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寝たきり高齢者でもリハ等でADL改善、介護データ集積・解析し「アウトカム評価」につなげる—社保審・介護給付費分科会

2020.9.14.(月)

介護保険制度の理念である「自立支援・重度化防止」を推進するために、リハビリテーションなどの取り組みを評価(プロセス評価)するにとどまらず、その効果・成果を評価する「アウトカム評価」を推進していくべきではないか—。

寝返りすら困難な「寝たきり高齢者」であっても、座位の保持などの適切なケアを行うことで、状態が改善するケースも一定程度あり、こうした取り組みを介護報酬で評価していくべきではないか—。

こうした評価の根拠データとして、介護に関するデータベース(介護DB・VISIT・CHASE)が構築されてきている。今後、リハビリデータを格納するVISITと、状態やケアデータを格納するCHASEとを一体的に運用していくが、「データの入力が困難であり、負担となっている」との介護現場の声を踏まえた改善を進める必要がある—。

9月14日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった議論が行われました。

リハビリ・口腔・栄養をセットで推進し、自立支援・重度化防止を目指す

2021年度に予定される次期介護報酬改定(3年に一度)に向けた議論が介護給付費分科会で進んでおり、8月までの、いわゆる「第1ラウンド」では次のような検討が行われました。

▽横断的事項(▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる、関連記事はこちらこちらこちら

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)介護老人保健施設(老健)介護医療院・介護療養型医療施設—)



9月からは、これらの議論を下敷きに、より具体的な「第2ラウンド」論議に入っています(関連記事はこちら)。9月14日には「自立支援・重度化防止の推進」をテーマに据え、より詳細な検討を行いました。

厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、「自立支援・重度化防止の推進」に向けて、(1)介護の質の評価と科学的介護の推進(2)リハビリテーション・機能訓練等(3)口腔・栄養(4)重度化防止の推進等―の4項目に関する詳細なデータと論点を提示しました。

ここで留意すべきは、(1)から(4)はすべて連関しているという点です。自立支援・重度化防止は介護保険法の基本理念であり、この方向に沿った取り組み(例えばリハビリもその1つ)を行う介護事業所・施設を各種の加算で評価しています。その「取り組み内容」と「効果」に関するデータを収集・解析し、「より効果の高い取り組み」へ加算を集中・重点化していくことになります。また、従前よりリハビリの効果には「栄養状態」が深く関係している(栄養状態が悪ければ、リハの効果が低い)ことが分かっており、さらに栄養状態の改善には「口腔機能の維持」が極めて重要となります。田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)や小玉剛委員(日本歯科医師会常務理事)ら多数の委員が、「リハビリ・口腔・栄養をセットで推進していく」ことの重要性を強調しています。

ところで、リハビリのデータに関しては「VISIT」(monitoring & eValuation for rehabIlitation ServIces for long-Term care)データベースに格納され、口腔・栄養のデータに関しては「CHASE」(Care, HeAlth Status & Events)データベースに格納されます(CHASEには、ほかに認知症やADL等に関するデータも格納、関連記事はこちら)。眞鍋老人保健課長は、2021年度改定を通じて「VISITとCHASEの一体化した運用」を行う方針も明確化。詳細は今後の議論を待つ必要がありますが、VISITにリハビリデータを提出して、データのフィードバックを受ける訪問・通所リハビリ事業所を評価する【リハビリテーションマネジメント加算(IV)】に倣って、CHASEにデータを提出等する介護事業所・施設への評価を検討することとなるでしょう。上記の「リハビリ・口腔・栄養をセットで推進していく」方針に沿うものと言えます。

VISITデータベース、CHASEデータベースの概要(介護給付費分科会1 200914)

各種評価の基礎となる「データ」入力・提出の負担軽減に向けた工夫を実施

ただし、【リハビリテーションマネジメント加算(IV)】については、「リハビリデータ入力負担が大きい(入力作業や利用者情報の収集など)ことなどから、算定率が極めて低い」という課題があります。このため、眞鍋老人保健課長は「介護記録ソフトとVISITとの連携を可能とし、改めての入力を不要とする」仕組みの導入などを行う考えを明らかにしています。

リハビリマネジメント加算(IV)の算定率は低い(介護給付費分科会3 200914)

データ入力の負担がVISITデータベース利用を妨げている(介護給付費分科会4 200914)

VISITデータベースとCHASEデータベースの運用を一体化し、介護スタッフに「まったく別のもの」との誤解が生じないようにする(介護給付費分科会5 200914)



