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外来診療 経営改善のポイント 2024年度版ぽんすけリリース

2019年10月予定の「新処遇改善加算創設」「消費税対応改定」の大枠固まる―介護給付費分科会

2018.12.12.(水)

 2019年10月には消費税率の8%から10%への引き上げが予定されており、「消費税対応改定」と「新処遇改善加算」の創設を行う。前者の消費税対応改定については、▼基本単位数を中心に介護報酬を引き上げ、区分支給限度基準額も相応の引き上げを行う▼食費・居住費について「基準費用額」の引き上げを行う(負担限度額は据え置くため、補足給付の引き上げとなる)―、また後者の新処遇改善加算については、▼「経験・技能のある介護職員」の割合の多寡に応じて、サービス種類ごとの加算率を設定する▼現行の【介護職員処遇改善加算】(I)-(III)を取得する介護事業所・施設を中心に加算を行い、とくに【サービス提供体制強化加算】などの算定事業所でより手厚い加算を行う―、などとする―。

 12月12日で開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった方針が固められました。近く開かれる次回会合で、厚生労働省から「審議報告」案が提示される見込みです。

12月12日に開催された、「第166回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

12月12日に開催された、「第166回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

 

訪問看護や福祉用具貸与などは、新処遇改善加算の対象とならず

 来年(2019年)10月の消費税率引き上げ(8% → 10%)に伴い、介護事業所・施設の控除対象外消費税負担を補填するため「特別の介護報酬プラス改定」(以下、消費税対応改定)が行われます。

あわせて安倍晋三内閣では、▼介護人材の確保▼介護人材の定着—の重要性に鑑み、「消費税対応改定において、介護職員の更なる処遇改善を行う」方針を決め、新たな処遇改善のための加算(ここでは【新加算】と呼ぶこととする)も創設することとなりました。

介護給付費分科会では、今秋(2018年秋)から具体的な制度設計論議を行い、今般、大枠を固めるに至りました。

まず後者の【新加算】について見てみましょう(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

新加算は、現在の【介護職員処遇改善加算】と同様に、各事業所において「各利用者に提供したサービスに係る報酬」に一定の「加算率」を乗じることで、「介護職員等の処遇改善」に向けた原資を提供するものと言えます。

新加算も介護職員等の処遇改善を目指すものであること、とくに「経験・技能のある介護職員」の処遇改善を主眼としていること、に鑑み、介護給付費分科会では、次のように「加算率」を設定する考えを固めました。

▽現在の介護職員処遇改善加算と同様のサービス種類を、新加算の対象サービスとする(介護職員が従事していない、訪問看護や福祉用具貸与、居宅介護支援(ケアマネジメント)などは対象とならない)

▽各サービスの加算率は、「当該サービス種類における『現在、介護福祉士の資格を有する者であって、同一法人・会社での勤続年数が10年以上の者』(以下、勤続10年以上の介護福祉士)の割合」に応じて設定する(勤続10年以上の介護福祉士が多く配置されているサービスで、加算率を高く設定する)

「介護福祉士を置き、良質なサービス提供する事業所等」、同じサービス内でも高い加算率

 ところで、同じ介護保険サービスであっても、事業所・施設ごとに「勤続10年以上の介護福祉士」の割合は異なります。介護給付費分科会では「これらを一律に扱うことは好ましくない。経験・技能のある介護福祉士を多く配置する事業所では、その努力に報いる(加算率を高くする)べきである」との指摘が多く、次のように「2段階の加算率」を設ける方針が固められました。

▽【サービス提供体制強化加算】【特定事業所加算】【日常生活継続支援加算】等を算定する事業所・施設では、加算率を手厚く設定する(下図のA1)

▽上記加算の算定等がない事業所では、加算率を低く設定する(下図のA2)

 
 【サービス提供体制強化加算】などが、「より質の高いサービスを提供するために、介護福祉士配置を手厚く行っている」点に着目した加算であることに鑑みた設計と言えます。なお、特定施設入居者生活介護等における【入居継続支援加算】も介護福祉配置等に着目した加算であり(2018年度改定で新設)、取得実績などが明確であれば、A1の対象となる見込みです。

