2018年度からの介護保険計画、自立支援や重度化予防の目標を立て進捗状況の把握を―介護保険部会
2017.2.28.(火)
2018年度から第7期介護保険事業(支援)計画がスタートするが、その作成においては、介護保険法改正などを踏まえ、「自立支援や重症化予防の目標を立てるとともに、進捗状況をきちんと把握する」「医療計画との整合性を確保する」「市町村計画においても人材育成の視点を持つ」ことなどが必要である―。
27日に開催された社会保障審議会の介護保険部会では、第7期介護保険事業(支援)計画の策定に向けてこのような議論が行われました。
目次
介護保険計画の基本指針、第7期では介護保険部会の意見も聴取
介護保険事業(支援)計画は、▼厚生労働大臣がその拠り所となる「基本指針」を策定し、告示する→▼基本指針に沿って、市町村が介護保険事業計画を、都道府県が介護保険事業支援計画を作成する―という流れで設定されます。
これまで基本指針は厚生労働省内部で作成されていましたが、「専門家の意見を踏まえるべき」との考えの下、第7期(2018-21年度)分から介護保険部会での議論に付すこととなりました。委員からは、この決定を高く評価する声が相次いでいます。
厚労省は3月10日に都道府県の担当者に基本指針の構成案を提示。その後、介護保険法改正案の国会審議状況を踏まえて具体的な基本指針案(文案)を作成し、さらに都道府県担当者に説明します。基本指針の正式な告示は10月以降になる見込みですが、都道府県・市町村では、介護保険事業計画の作成に向け、告示前(文案説明後)にサービス見込み量の把握や、2018年度からの保険料設定に向けた検討が求められます。
医療計画と介護保険計画の整合性とるため、「協議の場」を設置
介護保険の保険料は、地域の介護サービス量によって決まります。サービス量が過剰になれば保険料も高くなりすぎてしまうので、市町村は3年を1期とした介護保険事業計画を定め、地域で必要なサービス量を見込むことになっています。また人材の確保や、広域的な対応は市町村単独では難しいため、都道府県が市町村を支援する計画(介護保険事業支援計画)を立てます。
2018年度からの第7期計画では、(1)医療計画との整合性確保(2)介護保険法改正などへの対応―の2点を満たす必要があり、その拠り所となる基本指針に関しても、この2点を踏まえた対応が必要となります。
このうち(1)は、2018年度からの「医療計画と介護保険事業(支援)計画とのサイクル統一」を踏まえたもので、両計画の上位指針となる改訂総合確保方針では「医療計画・介護保険事業支援計画を作成する都道府県、介護保険事業計画を作成する市町村、さらに医療・介護関係者による『協議の場』を設置する」よう求めています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また(2)は、先般、国会に上程された介護保険法改正案や、そのベースとなった介護保険部会の議論などを踏まえた対応を意味します。
いずれも、団塊の世代がすべて後期高齢者になる2025年を睨み、地域包括ケアシステムを構築することが狙いです。そのため、厚労省は介護保険事業計画について、第6期となる現計画から「地域包括ケア計画」に位置付けています。
自立支援や介護予防・重度化防止、委員は「客観性ある指針」の別途策定を要望
では第7期計画における、従前からの変更ポイントを見ていきましょう。まず計画の基本的事項において、「自立支援、介護予防・重度化防止の推進」が盛り込まれる点が特筆できます。改正介護保険法案などで、この点が明示されたことを受けたものです(関連記事はこちらとこちら)。
ところで改正法案では、「自立支援、介護予防・重度化防止の推進」への取り組み状況(都道府県では支援状況)に基づく、都道府県・市町村への交付金(インセンティブ)が創設されます。厚労省は、交付金の算定基準となる「自立支援、介護予防・重度化防止の推進」に関する指標を別途、作成します。市町村・都道府県では、この指標と自地域の状況を踏まえて、事業計画を作成することになるので、基本指針と指標は密接な関係を持ちます(指標は都道府県・市町村の計画作成に間に合うように設定される)。この点について厚労省老健局介護保険計画課の竹林悟史課長は、「計画には自立支援の取り組み内容とその目標、例えば『地域ケア会議を何回開催する』などを記載することになる。部会では指標例として要介護認定率があげられたが、同時に『介護保険サービスの利用控えとならないよう注意すべき』との意見ももらっている」と説明しています。
なお指標について土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)は、「曖昧な指標でインセンティブを付与することは許されない。最初から完璧な指標作成は難しく、当初は試行錯誤するであろうが、客観性のある指標を設定しなければいけない」と強調しています。
