とするようなサービス」にも拡大する
(2)算定要件の緩和・簡略化を行う
(3)リハビリテーションを併用している利用者については「リハビ提供事業者と連携してサービスを実施している場合」に限って、加算に係る計算式の対象とする
(4)算定要件に「CHASEを用いて利用者のADL値を提出し、フィードバックを受ける」ことを盛り込む
(5)「より自立支援等に効果的な取り組みを行い、利用者のADLを良好に維持・改善する事業所」をより高く評価する
まず(1)は、現在▼通所介護▼地域密着型通所介護―のみが【ADL維持等加算】の算定対象であるところ、対象サービスを拡大するものです。詳細はこれから詰められますが、▼認知症対応型通所介護(いわゆる認デイ)▼特定施設入居者生活介護▼介護⽼⼈福祉施設(特別養護老人ホーム)▼地域密着型介護⽼⼈福祉施設―が拡大候補にあがっています。
この点、小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会理事)は「特養ホームで『入所者のADL改善』だけを目指すことは困難である。終の棲家である特養ホームでは、老衰の利用者も少なくなく、そこではADLの維持こそが重要である」と述べ、後述する要件について「ADL利得を考える際には配慮を行ってほしい」と要望しています。
ADL維持等加算の要件、介護現場の実態を踏まえた改善
(2)は、▼現行の算定要件が非常に複雑なことも手伝い、算定率が低い(今年(2020年)4月サービス分で2.38%)▼評価開始時点のADLによって、その後のADLの変化の傾向が異なる(開始時点でADLが良くないほど、ADL改善度合いが大きい)▼クリームスキミングを防止しなければならない―といった点を踏まえて、算定要件を下表のように見直してはどうかという提案です。
単純な緩和ではなく、「効果との結びつきが薄い」要件は緩和を行い、「効果をぼやかしている」要件は厳格化を行い、「要件と効果との結びつきを強化している」点に留意が必要です。例えば「全利用者のADLを報告対象」とすることは、「ADL改善効果が得られやすい要介護度の低い者の選択」を防止する、つまり「クリームスキミング対策」になっているのです。単に数字のみを追うのでなく「要件に込められた趣旨・意味をしっかりと受け止める」ことが非常に重要です。
▽「5時間以上の算定回数」と「5時間未満の算定回数」との差異関係と、BI(Barthel Index)L改善効果との間に明確な違いはない
→現在の「5時間以上の通所介護費の算定回数が5時間未満の算定回数を上回る利⽤者の総数が20名以上」という要件を、「5時間以上の通所介護費の算定回数が5時間未満の算定回数を上回る利⽤者の総数が●名(20名よりも緩和)以上」へと見直す
▽「利用者の要介護度が1・2」の場合と「要介護度が3以上」の場合とで、BI改善状況に大きな差はない
→現在の「評価対象利⽤期間の初⽉において要介護度が3以上である利⽤者が15%以上」という要件を緩和する
▽「初回の要介護認定等から12か⽉以内の利⽤者」は6か⽉後にBIが24.1%が改善するが、「12か⽉超の利⽤者」も19.6%改善する
→現在の「評価対象利⽤期間の初⽉の時点で『初回の要介護認定等があった月から起算して12か月以内の者』が15%以下」という要件を、計算式の調整等によって緩和する
▽全利用者のADL利得と、現在の「上位85%」についてのADL利得とでは、後者のほうが「良い」結果となりがちである
▽評価開始時点のADLによって、その後のADLの変化の傾向が異なる(開始時点でADLが良くないほど、ADL改善度合いが大きい)
→現在の「評価対象利⽤期間の初⽉と6か⽉⽬にADL値(Barthel Index)を測定し、報告されている者が90%以上」という要件を、「評価可能な者は原則として全員報告する」ことと見直す
→現在の「ADL利得が上位85%の者について、各々のADL利得を合計したものが0以上」という要件を、「初月のADL値に応じて調整式で得られた利⽤者の調整済ADL利得が、⼀定の値以上」と見直す
要件の数値・基準値をどの程度に設定するのかは今後、詰めていくことになります。
あわせて、データ・エビデンスを踏まえて介護サービス・ケアの質向上を目指すために、(4)のように「CHASEへのデータ提出・PDCAサイクルの推進」を要件に盛り込むことになります(関連記事はこちら)。
また、例えば通所介護(デイサービス)で機能訓練を受けている利用者が、併せて通所リハビリを受けている場合には、「両サービスの相乗効果」によって要介護度が維持・改善することが考えられ、事実そうしたデータもあります。
この場合、両サービスが、バラバラにサービスを提供するよりも、連携して機能訓練・リハビリを提供すれば、さらに優れた効果が生まれると期待できます。そこで眞鍋老人保健課長は、(3)のように「リハビ提供事業者と連携してサービスを実施している場合」に限り、加算に係る計算式の対象とする考えを示しているのです。
また(5)は加算の構造を見直すものです。「加算取得を目的として、ADL情報を厚労省に提出している事業所」は、大半が「ADL利得の要件を満たしている」(加算を取得できる)ことを踏まえて、眞鍋老人保健課長は「より自立支援等に効果的な取組を行い、利用者のADLを良好に維持・改善する事業所」をより高く評価する考えを提示しています。
優れた取り組みを行い、実績も上げている事業所にとっては、さらに経済的なインセンティブが付与されることになります。
こうした要件見直し案に対し明確な異論・反論は出ていませんが、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「見直しの検証とともに、そもそもADL維持等加算が真に利用者・入所者の『重度化防止・自立支援』に役立っているのかを検証すべき」と強く訴えました。
【ADL維持等加算】は、2018年度の前回介護報酬改定で設けられた「若い加算」です。要件等について試行錯誤を繰り返し、また「加算と効果との関係」についても中長期的にウォッチしていきながら改善を図っていくことが重要です。
●2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事●
【第1ラウンド】
▽横断的事項(▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)
▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護▼小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)
▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション▼短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)
▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)
▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼介護老人保健施設(老健)▼介護医療院・介護療養型医療施設—)
【第2ラウンド】
▽横断的事項(▼人材確保、制度の持続可能性▼自立支援・重度化防止▼地域包括ケアシステムの推進―)
▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)▼認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)
▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護・認知症対応型通所介護、療養通所介護▼通所リハビリテーション、福祉用具・住宅改修▼短期入所生活介護、短期入所療養介護―)
▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護、訪問入浴介護▼訪問リハビリ、居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)
▽施設サービス(▼介護医療院・介護療養型医療施設▼介護老人保健施設、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼短期入所生活介護、短期入所療養介護―)
▽横断的事項(その2)(▼地域包括ケアシステムの推進▼自立支援・重度化防止の推進(関連記事はこちら(ADL維持等加算)とこちら(認知症対策、看取り対応、科学的介護など)、▼処遇改善、▼人材確保、制度の安定性・持続可能性の確保など―)
▽詰めの議論(▼多機能型サービス▼短期入所系サービス▼通所系サービス▼訪問看護―
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