介護予防・重度化防止に向けた「地域支援事業」を各市町村でさらに推進せよ―介護保険部会
2019.3.22.(金)
介護保険制度の保険者である市町村には、介護予防や重度化予防などの「地域支援事業」にも積極的に取り組むことが期待されている。しかし、その取り組み状況にはバラつきがあり、これを是正・底上げするために2018年度から「保険者機能強化推進交付金」(いわゆるインセンティブ交付金)が創設された。さらに地域支援事業を推進することが、住民の健康確保や、介護保険制度の維持など、さまざまな面で重要である―。
3月20日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、こういった議論が行われました。
目次
要支援者の訪問・通所介護、多様なサービスに移行しても7割の利用者は状態維持
介護保険部会では、次期介護保険制度改革に向けて2月25日から議論を開始。個別サービスの改革論議を行う前に、各サービス横断的なテーマとして、次の5項目を夏までに集中的に議論する方針を固めました(関連記事はこちら)。
【横断的検討事項】
(1)介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)
(2)保険者機能の強化(地域保険としての地域の繋がり機能・マネジメント機能の強化)
(3)地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)
(4)認知症「共生」・「予防」の推進
(5)持続可能な制度の再構築・介護現場の革新
3月20日には、このうち(1)(2)について議論を行っています。未曾有の少子高齢化が進む中では、(5)の「制度の持続可能性確保」が重視されますが、例えば(1)(2)で「介護予防」が進めば、介護費用の増加スピード抑制にもつながるなど、(1)から(5)は互いに「連環する」項目とも考えられます。
介護保険制度は、地域住民に最も身近な自治体である市町村が保険者となって(もちろん都道府県や国の支援を受ける)、▼サービスの基盤整備▼要介護・要支援の判定▼保険料の設定・徴収や給付の管理―などを行っています。さらに、少子化・高齢化が進行する中では、こうした業務のほかに「介護予防」「重度化予防」「健康づくり」などの広範な業務を行うことが市町村に求められるなど、いわゆる「保険者機能」の強化が求められています。さらに市町村には、介護を含めた「地域づくり」において重要な役割が期待されています(関連記事はこちらとこちら)。
保険者機能の強化に向けては、2006年度に創設された「地域支援事業」を見直すとともに、2018年度から保険者ごとの取り組みを経済的に評価する「保険者機能強化推進交付金」(いわゆるインセンティブ交付金)が創設されています。3月20日の介護保険部会では、これらの改善向けた検討が行われています。
地域支援事業について、まず見てみましょう。市町村の実施する地域支援事業は現在(2014年に改正)、次の3つの事業で構成されています。
(1)介護予防・日常生活支援総合事業(単に「総合事業」と呼ぶことも多い)(▼介護予防・生活支援サービス事業(要支援者に対する訪問・通所サービス、配食などの生活支援サービス、介護予防支援事業)▼一般介護予防事業―)
(2)包括的支援事業(▼地域包括支援センターの運営▼在宅医療・介護連携推進事業▼認知症総合支援事業▼生活支援体制整備事業―)
(3)任意事業(▼介護給付費適正化事業▼家族介護支援事業―など)
まず(1)に関しては、2014年度の制度改正において、「要支援者の訪問・通所介護」を保険給付から総合事業へ移行するとの、大きな見直しが行われました。介護資源や利用者・家族のニーズは地域でさまざまなことから、その実情を踏まえてより「多様なサービス」提供を可能とするために保険給付から総合事業への移行が行われたものです。
もっとも、厚労省の調査によれば、2019年6月時点でも「従前の訪問介護・通所介護」以外の多様なサービスは一部にとどまっています。この点については、「総合事業のサービス単価は市町村と事業者が協議して設定することになっているが、実際は市町村から一方的に低廉な単価が通告されるだけである。低廉な単価では、経営が成り立つ部分に特化しようと事業者サイドは考える」(桝田和平委員:全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)という指摘もあり、「単価の在り方」を検討していく必要がありそうです。
なお、「保険給付から総合事業への移行」については、「要介護度1・2の訪問・通所介護も総合事業に移行すべき」という論点があります。2017年の制度改正に向けた介護保険部会論議では「要支援者のサービス移行について効果検証も行われていない段階で、要介護1・2の移行を検討することはできない。時期尚早である」との結論が導かれていますが、次期制度改正に向けても再度の論点となります(「新経済・財政再生計画改革工程表2018」(改革工程表)で指示されている)。
この点について厚労省の調査研究では、▼多様なサービス利用者の利用日数は総合事業への移行前後で大きな変化はない▼介護予防訪問介護・介護予防通所介護から多様なサービスへ移行した利用者の2年後の状態変化を見ると、約7割が状態を維持している―ことが分かりました。サービスの質を見る際には、「総合事業へ移行した場合の要介護度等」と「介護保険給付にとどまった場合の要介護度等」を比較する必要がありますが、後者の集団はおらず(移行しているため)、限られた情報の中で判断せざるを得ません。この点、限られた情報とは言え、今般の調査研究からは、サービスの質は一定程度「維持されている」と見ることもでき、今後の具体的論議における重要資料となるでしょう。もっとも伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は、「多様なサービスが十分に確保されていない中で、要介護1・2の訪問・通所介護の総合事業への移行は認められない」と牽制しています。
地域包括支援センターの業務は拡大、「業務整理」を行うべきか「人員強化」を行うべきか
