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補足給付を細分化し、比較的所得の高い層の食費自己負担を引き上げへ―社保審・介護保険部会

2019.12.17.(火)

介護保険施設とショートステイにおいて、低所得者への「居住費・食費・光熱費」負担を補填する「補足給付」について、より「負担能力に応じた負担」を求める形に見直してはどうか―。

12月16日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、こういった議論が行われました。

12月16日に開催された、「第88回 社会保障審議会 介護保険部会」

低所得ながら比較的所得の高い層で、食費の自己負担を引き上げ

介護保険制度は、3年を1期とした介護保険事業(支援)計画に基づいて運営されます(市町村が介護保険事業計画を、都道府県が介護保険事業支援計画を作成)。地域におけるサービス整備量を計画に定め、それを賄うための保険料設定し、3年ごとに見直すイメージです。

2021年度から新たに「第8期計画」(2021-23年度計画)がスタートするために、▼2019年に制度改正等の内容を固める▼2020年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ▼改正法等を受け、2020年度に市町村等で計画を作成する―というスケジュールが立てられ、現在、介護保険部会で介護保険制度改正論議が進められているのです。

介護保険部会の議論はまさに大詰めを迎えており、12月16日の会合には厚生労働省老健局介護保険計画課の山口高志課長から「給付と負担の見直し」に関する具体案が提示されました。

2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度に全員が75歳以上に到達することから、今後、さらに急速に介護ニーズが増加していきます。その後、2040年度にかけて高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、支え手である現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。「少なくなる一方の支え手」で「増加を続ける高齢者」を支えなければならないことから、介護保険制度の基盤は極めて脆くなっていくため、制度の持続可能性確保が非常に重要となり、「給付と負担の見直し」がどうしても必要となってくるのです。

「給付と負担の見直し」に関しては、これまでに(1)被保険者範囲・受給者範囲(2)補足給付(3)多床室の室料負担(4)ケアマネジメントの関する給付(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付(6)高額介護サービス費(7)「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準(8)現金給付―の8項目について議論が続けられてきました。このうち(1)の「被保険者範囲・受給者範囲」と(8)の「現金給付」は、介護保険制度の根幹にかかわる非常に重要なテーマです。例えば、少子化が進む中では「被保険者の範囲を拡大、つまり40歳未満にも広げてはどうか」などの点が、また高齢化が進む中では「受給者の範囲を縮小、つまり75歳以上などに引き上げてはどうか」という、議論が行われますが、介護保険部会で結論には至らず、「今後の検討課題」に位置付けられました(関連記事はこちら)。

残り6項目が次期制度改正の論点となりますが、いずれも賛否両論があり、山口介護保険計画課長は、(2)補足給付(6)高額介護サービス費―の2項目について具体案を提示。(3)多床室の室料負担(4)ケアマネジメントの関する給付(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付(7)「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準―については「引き続きの検討課題」とするにとどめました。つまり「ケアマネジメントにおける利用者負担は当面導入しない」「要介護1・2者へのサービスは、当面、介護保険給付を維持する(市町村の総合事業への移管は当面行わない)」「利用者負担2割・3割の対象者について当面、拡大は行わない」ことになりそうです。

2項目の具体的な見直し案を見てみましょう。

(2)の「補足給付」とは、低所得の施設入所者等に対する食費・光熱費・室料等負担への補助のことです。介護保険施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養、介護医療院)・短期入所生活・療養介護(ショートステイ)においては、居宅サービス利用者との均衡を考慮し、食費・居住費等が全額自己負担となります。しかし、低所得者への配慮から所得段階に応じて補助(補足給付)が行われているのです。

この点、補足給付には多分に「福祉的要素」があり、「介護保険からの給付は好ましくない。抜本的な見直しを行うべき」との指摘も強くありましたが、今回は次のように「公平性確保」に向けた見直しにとどめています。

▽施設入所者の補足給付について、第3段階を2つ(第3段階1と第3段階2)に区分し、「第3段階2」により多くの自己負担を求める
→介護保険料の所得段階と整合をとり、負担能力のある者により多くの負担を求める

補足給付(施設)の見直し内容案(介護保険部会3 191216)



▽ショートステイ入所者の補足給付について、第3段階を2つ(第3段階1と第3段階2)に区分するとともに、第2段階・第3段階1・第3段階2のそれぞれで、より多くの自己負担を求める
→介護保険料の所得段階と整合をとり、デイサービス等における利用者負担を勘案し、負担能力のある者により多くの負担を求める

