介護保険改革論議スタート、給付と負担の見直し・事業所等の大規模化・人材確保などが重要テーマ―介護保険部会
2019.2.26.(火)
2021年度からの第8期介護保険事業(支援)計画の策定に向けて、社会保障審議会の介護保険部会で制度改正論議がスタートしました。
2022年からいわゆる団塊の世代が75歳以上に到達しはじめ、2025年には、すべて後期高齢者となります。その後2040年にかけて、高齢化のスピードは鈍化しますが、「支え手」となる現役世代が急速に減少していきます。このため、介護保険財政が厳しくなるとともに、サービス提供の要となる「人材」の確保も難しくなってくることから、「介護保険制度の持続可能性」が極めて重要なテーマとなってきます(関連記事はこちら)。
目次
2019年中に改革案を詰め、20年に改正法案提出、2021年度から第8期計画スタート
介護保険制度は「3年を1期」として、サービス提供体制の整備や、保険料の設定などが行われ、現在は、2018-20年度を対象とする「第7期介護保険事業(支援)計画」が走っています。次の2021-23年度を対象とする「第8期介護保険事業(支援)計画」の策定スケジュールを考えると、▼2019年に制度改正等の内容を固める▼2020年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ▼改正法等を受け、2020年度に市町村で第8期介護保険事業計画、都道府県で第8期介護保険事業支援計画を策定する▼2021年度から第8期介護保険事業(支援)計画を走らせる―こととなります。
介護保険部会では、本年(2019年)末を目途に意見を取りまとめる必要があり、2月25日から制度改正論議をスタートさせました。
検討項目について厚生労働省老健局総務課の黒田秀郎課長は、2040年にかけて訪れる超少子高齢社会を見据えながら、第8期介護保険事業(支援)計画の策定を進めることが必要との考えを示し、「まず制度全体に関連する横断的な事項を議論し、その後、『施設サービス』『居宅サービス』『利用者負担』などの個別施策に係る事項を検討してほしい」と介護保険部会委員に要請。まず、以下の5つの「横断的な項目」を、今夏(2019年夏)までに集中的に議論していくことになりました。
【横断的検討事項】
(1)介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)
(2)保険者機能の強化(地域保険としての地域の繋がり機能・マネジメント機能の強化)
(3)地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)
(4)認知症「共生」・「予防」の推進
(5)持続可能な制度の再構築・介護現場の革新
もっとも、後述するように、委員からは「介護事業所・施設の大規模化による経営の安定」などといった事項も健康項目に加えるべきとの提案が出ており、今後、柔軟に見直されると考えられます。
2月25日の介護保険部会では、介護保険制度改革全般にわたる幅広い自由討議が行われました。順不動で見ていきましょう。
「給付と負担の大胆な見直し」「事業所・施設の大規模化」の検討を
冒頭に述べたように超少子高齢社会となる2040年に向けて、(5)の「持続可能性の確保」が非常に重要となります。
安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)、井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)、河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)らは、現役世代の負担・企業の負担が限界に来ていることを訴え、「給付と負担の大胆な見直し」の必要性を強調しています。例えば、「支え手」を増やすために、現在40歳以上となっている「第2号被保険者」の範囲を拡大する(例えば、30歳以上、20歳以上と引き下げるなど)こと、給付の対象を「重度者に限定する」(例えば、要支援者の給付は介護保険から別の制度に移管するなど)ことなども検討テーマとして挙がってくる可能性があるでしょう。
これらはいずれも「介護費の縮小」を意味します。この場合、中小規模がほとんどである介護事業所・施設では経営が厳しくなるでしょう。このため、佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)や安藤委員、井上委員らは「介護事業所・施設の大規模化に向けた、経営の統合・再編を検討すべき」と提案しています。大規模化は、事務コストの削減につながるとともに、労働者の負担軽減にもつながります。新経済・財政再生計画でもこの点への指摘があり、次期介護保険制度改革に向けた重要な検討テーマと言えるでしょう。