また(2)の「地域包括支援センター」は、各市町村に設置(直営または委託運営)される「住民の健康を保持し、生活の安定のために必要な援助を行う」施設です。▼保健師▼社会福祉士▼主任介護支援専門員―などが配置され、「総合相談支援」「権利擁護」「包括的・継続的ケアマネジメント支援」「要支援者のケアマネジメント」など幅広い業務を行うとともに、▼在宅医療・介護連携の推進▼認知症施策の推進▼地域ケア会議の推進▼生活支援サービスの充実・強化―に関する役割も期待され、さらに「介護離職ゼロ」に向けた新たな役割も模索されています。
このように、広範な役割が期待されていますが、「人員は限られており、スタッフの負担が過剰になっている」という課題が指摘されています。この点については、「人材配置の強化」(石本淳也委員:日本介護福祉士会会長、伊藤委員)を求める意見とともに、「介護サービス事業所・施設と地域包括支援センターの一体的運営を一定程度認めるべき」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)などの意見も出ています。
一方で、過剰な業務を整理するという方向も考えられ、齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)らは「要支援者のケアマネジメント業務はケアマネ事業所に委譲し、地域包括支援センターは地域の課題解決に特化すべき」と提案しています。
「負担軽減を図るために業務を切り分ける」のか、「業務量に見合った人員強化を行う」のか、もちろん選択肢は2つに限られませんが、地域包括支援センターの在り方が1つの岐路を迎えているとも考えられそうです。
2021年4月からケアマネ事業所管理者は「主任ケアマネ」に限定、研修受講推進を
また(1)のうち「介護予防ケアマネジメント」(要支援者のケアマネジメント)にも関連しますが、「ケアマネジメント全般」の質を高めていくことが重要です。利用者の状態や環境、ニーズ等を十分に把握し、自立に向けてどういったサービスを組み合わせるべきか、ケアマネジャーや地域包括支援センターのスキルアップとともに医療・介護サービス事業者とのネットワークの拡大・強化が必要不可欠になります。
詳細は個別サービス論議でも議論することになりますが、3月20日の介護保険部会では「2021年4月から居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)の管理者は主任ケアマネジャー資格を保有しなければならないことになっているが、果たして間に合うのか」との指摘が複数の委員から出されました。
この点について厚労省老健局振興課の尾崎守正課長は、主任ケアマネ資格取得に向けた研修を受けやすくするため、例えば▼土日や夜間の研修開催▼研修費用に関する地域医療介護総合確保基金を活用した補助―などを実施していることを説明しています。主任ケアマネがおらず、そのケアマネ事業所を閉鎖しなければならないとなれば、円滑なケアプラン作成にも影響が出てくるでしょう。積極的な研修受講、資格取得支援が求められそうです。
なお、(1)のうち「一般介護予防事業」については、新たに検討会(一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会)を設置し、▼今後求められる機能▼専門職関与に向けた方策―などを議論していく(夏頃に中間報告、年内に最終報告を介護保険部会に対して行う)方針が厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長から示されています。
都道府県・市町村へのインセンティブ交付金、徐々に「アウトカム」に着目した指標に
こうした地域支援事業の取り組み状況には、市町村間でバラつきがあります。介護保険制度は地域保険ですが、公費や若人から支援金もあり、「すべての市町村で積極的に介護予防等に取り組む」ことが求められます。介護予防に消極的で、介護費用が高騰した場合、当該市町村だけで費用を賄うわけではないからです。
市町村の積極的な取り組みを促すために、2017年の介護保険制度改正で「保険者機能強化推進交付金」(いわゆるインセンティブ交付金)が創設されました。2018年度・2019年度には200億円の財源が容易され、うち10億円を都道府県に、うち190億円を市町村に振り分け、「積極的な取り組みを行う自治体に、より多くの財源を投入する」ものです。
この点、2018年度は初年度ということもあり、「取り組みに着手しているか」に着目した評価が行われましたが、2019年度から、徐々に「成果」に着目した評価にシフトしていくことが厚労省から示されています。なお、2019年度からは「取り組みが不十分な市町村が管内に多い」都道府県を厳しく評価する仕組みも導入されます。これは「都道府県には市町村支援が求められる」点を踏まえたもので、厳しい評価を避けるために、都道府県には積極的に市町村支援を行っていくことが期待されています。
3月20日の介護保険部会でも、多くの委員から「アウトカムに着目すべき」との指摘が多数でており、厚労省老健局総務課の黒田秀郎課長は「同じ方向を向いていることが確認できた」とコメントしています。
また、河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)からは「なすべきことを実施していない市町村では、何らかのペナルティを検討することも必要ではないか」との指摘が出ていますが、都道府県・市町村サイドからは「底上げが目的であり、格差が広がるようなペナルティ方策は導入すべきでない」との反論も出ています。2018年度に導入されたばかりの仕組みであり、まずは「改善」に向けた検討から進められることになりそうです。たとえば、介護予防事業などの成果を見るために、どのような項目を設定すればよいかという研究も進むと期待され、「よりアウトカム・成果に着目した市町村の評価」が進むことになるでしょう。
なお、市町村の取り組み状況が見える化されるよう、「インセンティブ交付金の具体的な交付状況(どの市町村がナンバー1で、どの程度の財源が配分されたのか、など)を可能な限り公表していくことも求められそうです。
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