この考えは、多くの委員から「歓迎」されていますが、「小規模事業所などでは介護記録ソフトの導入が進んでいない」「利用者の情報などを日常業務の中で自動的に収集できる仕組みが必要」との声も出ており、段階的な改善が検討されていくことでしょう。

関連して伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)や河本滋史委員(健康保険組合連合会理事)らは「データベースからの有益な情報のフィードバック充実」を提案。現場からは「時系列分析の拡充」「他事業所等利用者との比較分析」(ベンチマーク機能)を期待する声が出ていますが、どこまでの情報提供が可能なのか、専門的な検討を待つ必要がありそうです。

取り組みを評価するプロセス評価から、効果を評価するアウトカム評価を進める

ところで、【リハビリテーションマネジメント加算】を始め、多くの加算は「自立支援・重度化防止に向けた取り組み」を評価する、いわゆる「プロセス評価」です。

この点、河本委員や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)らは、「プロセス評価」から「アウトカム評価」への移行を進めていくべきとの考えを強調しています。アウトカム評価とは、介護事業所・施設が行った取り組みによって、「どういった効果が出たか」を評価するものです。例えば、「リハビリをどれだけ適切に提供したか」を評価するものがプロセス評価に該当し、「リハビリによって、どれだけADLが改善されたのか」を評価するものがアウトカム評価に該当すると考えることができます。

この点、【リハビリテーションマネジメント加算】を算定する利用者では、そうでない者に比べてIADL(手段的日常生活動作、食事やトイレを自立して行えるかなど)やLSA(活動範囲、自宅内にとどまるか外出できるかなど)が有意に改善していることが分かっており、一定の「効果」が現れています。

ただし、「効果」が見られるので、即座にアウトカム評価に移行できるか、となると別の問題が生じます。アウトカム評価の導入には、▼測定指標をどう設定するか▼クリームスキミングをどう防止するか—などという大きな課題があるのです。

前者に関しては「どういった状態を効果に設定するのか」「取り組みと効果との関係は明確か(他の要素で効果が出ていることもある)」などの点を十分に考慮して、適切な指標を設定する必要があります。

また後者は「効果の出やすい利用者のみを選別し、効果の出にくい利用者を忌避する」という動きをどう防止するかという問題です。後述する【ADL維持等加算】でも、クリームスキミング対策が組み込まれていますが、そのために算定要件が「かなり複雑」になっています。こうした課題を1つ1つ解決する必要があり、アウトカム評価の導入は一朝一夕にできるものではない点にも留意が必要です。

【ADL維持等加算】や【社会参加支援加算】など、算定要件の見直しは必要か

先に述べた【ADL維持等加算】は2018年度の介護報酬改定で導入された、アウトカム評価の代表格と言えます。介護保険制度では「要介護度が改善すると報酬が下がってしまう」というジレンマがあり、質の良いサービスを提供する介護事業者・施設では、かねてから頭を抱えていました(良いサービスを提供して利用者の要介護度が改善すると、得られる報酬が下がってしまい、経営的には悪化してしまう)。こうした問題を解消する方策がかねてより研究されてきており、2018年度改定では、まず通所介護・地域密着型通所介護を対象に、「ADLの維持・改善」を効果指標に据えた【ADL維持等加算】が新設されたものです。

実際に、【ADL維持等加算】を算定する事業所では、効果が要件となっていることもあり、「利用者の状態が改善している」という調査結果も出ています(もっとも利用者の状態が良い(BIが高い)場合には、天井効果で、さらなる向上の確認が難しい)。

ADL維持等加算の概要(その1)(介護給付費分科会6 200914)

ADL維持等加算の概要(その2)(介護給付費分科会7 200914)



ただし、要件が複雑なことも手伝って、その算定率は、昨年(2019年)4月時点で1.49%、今年(2020年)4月時点で2.38%にとどまっています。算定が困難な理由として、介護現場からは「事業所における要介護3以上の利用者が15%以上である」「初回の要介護認定から12か月以内の利用者が15%以下である」などの要件緩和を求める声が出ています。しかし、小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会理事)は、「これらはクリームスキミング対策として維持が必要である」との考えを述べています。

クリームスキミングは上述のように「効果の出やすい利用者のみを選別し、効果の出にくい利用者を忌避する」という動きです。「要介護度の高い人はADL改善の効果が出にくいことから、こうした方を忌避しないように「要介護3以上の利用者が15%以上」という要件が設けられ、「利用開始からの日が浅い人はADL改善の効果が出やすい」ことから、こうした方のみを選別しないように「初回認定から12か月以内の利用者が15%以下」という要件を設けているのです。