補足給付(ショートステイ)の見直し内容案(介護保険部会4 191216)



▽補足給付の対象基準を精緻化し、現在の単身者の預貯金基準「1000万円以下」を▼第2段階:650万円以下▼第3段階1:550万円以下▼第3段階2:500万円以下―とする
→補足給付を受けるには、収入だけでなく、預貯金も勘案して「低所得」であることが求められる。各種介護保険施設に「15年間入所できる」程度の預貯金を持つ場合には、補足給付の対象外とする

補足給付における預貯金要件の見直し内容案(介護保険部会5 191216)



また(6)高額介護サービス費については、医療保険の高額医療費の自己負担上限額に合わせ、▼年収約770万円以上の者:9万3000円(現在は4万4400円)▼年収約1160万円以上の者:14万100円(同)―に自己負担上限額を引き上げる方向です。

高額介護サービス費の見直し内容案(介護保険部会6 191216)

「介護保険の持続可能性確保」には、厚労省の負担増案では心もとないとの指摘も

こうした見直し案に対して、費用負担者を代表する委員は「踏み込みが甘いのではないか」と指摘。例えば、河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)は「2022年度から、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年には全員が後期高齢者となり、これから急速に介護ニーズが高まる。2021年度の介護保険制度改正は、それに向けて介護費を適正化する最後のチャンスである。例えば、軽度者サービスの市町村事業への移行については、『多様なサービス主体の整備が進んでいない』ために見送るとしているが、『どのように多様なサービス主体を整備するのか』に触れていない。これでは単なる議論の先送りである。厚労省案では、持続可能性確保が心もとない」と指摘しました。

また井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)は「ケアマネジメントの自己負担導入や、軽度者サービスの市町村事業への移行、自己負担2割対象者の拡大などが『引き続き検討』とされたことは残念である。打ち出の小槌はなく、現役世代等の負担がどれだけ増加するのかをきちんと把握すべき」とコメント。



その一方で、「負担増を求める場合、明確な根拠を示し、丁寧に説明する必要がある」(伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)、「負担増によって、食費等を負担しきれない人が出てくる。その場合、社会福祉法人による負担減免救済の出番となるが、必ずしも十分に機能していない面もあり、配慮が必要である」(桝田和平委員:全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)、「応能負担を求める考え方は理解できるが、過重な負担を強いられる利用者がいないか検証する必要がある」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)などの意見も出ています。

佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)も「受益者の視点ばかりでなく、負担者側の視点にも立って、丁寧な説明を行う必要がある」と指摘。また佐藤委員は、「喫緊の重要課題として、事業所の大規模化や連携強化がある。これが実現しなければ、働き方改革もかなわず、ロボットやICTの導入などもかなわない」と強調しています。しています。

年内の意見取りまとめに向けて、「給付と負担の見直し」案についてはさらなる調整が行われる可能性もあります。

自己負担引き上げとなる対象者数、どの程度になるのか今後精査

なお、施設サービスについて▼「第3段階」を「第3段階1」と「第3段階2」に細分化する▼「第3段階2」の自己負担(食費)を引き上げる―という見直しが提案されていることから、自己負担増となる「第3段階2」に該当する施設入所者がどの程度いるのかが気になります。

今年(2019年)3月サービス提供分では、第3段階の該当者は31万4000人(特別養護老人ホーム:21万5000人、介護老人保健施設・介護療養型医療施設・介護医療院:9万9000人)です。

2019年3月サービス提供分の補足給付受給者数(介護保険部会2 191216)



この31万4000人の所得区分内訳は明らかではありませんが、第1号被保険者(65歳以上)の保険料・所得区分を見ると、▼補足給付の第3段階1に該当する「世帯全員が市町村民税非課税かつ本人年金収入等80万円超120万円以下」(保険料の所得区分では第2段階)が256万人▼補足給付の第3段階2に該当する「世帯全員が市町村民税非課税かつ本人年金収入等120万円超」(同第3段階)が242万人―となっています(2016年度)。仮に利用者ベースでも、この比率(256万人:242万人)が当てはまると大胆に仮定すると、▼第3段階1:16万1400人▼第3段階2:15万2600人―という計算になります。

1号被保険者の保険料設定・所得区分(2016年度)(介護保険部会1 191216)



もちろん、被保険者ベースの所得区分人数と、利用者ベースの所得区分人数とは異なると考えられるため、山口介護保険計画課長は「今後精査していく」と述べるにとどめており、今後「食費の自己負担増がどの程度の人数で生じる」のかに注目が集まるでしょう。
 
 
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