併せて、多くの委員からは「制度の複雑化」を懸念する声も出ています。多様化する利用者のニーズに応えるために、新たな介護保険サービスの類型の創設(例えば、最近では定期巡回・随時対応型訪問介護看護や看護小規模多機能型居宅介護)などが行われています。しかし、その反作用として「制度の複雑化」が生じていることも事実で、介護保険制度の全体像を理解できている国民・利用者はごくごく一部にとどまっています。さらに、サービス類型の多様化が、事業所等の大規模化を阻害する一因になっているとの指摘もあります。「利用者のニーズ」と「分かりやすさ」とのバランスをどうとっていくかも、今後の制度改革論議における重要視点の1つになります。
この点に関連して齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)は、「いきなり経営統合(つまり事業合併)となるとハードルは高い。訪問看護分野では、病院の看護師が一定期間、訪問看護ステーションに出向し、後に病院に戻るという仕組みをとっている自治体もある。こうした点の拡充から検討していってはどうか」と提案しています。いわば「地域資源全体を活用し、地域全体で1つのサービスを経営・運営する」仕組みと言えるかもしれません。
2040年に向けて現役世代が急速に減少、「介護人材の確保」が極めて重要
さらに、多くの委員から指摘されたのが「人材確保」の重要性です。第7期介護保険事業計画に基づくだけでも、2020年度末までに約26万人、2025年度末までに約55万人の新規介護人材が必要と試算され、「年間6万人程度」の介護人材養成が必要です。その後に訪れる現役世代減少を踏まえれば、人材確保が極めて難しくなることが容易に想像されます(関連記事はこちらとこちら)。
厚労省では、「介護人材の処遇改善」「ICTやロボットの活用」「元気高齢者の介護助手としての活用」などを検討テーマに掲げていますが、さらに幅広い視点での検討も待たれます。委員からは「人材確保を検討項目の1つとせよ」との提案も相次いでいます。もちろん、特別の検討項目となっておらずとも、人材確保の重要性は誰もが認識しており、検討が疎かになることはありません。
ところで、人材確保に関連して「職場定着」の推進も課題の1つとなっています。介護従事者の給与水準が低い背景の1つとして、「1つの事業所・施設に勤続する期間が短く(つまり短期間で転職等してしまう)、これが基本給増を阻んでいる」との指摘があります。こうした点を踏まえて、2017年度の臨時介護報酬改定で、キャリアアップの仕組み構築を要件とする【介護職員処遇改善加算(I)】が新設され、今般の2019年度の臨時介護報酬改定でも新たな処遇改善加算【特定介処遇改善加算】の新設が行われます。
ただし、この点に関連して江澤委員は、「介護事業所・施設で、すべての職員が定年まで労働することになれば、給与水準が上がり、経営が破たんしてしまうだろう」と見通し、「職員が長く働ける仕組み」構築の必要性を強調しています。
認知症の「予防」(重症化予防など)を、共生・社会参加と並ぶ柱の1つに
また認知症高齢者の増加が見込まれる(2012年:462万人→2025年:約700万人)ことから、(4)の認知症対策も最重要テーマの1つとなります。
黒田総務課長は、これまでの▼共生▼社会参加―に加え、新たに「予防」(重度化の予防、粗暴行動などのBPSDの発生予防など)を柱に据える考えを強調。今年5・6月には、「新オレンジプラン」(認知症施策推進総合戦略)に続く、新たな認知症施策に関する「大綱」が固められます(現在、関係閣僚会議を中心に議論中)。
この点について、花俣ふみ代委員(認知症の人と家族の会常任理事)から「現在、認知症初期チームがあるが、重度化してからの対応となっているようだ。早期発見を柱の1つに据えてほしい」との、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)から「早期の段階での共生が重要である」との指摘が出ています。
なお、鈴木隆雄委員(桜美林大学大学院自然科学系老年学研究科教授)は、最新の研究では「認知症発生リスクとして、教育水準が大きい」ことが明らかになってきている点を指摘。「すでに老年になった世代と、これから老年を迎える世代では教育水準が異なる。また生涯教育も認知症発症に大きく関係しているとの研究結果もある」ことし、エビデンスに基づいた施策の推進の重要性を訴えています。
市町村の「一般介護予防」事業推進に向けて検討会を設置