また、改正法案では、市町村に対し▼データに基づく地域課題の分析▼地域マネジメントに係る取組内容・目標の介護保険事業計画への記載▼実際の保険者機能の発揮・向上▼取組の評価―というPDCAサイクルを回すことを求めており、この点に関する記載も必要となります。また、都道府県の計画では「市町村に対する支援」を明確にすることが新たに求められます。ただし、この点について栃本一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)からは、「第6期計画の評価を行わないのでは、第7期計画は形骸化してしまう。改正法案を踏まえた具体的な数値目標などを設定できるよう、厚労省からも具体的な参酌標準を示すべきである」旨の厳しい指摘が行われています。
このほか基本的事項については、▼医療計画との整合性確保▼高齢者虐待の防止など―に関する記載を盛り込むほか、従前の「介護給付の適正化」を「効果的・効率的な介護給付の推進」に改め、都道府県による市町村支援や市町村間連携に関する記載の充実を図ります。「給付の適正化」については、ともすると「費用抑制が目的」と捉えられがちであったため、「質の高いサービスを効果的に提供することで、結果として給付費が適正化される」旨を意図した表現ぶりに改められます。
市町村・都道府県の両計画、「自立支援・重度化予防」などの目標記載義務
市町村計画には、保険料設定に直結する▼日常生活圏域の設定▼介護保険サービス種類ごとの量の見込み▼地域支援事業の量の見込み―について、都道府県計画には▼老人福祉圏域▼広域的調整―などを記載することが義務付けられています(基本的記載事項)。
第7期では、両計画において、新たに「自立した日常生活の支援、要介護状態などの予防・軽減・悪化防止、介護給付などの適正化への取り組みと目標」を記載することが義務付けられました。これも改正法案の趣旨を踏まえたものです。
市町村は「人材確保」も視野に入れ、サービス見込み量の勘案を
このほか介護保険事業(支援)計画では、▼地域包括ケアシステム構築に関する事項(在宅医療・介護連携や認知症施策など)▼サービス見込み量確保のための方策【市町村計画】▼地域支援事業の費用額と見込み量確保のための方策【市町村計画】▼サービスの円滑な提供のための事業▼施設整備に関する事項【都道府県計画】▼人材確保と資質向上のための施策【都道府県計画】―などを記載します。これらは地方分権の一環として「任意的記載事項」となっていますが、いずれも重要事項であり、具体的な記載が望まれます。
第7期では、市町村計画においても「人材確保と資質向上」の記載が新設されます。竹林介護保険計画課長は「自地域ではこれだけサービス量を増やす計画なので、そのためにはこの程度の人材確保が必要となる、という試算を市町村でも実施してもらいたい。国(ハローワークなど)や都道府県と連携し、人材確保を意識してサービス見込み量などを検討してほしい」と要望しています。
若年世代の減少や、介護労働の厳しさから「介護人材不足」は深刻です。このため久保芳信委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)は厚労省に対し、「介護業務のイメージアップ施策」や「介護職員処遇改善加算が実際に介護従事者の給与に反映されているかの詳細な検証」を求めました。また、伊藤哲久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)も「人材確保について、国の積極的な姿勢を示す必要がある」と訴えています。
このほか、費用負担者である佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)からは「介護保険料徴収に関する記載を盛り込めないか検討すべき」といった意見、同じ佐野委員と土居委員から「地域包括ケア見える化システムの積極的な利用」、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)と土居委員から「介護保険と整合性のとれたサービス付き高齢者向け住宅の整備」(サ高住の無制限な整備に伴う地域の混乱の防止、サ高住居住者への介護サービス提供状況分析など)を求める意見が出ています。
厚労省は、こうした介護保険部会の意見や、自治体の状況(協議の場の設置など)を踏まえて、具体的な基本指針案(文案)を作成し、介護保険部会に改めて提示する考えです。
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