 
もっとも、委員からは「事業所・施設ごとの『勤続10年以上の介護福祉士』割合」を勘案すべき(いわば、個別事業所・施設ごとに加算率を設定するイメージ)との指摘も出ており、厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は「経験・技能のある介護職員が多い事業所や職場環境が良い事業所を的確に把握する方法」について、今後、検討していく考えを示しています。

「職場環境要件を複数実施する」など、人材定着に取り組むことが新加算の要件に

また、【新加算】を取得するための要件としては、(1)現行の【介護職員処遇改善加算】(I)~(III)を取得している(2)【介護職員処遇改善加算】の職場環境等要件に関し、「複数」の取り組みを行っている(3)【介護職員処遇改善加算】に基づく取り組みを、ホームページ掲載などを通じて見える化している―という3点とすることが固められました。単純な【介護職員処遇改善加算】への上乗せではなく、「より職員定着に向けた努力を行っている」事業所・施設について、新加算という経済的インセンティブを与えるものと言えます。

 このうち(2)の職場環境等要件については、例えば▼働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援▼新人介護職員の早期離職のためのエルダー・メンター(新人指導担当者)制度等導入▼中途採用者に特化した人事制度の確立(勤務シフトの配慮、短時間正規職員制度の導入等)―などがあり、これらを複数実施していることが必要となります。

 
ただし、河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)や石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学看護学部教授)らは「2項目実施すればよいのだろうか、より積極的に職場環境改善に取り組むよう促す必要があるのではないか」といった旨を指摘。今後、厚労省で「運用上の工夫」(例えば、必須の項目を設定するなど)を検討していくことになるでしょう。

事業所内での賃金引上げなど、最低限ルールの中で「各事業所等の広い裁量」認める

 新加算の主目的は、前述したように「技能・経験のある介護職員」の処遇改善にあります。もっとも、「介護職員とその他のスタッフとの賃金バランスなどに配慮し、介護職員の賃金引き上げを十分に行えない」という事業所・施設も少なくないことから、「他職種の処遇改善」にも一定程度、活用することが認められます。

ただし、「他職種の処遇改善」等を重視するあまり、本来目的である「技能・経験のある介護職員」の処遇改善が疎かになってはいけないので、介護給付費分科会では、次のような最低限のルールを設定しています。このルールの範囲内で、各事業所・施設が「工夫を凝らした処遇改善」を行うことが期待されます。

【経験・技能のある介護職員】(下図の橙色部分)
▽対象:勤続年数10年以上の介護福祉士を基本とする。介護福祉士を要件とするが、「勤続10年」の考え方は事業所の裁量で設定可能とする

▽最低限のルール:次の2項目を満たすように賃金を引き上げる
▼「月額8万円の処遇改善となる者」または「改善後の賃金が年収440万円(役職者を除く全産業平均賃金)以上となる者」が1人以上
▼平均の引き上げ幅は、「【その他の介護職員】の引き上げ幅の2倍」以上とする

 
【その他の介護職員】(下図の青色部分)
▽対象:「経験・技能のある介護職員」以外の介護職員

▽最低限のルール:平均の引き上げ幅が「【その他の職員】の引き上げ幅の2倍」以上となるように、賃金を引き上げる

 
【その他の職種】(下図の緑色部分)
▽「経験・技能のある介護職員」「その他の介護職員」以外の全職員

▽最低限のルール:「改善後の賃金額が『役職者を除く全産業平均賃金(年収440万円)』を超えない場合に、処遇改善を可能とする」旨のルール設定を検討する(全産業平均よりも給与の高いスタッフの賃金を、新加算でさらに引き上げることは、新加算の趣旨に反するため)

 
 繰り返しになりますが、こうした最低限のルール(【経験・技能のある介護職員】:【その他の介護職員】:【その他の職位】が2:1:0.5など)の範囲内であれば、個々のスタッフの処遇改善をどの程度にするかについては、各事業所の広い裁量が認められる見込みです。