また(1)の「健康寿命延伸」は、2040年にかけての超少子高齢社会を見据えた非常に重要なテーマとなります。厚労省は今通常国会に健康保険法等改正案を提出し、そこでは「高齢者の保健事業と介護予防事業を、市町村が中心となって一体的に進められる仕組み」の構築なども盛り込まれています(関連記事はこちらとこちら)。
また、厚労省では「一般介護予防の推進」に関する研究・検討の場を新たに設置する方針も決定。こうした動きを見ながら、介護保険制度の中で「健康寿命延伸」をどう進めるかを検討していくことになります。
なお、厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、介護予防・日常生活支援総合事業(地域支援事業)の一環である「通いの場」(体操による健康づくり、認知症予防、カフェなどさまざまな形態がある)の整備が進んでいる(2013年度:1084自治体で設置→2017年度:1506自治体で設置(39%増)など)ことを紹介。各種調査などのエビデンスに基づき、さらなる拡大・充実に向けたPDCAサイクルを回していく考えを示しています。
保険者機能の強化と併せて、「保険者の在り方」を議論すべきとの指摘も
また(2)の保険者機能については、「サービス提供体制の整備」「保険料の設定・徴収」などの基幹機能に加え、▼介護予防▼生活支援―などの新たな機能についても強化していくことが求められています。
後者の新たな機能として地域支援事業(▼要支援者への訪問・通所サービスなどの「介護予防・日常生活支援総合事業」▼在宅医療・介護連携推進などの「包括的支援事業」▼家族介護支援などに「任意事業」―)があげられ、その体制が各保険者(市町村)で整ってきています。黒田総務課長は「地域支援事業実施に向けて保険者には大きな苦労をかけた。ここで改めて立ち位置を確認してもらうことで、あらたな景色が見えてくるのではないか」と、さらなる保険者機能の強化への期待を述べています。
この検討テーマに介護保険者である大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)は、「保険者の在り方の検討も必要」と提案しています。地域によっては、すでに人口減少モードに入り、都市部でも近い将来人口が減少していきます。そうした中では、サービス提供体制整備の格差・保険料等の格差などが広がっていきます。介護保険制度創設時には、「地域住民がサービス提供量・保険料の水準を自ら考える」(保険料の高騰を避けるためにサービス量を抑えるという選択肢もあれば、サービス量を十分に確保し、高水準の保険料を受け入れるという選択肢もある)こととされ、一定程度の地域格差は「必然」とも言えますが、どこまでが許される地域差であるのかも検討する必要が出てきそうです。今般の制度改正に向けたテーマに据えるかどうかは別として、「地域に密着した自治体である市町村」が介護保険者としてふさわしいのか(より広域とすべきか)などを、将来に向け、継続して検討していく必要がありそうです。
ちなみに武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、かねてから「保険者規模の拡大」を提案。「介護保険料の高騰」を危惧して、医療療養病床から介護医療院への転換に市町村な介護保険者がありますが、大規模化によって高騰を一定程度抑えることが可能になると見通しています(関連記事はこちら)。
さらに2018年度からは保険者の取り組み状況を評価する「インセンティブ交付金」がスタートしています。介護予防等に関する取り組みを積極的に行い、かつ成果を上げた保険者に交付金が交付されるもので、今後、実態調査の上で、見直しの必要性はあるかなども検討されると考えられます(関連記事はこちらとこちら)。
また、「在宅医療・介護連携事業」に関しては、今年度(2018年度)からは全市町村で「8項目の事業すべてを実施することとなっており、その実態なども踏まえた議論(更なるテコ入れが必要なのか、など)が行われることでしょう。
なお、(5)の持続可能性の確保とも関連しますが、「保険者の独自性」をどう考えるかというテーマも議論となりそうです。地域の状況は大きくことなるため「保険者の独自性・柔軟性をより広く認めよ」という意見がある一方で、「保険者によって報告書様式等が異なり、事業者の負担が大きくなる。国で標準を定めるべき」との意見もあります。異なる次元の問題とする見方もありますが、項目によってバラバラに動けば異なる問題が生じる可能性もあります。
介護保険部会では、今後月に1-2回のペースで議論を行い、今年末(2019年末)に制度改正に向けた意見とりまとめを目指します。
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