「住民の集い」「互助」「専門職の知恵の出し合い」を進め、地域づくりに資する介護保険制度を構築―厚労省・大島老健局長
2019.1.21.(月)
地域づくりを支える介護保険制度を目指し、自治体向けに(1)住民の集い(2)住民の互助(3)多専門職種による支援―の3部で構成される「地域づくり」支援の手引きを作成し、3月にも公表する。
1月18日に開催された2018年度の「全国厚生労働関係部局長会議」において、厚生労働省老健局の大島一博局長は、こういった考えを明らかにしました。
目次
2020年度の介護保険制度改正を見据え、地域づくりの手順書を厚労省で策定
第8期介護保険事業(支援)計画(2021-23年度)に向けて、今年(2019年)1年間、介護保険制度改正に向けた議論が行われます(2020年の通常国会への介護保険法改正案提出を目指し、2019年末までに社会保障審議会・介護保険部会で意見を取りまとめる)。
大島老健局長は、介護保険制度見直しのポイントとして、▼人手不足への対応▼認知症高齢者への対策▼制度の持続可能性確保―の3点をあげた上で、少子高齢化の中で人手不足がより深刻化し、3点の上位概念となる「地域づくり」が特に重要になり、介護保険制度改革でも「地域づくり」を目指す必要があると見通しました。介護従事者の確保が進まなければ、まさに「保険あって介護なし」の状態が生じてしまいます。
そうした中で厚労省では、介護予防・生活支援という地域支援事業のさらなる活性化を目指し、「市町村が自ら地域づくりを実施するための手順書・手引書」を作成していることが大島老健局長から明らかにされました。具体的には、次のような「3部構成」になる予定です。
▽第1部【住民の集い】
地域の住民が集まり、体操や軽い運動などする場(例えば「通いの場」)を、徒歩5分、10分のところに多く作ってはどうか
▽第2部【住民の互助】
自然発生的な「住民互助」に加え、例えば「認知症支援を学ぶだけでなく、実践し、活動するタイプの認知症サポーター」などの、「制度を活用した互助」を進めてはどうか
▽第3部【専門職種による知恵の出し合い】
医療・介護の専門職種が連携し、住民の困りごとを見つけ、その解決策を話し合うことで「地域包括ケア」や「地域共生社会」を構築してはどうか
もちろん、地域によって状況(地理的な状況や、医療・介護専門職の確保など)が異なるため、この手順書・手引書は「地域で議論する際の素材」という位置づけになります。3月(2019年3月)開催予定の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議で、手順書・手引書の第1版が示され、地域の関係者の意見などを踏まえて、順次バージョンアップしていく予定です。
消費税率引き上げに伴い、基本単位数を引き上げ、新処遇改善加算を新設
また、今年(2019年)10月には消費税率が8%から10%に引き上げられる予定です。これを踏まえ、(1)介護事業所・施設の控除対象外消費税負担増を補填するための基本単位数引き上げ(消費税対応改定)(2)消費税財源を活用した新たな処遇改善加算の創設―という2つの介護報酬改定が行われます。
すでに改定方針は社会保障審議会・介護給付費分科会で固められており、近く具体的な単位数等が示されます(関連記事はこちら)。
このうち(2)の新たな処遇改善加算は、メディ・ウォッチでもお伝えしているとおり、▼経験・技能ある介護職員に重点化した処遇改善を行う▼これまでの処遇改善をさらに進める▼介護職員以外の職種への柔軟な対応も認める―という複雑な加算となります。従前からある【介護職員処遇改善加算】(I、II、III)を取得している介護事業所・施設(全介護事業所・施設の9割程度)において、「サービスの種類毎」および「サービス提供体制強化加算などの取得状況」に応じた加算を取得することができます。各事業所・施設で柔軟な対応を認めるために、複雑な仕組みとなっており、大島老健局長は「説明を丁寧に行う必要がある」とコメントしています。
なお、【介護職員処遇改善加算】のIV、V取得事業所・施設や、そもそも【介護職員処遇改善加算】を取得していない事業所・施設では、新たな処遇改善加算も取得できません。こうした事業所・施設に対しては、【介護職員処遇改善加算】(I、II、III)の取得促進に向けた支援として、例えば「社会保険労務士を派遣した個別のアドバイス」などが行われており、大島老健局長は「活用促進に向けた周知」などを都道府県担当者に要請しました。
「業務仕分け」「ICT等活用」「元気高齢者活用」で介護現場を革新
また、新たな処遇改善加算創設の背景にも「深刻な介護現場の人手不足」があり、「介護サービス現場の改善」が重要な課題となっています。厚労省では昨年末に、介護事業所・施設等の団体で構成される「介護現場革新会議」を設置し(2019年3月に意見とりまとめ)、▼業務仕分け▼ロボット・ICTの活用▼元気高齢者の活用―の「三位一体」改革を進めることとしています。次のような流れで、4月以降にパイロット事業を行い、来年度(2020年度)以降、全国で介護現場革新を展開していく考えを大島老健局長は強調しています。
▽介護事業所・施設の業務を、▼ベテラン介護職等でなければ担えない業務▼経験の浅い介護職等でも担える業務▼専門職でなくとも実施可能な業務―などに「仕分け」る
↓
▽ロボットやICT等を用い、例えば「介護記録の入力」や「夜間の見守り」などの分野で業務の効率化を進める
↓
▽食事の配膳や下膳、バックヤード業務などの▼専門職でなくとも実施可能な業務については、地域の「元気高齢者」に担っていただく(介護事業所・施設で「介護助手」として雇用する)
「働き方改革」を進め、介護職等の負担を軽減するとともに、「元気高齢者」の雇用を創出することで「人手不足」の解消が期待され、さらに介護職等が「専門職でなければ担えない」分野に注力・集中することで、介護サービスの質が向上することにもつながるでしょう。サービスの質向上は「評価(=賃金)の向上」につながる可能性もあり、さらなる「職場への定着」にもつながることでしょう。
また、大島局長は「業務仕分け」に関連して、▼地域医療介護総合確保基金において「業務改善支援」費用や「請求・記録に関する介護ソフトとタブレット端末とのセット購入」費用などにも助成を行う▼文書量の半減(指定関係、報酬関係、指導監査関係)に向けた標準様式の検討を自治体とともに進めている―ことにも付言しています。
なお、認知症対策の強化に向けて、今年(2019年)5・6月を目途に、オレンジプランを大改革した、新たな「認知症施策大綱」が取りまとめられます。
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