この点、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)らは「【経験・技能のある介護職員】の中で賃金引き上げ幅が最も小さい人と、【その他の介護職員】の中で賃金引き上げ幅が最も高い人との間で、逆転現象が生じてはいけないのではないか」と指摘しています。理論的には逆転現象は生じえますが、「賃金の引き上げ内容などを全職種に周知する」ことが求められるなどの要件に鑑みれば「極めて稀なケース」と考えられそうです。

 その一方で、上記の最低限ルールによっても「事業所・施設の裁量が失われる」との指摘も少なくありませんが、「全くの無制限」にしたのでは、新加算の趣旨が失われてしまう危険性もあります。公費と保険料という、いずれも「国民の負担」によって新加算を創設するため、一定のルール設定は必要でしょう。

消費税対応改定、「食費等の基準費用額」と「補足給付」も引き上げへ

 次に、消費税対応改定の内容を見てみましょう(関連記事はこちらこちらこちら)。

 公的介護の費用は消費税非課税となっており、介護事業所・施設(以下、事業所等)が物品等を購入した際に支払う消費税は、利用者・入所者に転嫁できず、事業所等が負担しなければなりません(控除対象外消費税負担)。来年(2019年)10月には消費税率の引き上げ(8%→10%)が予定され、この負担が大きくなることから、事業所等の経営を圧迫してしまいます(コスト増になる)。そこで事業所等の負担増を補填する「特別の介護報酬プラス改定(消費税対応改定)」が必要となるのです、2014年度の消費税率引き上げ時(5%→8%)にも消費税対応改定が行われました。

 これまでに介護給付費分科会では、次のような点について方向が固まっていました。

▽サービスごとの「支出に占める消費税が課税される費用の割合」(課税経費率、減価償却費や物品等購入費の割合)を算出し(下表)、消費税率引き上げによる負担増を賄えるように、基本単位数の増点(上乗せ)を行う

 
▽加算のうち、介護老人保健施設における【所定疾患施設療養費】(入所者に肺炎治療などを行った場合の加算)、【緊急時施設療養費】(入所者が意識障害などに陥り、緊急治療を行った場合の加算)など、「課税費用の割合が大きいと考えられる加算」については、増点(上乗せ)を行う(他の多くの加算は増点せず、基本単位数の中で考慮する)

▽区分支給限度基準額(要介護度別に定められた1か月当たりの公的介護サービスの利用可能上限額、超過分は全額自己負担)について、利用者負担増を避けるために、引き上げを行う

 
 さらに、12月12日の介護給付費分科会では、食費・居住費の基準費用額についても「引き上げを行う」方針が眞鍋老人保健課長から示されました。物価や委託費等の高騰に加え、今回の消費税率引き上げで「実費と基準費用額との乖離」が大きくなるためです。

一方、利用者の負担限度額は据え置かれます。消費税率引き上げによって、利用者の負担能力が向上するわけではないためです。

これは、「低所得者に対する食費・居住費負担を補填する」補足給付を引き上げることを意味し、年末の予算編成過程で必要な財源確保に向けた議論が行われます。

食費・居住費は介護保険給付の外に置かれているが、低所得者に配慮して、▼負担限度額(入所者負担の上限)▼基準費用額と負担限度額の差額の給付(付加給付)—が設定されている。

食費・居住費は介護保険給付の外に置かれているが、低所得者に配慮して、▼負担限度額(入所者負担の上限)▼基準費用額と負担限度額の差額の給付(付加給付)—が設定されている。

 
 
 このように「消費税対応改定」と「新加算創設」の方針は概ね固まったと言えます。厚労省は、近く開かれる次回会合に「審議報告」案を提示。介護給付費分科会での「審議報告」の了承、年末の予算編成(必要な予算の確保、もっとも両者とも大方の財源は確保済)を経て、年明けに具体的な点数が明らかになります(今年度(2018年度)中に単位数改定に関する告示・通知発出等を行う見込み)。

 
 
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