1つ1つの要件を吟味しながら、「見直すべきか、維持すべきか」を考えていくことが重要でしょう。眞鍋老人保健課長も「要件の中には介護現場との乖離が認められる項目もある(例えば【社会参加支援加算】や【生活行為向上リハビリテーション実施加算】など)。現場の意見も踏まえて、見直しが必要なものは、見直しを検討していく」考えを示しています。

この点、「算定率向上が目的ではない」点に留意が必要です。あくまで目指すべきは「自立支援・重度化防止」であり、そうした取り組みを行い、効果を上げている介護事業所・施設が適切に評価されているかどうかが重要なのです。ここを取り違えて、「算定率が低い。問題である」→「要件が厳しすぎるからだ」→「要件を緩和しよう」という短絡的な議論になってはいけません。

なお、【ADL維持等加算】に関しては「初月のBIが低い利用者ほど、BI改善度合いが高い」というデータが出ています。これは「要介護度の重い(初月BIが低い)ほど、ADL利得が大きい(加算の要件を満たしやすい)」ことを意味しており、「重度者の受け入れ」インセンティブになっていると見ることもできるでしょう。

重度者ほど、ADL改善度合いが高まる傾向にある(介護給付費分科会8 200914)



また、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)を始め複数の委員から、「ADL改善の効果を測定する指標」に関して、BI(Barthel Index)から別のものへ移行すべきではないか、との意見も出ています。東委員は見直すべき理由として▼認知症を評価できない▼介護スタッフがBIに不慣れである—ことなどを掲げています。もっともBIには「標準化が進んでいる」「国際的にも多く利用されている」ことから、眞鍋老人保健課長は「介護現場の普及状況や学問的観点などを踏まえて考えることが必要」との見解を示しています。なお、武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は「診療報酬でも多く活用されているFIM(機能的自立度評価法、Functional Independence Measure)の導入を検討してはどうか」と提案しています。

排泄自立について、施設以外での評価、アウトカムの評価を検討

アウトカム評価に関しては、「排泄の自立支援」にも導入すべきとの声が江澤和彦委員(日本医師会常任理事)らから出ています。現在、施設系サービスにおいて【排せつ支援加算】(排泄の自立に向けた支援・取り組みを評価する加算、2018年度改定で新設)が設けられていますが、さらに一歩進めて「利用者が自立した排泄を行えた」結果・効果を評価すべきとの提案です。施設だけでなく、「すべてのサービス類型で加算取得を認めるべき」との声も出ています。

排泄自立は「いわゆる在宅限界(要介護度が高くなっても在宅生活を維持する)の向上」「在宅復帰」に向けて極めて重要な要素であり、効果的な取り組みとその成果が適切に評価されることに期待が集まります。

排せつ支援加算の概要(介護給付費分科会12 200914)

寝たきり高齢者のADL改善に向けた取り組みの評価を検討

このほか、自立支援・重度化防止に向けて眞鍋老人保健課長は、▼いわゆる寝たきり状態(寝返りも困難な状態)の利用者であっても、1-4年後に改善するケースも一定程度ある▼寝かせきりにせず、座位を執る頻度の高い高齢者では、基本動作が改善する割合が高い▼離床時間の少ない高齢者は、ADL自立度が低い(裏を返せば離床時間が長いほどADL自立に向かいやすい)―などの極めて重要なデータも提示。

寝たきり高齢者であっても自立度が改善するケースが一定程度ある(介護給付費分科会9 200914)

寝たきり高齢者であっても、座位を執る頻度が高まるほど自立度合いが高まる(介護給付費分科会10 200914)

寝たきり高齢者であっても、離床時間の長いほど自立度合いが高まる(介護給付費分科会11 200914)



とりわけ、寝たきりの要介護者が多い介護保険施設などにおいて、離床時間の確保や座位の保持といった取り組みを評価する加算の新設が検討されそうです。江澤委員は「廃用のみによる嚥下障害などは、適切なケアが改善するケースが多い。寝たきり撲滅に向けた取り組みを評価すべき」と、また武久委員は「急性期病院から、早期にリハビリ可能な回復期病棟や介護保険施設へ移ることで、寝たきりを相当程度防止できる」と、医療・介護連携の重要性を強調しています。

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