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介護医療院への転換促進に向け、「総量規制からの除外」や「基金への返済期間延長」方針固める―社保審・介護保険部会

2020.7.28.(火)

「介護療養などから介護医療院への転換」が円滑に進むよう、2021年度からの第8期介護保険事業(支援)計画においても、総量規制の対象外とする―。

また「医療療養から介護医療院への転換」に関しては、「介護費の増加→保険料の急騰」を避けるために、「財政安定化基金の貸付」返済期間を9年間に延長し、保険者サイドのハードルを低くする―。

7月27日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、こういった方針が概ね了承されました。厚労省は政令(介護保険の国庫負担金の算定等に関する政令)改正などを進め、2021年度からの第8期介護保険事業(支援)計画作成環境を整える構えです。

2021年度からの第8期介護保険事業(支援)計画、介護人材確保や感染症対策を重視

介護保険制度は、3年を1期とした介護保険事業(支援)計画に基づいて運営されます(市町村が介護保険事業計画を、都道府県が介護保険事業支援計画を作成)。地域(市町村・都道府県)ごとにサービス整備量を計画に定め、それを賄うための保険料を設定し、3年ごとに見直すのです。

2021年度から新たに「第8期計画」(2021-23年度計画)がスタートするため、国は市町村・都道府県が計画作成の際に拠り所とする「基本指針」を提示します。2月21日の前回会合では、「基本指針」について議論を行い、例えば▼2025・2040年を見据えたサービス基盤、人的基盤の整備▼地域共生社会の実現▼介護予防・健康づくり施策の充実・推進▼有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅に係る自治体間の情報連携の強化▼認知症施策の推進▼介護人材確保および業務効率化―の6点をポイントとする方針を固めました。

さらに7月27日の介護保険部会では、新型コロナウイルス感染症の蔓延を踏まえた「感染症に対する備え」や、「リハビリテーションに係る評価指標」などについても基本指針に盛り込み、市町村・都道府県の介護保険事業(支援)計画で明確化する方向を確認しています。また委員からは「介護人材の確保、業務の効率化」がとりわけ重要となるとの意見が多数でています。今後の介護報酬改定論議にも大きく関係する部分です(関連記事はこちらこちら)。

厚労省は近く、全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議を開催し、基本指針等について自治体関係者に周知する考えを明確にしています。

●7月27日の介護保険部会に示された「基本指針案」

介護医療院への転換、第8期計画でも「総量規制」の対象外

ところで2018年度から、新たな介護保険施設として▼住まい▼医療▼介護―の3機能を併せ持つ「介護医療院」の整備が進められています。

設置根拠の切れる「介護療養」「医療法標準(看護配置4対1以上など)を満たさない医療療養」などの新たな受け皿ともなり、積極的な転換を促すために、厚生労働省では、第7期介護保険事業(支援)計画期間(2018-20年度)においては、▼介護療養▼医療療養▼介護老人保健施設―が介護医療院に転換する場合、その利用者数・入所者数の増加は「必要利用定員総数・必要入所定員数」に含まれず、【総量規制】による指定拒否は生じないことを明確にしていました。

【総量規制】とは、「介護保険施設のサービスの整備量を多くなりすぎ、保険料が高騰してしまう」事態を避けるために、「必要利用定員総数・必要入所定員数」という上限を設け、これを超過した整備申請(開設申請など)は「介護保険の指定を市町村や都道府県が拒否できる」仕組みです。

翻って今年(2020年)3月末時点における介護医療院の整備状況をみると、343施設・2万1783床で、宮城県では未整備(ゼロ施設)であるなど、「全国に遍く整備されている」とは必ずしも言い難い状況です。このため、介護医療院の整備・転換はさらに促進していく必要があり、介護保険部会において、2021-23年度の第8期計画期間においても、▼介護療養▼医療療養▼介護老人保健施設―が介護医療院に転換する場合、その利用者数・入所者数の増加は「必要利用定員総数・必要入所定員数」に含めない(【総量規制】による指定拒否の枠外とする)取り扱いを決定したものです。

今年(2020年)3月末時点における介護医療院の整備状況(介護保険部会4 200727)

想定外の介護保険財政悪化では「財政安定化基金」から貸付、特例で返済期間を9年に延長

ところで、「医療療養から介護医療院への転換」に関しては、「指定権者である市町村が転換を拒否する」事例があると指摘されます(関連記事はこちらこちら)。介護保険財政に直接関係のなかった医療療養が介護医療院に転換した場合、「介護費の増加」→「介護保険料の増加」に繋がります。とりわけ小規模な町村では、わずかな量の転換でも「介護保険料が急騰してしまう」可能性があるためです。

上記のように「医療療養から介護医療院への転換」は総量規制の対象外となるため、施設サイドの転換意向が十分に把握できず、「介護保険事業計画を上回る転換が生じ、想定外の介護保険料が高騰してしまう」というリスクもあるのです。

この点、想定外の事態によって介護保険財政が厳しくなる場合には財政安定化基金(各介護保険者が積み立てる基金)から「貸付」を受けることができます。医療療養から介護医療院への転換によって介護給付費が増加(支出増で財政に「穴」が開いてしまう)した場合、この「穴」を基金からの貸付で埋めることができるのです。ただし、通常はこの貸付の返済は「次の介護保険事業計画期間(3年間)に完了させる」ことが求められ、やはり「介護保険料の高騰」に繋がってしまいます。

財政安定化基金の概要(介護保険部会3 200727)



とは言え、こうした転換拒否は、良質な介護サービスの確保を阻害し、また施設サイドの経営も不安定にもしてしまいます。

そこで厚労省老健局介護保険計画課の山口高志課長は、次のような対応策を介護保険部会に提案しました。

▽第8期(2021-23年度)・第9期(2024-2026年度)に限り、財政安定化基金からの「貸付」に係る返済期間を9年(介護保険事業計画期間3期分)とする

返済期間が3倍に伸びることにより、「1期中の返済額の軽減(3分の1)」→「保険料上昇度合いの軽減(3分の1)」を実現することが可能となります。

財政安定化基金からの貸付に対する返済について、特例的に9年間に延長する(介護保険部会2 200727)



この提案に異論は出ていませんが、介護保険者である市町村代表委員である大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)と椎木巧委員(全国町村会副会長、山口県周防大島町長)は、より根本的な「財政支援」(例えば交付金による財政支援など)を要望しています。この点、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)も「医療療養から介護医療院への転換は、トータルで見れば社会保障費の軽減につながる。市町村への支援にも理解が得られるのではないか」との考えを示しています。

また、2018-20年度の第7期になされる「医療療養から介護医療院への転換」についても、財政安定化基金からの貸付返済期間延長の対象にすべきとの意見も出ています。

今後、こうした意見も踏まえて「介護医療院への転換」促進策の詳細を詰めていくことになります。

なお、財政安定化基金からの貸付期間延長は、政令(介護保険の国庫負担金の算定等に関する政令)改正が必要となることから、政府で必要な調整・手続が進められます。



こうした基本指針案の整備等とともに、別途議論されている介護報酬改定を踏まえて、2021年度から第8期介護保険事業(支援)計画がスタートします(介護給付費分科会における介護報酬改定論議の記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

来年度(2021年度)からスタートする第8期介護保険事業(支援)計画に向けたスケジュール(介護保険部会1 200727)



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