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外来診療 経営改善のポイント 看護必要度シミュレーションリリース

小多機や看多機、緊急ショートへの柔軟対応を可能とする方策を2021年度介護報酬改定で検討―社保審・介護給付費分科会(2)

2020.7.14.(火)

要介護高齢者の多様なニーズに対応できるよう、▼通い▼訪問▼宿泊—の機能を併せ持つ小規模多機能型居宅介護(小多機)や、小多機に訪問看護機能を付加した看護小規模多機能型居宅介護(看多機)の重要性が高まっているが、「空きベッドがあっても登録定員を超える緊急短期入所(緊急ショート)を受け入れられない」などの課題がある。

またスタッフ確保や安定経営が難しいために、介護保険事業計画に比べて、実際の事業所整備量が少ない市町村が多数を占めており、これらに2021年度介護報酬改定でどう対応していくべきか―。

7月8日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった議論も行われました。

小多機、緊急ショートに柔軟に対応できるよう、定員超過減算の見直しなど求める声

2021年度に予定される次期介護報酬改定(3年に一度)に向けて、介護給付費分科会では個別サービスに関する議論に入りました。7月8日の会合では、(1)定期巡回・随時対応型訪問介護看護(2)夜間対応型訪問介護(3)小規模多機能型居宅介護(4)看護小規模多機能型居宅介護(5)認知症対応型共同生活介護(6)特定施設入居者生活介護―という6つの地域密着型サービスについて課題等の整理を行いました。

本稿では(2)-(6)に焦点を合わせます((1)定期巡回・随時対応型訪問介護看護と(2)夜間対応型訪問介護については別稿でお伝え済)。

(3)の小規模多機能型居宅介護(小多機)は、▼通い▼訪問▼短期入所—の3機能を併せ持つ地域密着型サービスです。特別養護老人ホームの新規入所者が「原則、要介護3以上」とされ(2014年の介護保険法改正)、また将来的には特養ホーム入所者が減少していく、ことなどを背景に「複合的な機能を持つ小多機」のニーズ・重要性が高まっており、2019年4月に、事業所数は5453か所(2007年4月に比べて10.8倍に増加)、利用者数は11万1200人(同179.4倍)、2018年度の介護費は2623億4200万円(2007年度の8.9倍)となっています。

小多機の概要(介護給付費分科会(2)1 200708)

小多機の利用者数は増加している(介護給付費分科会(2)2 200708)



このようにニーズの高い小多機ですが、市町村の介護保険事業計画(サービス整備計画)に比べて実際の整備量は下回っています(70.3%の市町村で「計画>整備量」となっている)。整備が思うように進まない理由はさまざまですが、▼経営の難しさ(介護報酬が低く、継続的な経営が困難であるなど)▼施設整備・用地確保の難しさ▼包括報酬で、他サービス利用が困難である(柔軟な利用が難しい)—などの声が上がっています。

また、「小多機のベッドが空いていたとしても、登録者以外が短期入所を利用できない」という点を問題視する意見も少なくありません(言わば緊急ショートとしての活用が難しい)。短期入所は、▼利用者の状態が悪化した場合の受け皿▼家族のレスパイト—など、在宅限界を高める上で非常に重要な機能です。しかし、登録者以外が小多機の短期入所を利用するには、「登録定員に空きがある場合」などハードルがあります。小多機の登録定員は、本体は29名まで、サテライト事業所は18名までとされており、経営面を考えれば、当然「上限まで登録する」ことが重要なことから、「ベッドは空いているのに、短期入所が利用できない」状況がまま生じるのです。

小多機・看多機では緊急ショートの利用制限が大きい(介護給付費分科会(2)3 200708)



さらに、地域のニーズを受け止めようと「登録定員を上回る利用」を行った場合には、介護報酬が減額されてしまうという問題もあります。

小看機の定員超過減算(介護給付費分科会(2)4 200708)



2021年度の次期介護報酬改定では、こうした▼整備の推進▼短期入所利用の柔軟化▼定員超過減算の見直し—などが重要論点となるでしょう。介護給付費分科会でも、武久洋三委員(日本慢性期医療協会長)をはじめ多くの委員から「小多機は赤字で、事業継続が難しい」との声が相次いでいます。この点、今井準幸委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は「小多機のケアマネジャーについても、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)のケアマネと同様の各種加算での評価を検討してはどうか」と提案しています。上述のように、特養ホームの入所者が「原則、要介護3以上」に限定され、「病院を退院し、自宅に復帰するまでのつなぎとして、小多機の短期入所を利用する」というケースが増えてきています。その際に、病院の退院支援スタッフと小多機のケアマネとが連携をより密にすることで、在宅復帰が早まると考えられます。こうした取り組みの報酬での評価も重要な視点と言えるでしょう。江澤和彦委員(日本医師会常任理事)も「質向上につながる取り組みの評価(加算創設や単位数引き上げ)の重要性」を強調しています。

もっとも、各種加算の中には、算定率が極めて高いものから、極めて低いものまでさまざまあり、今井委員らは「整理」を行う必要性も指摘しています。例えば、算定率が極めて高い加算は基本単位数に組み入れ、算定率が極めて低いものは、その背景(算定要件が厳格に過ぎないかなど)を見極めた上で、廃止も検討すべきと今井委員は提案しています。

また小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会理事)は、人材確保が困難となる中で「小多機の人員配置基準緩和などを積極的に検討すべき」と提案。もっとも伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)は「人員配置基準の緩和にあたっては、サービスの質の確保が大前提である」と牽制しています。

看多機でも「緊急ショート」対応が重要テーマの1つ

小多機に、訪問看護を付加した(4)の看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は、2012年度の介護報酬改定で新設された地域密着型サービスです(当初は「複合型サービス」と呼ばれていた)。複合的な機能を持つ小多機に、さらに訪問看護機能を付加することで、末期がん患者や認知症高齢者など、医療ニーズの高い要介護高齢者に対し、包括的なサービスを提供できるという大きな特長があります。

看多機の概要(介護給付費分科会(2)5 200708)

看多機では、末期がん患者や認知症高齢者など医療ニーズの高い利用者が多い(介護給付費分科会(2)8 200708)



2019年4月に、事業所数は531か所(2013年4月に比べて14.0倍に増加)、利用者数は1万1442人(2012年6月に比べて233.5倍)、2018年度の介護費は337億3000万円(2012年度の33.0倍)と増加していますが、実数はまだまだ少ないことが分かります。

看多機の事業所数は増加傾向にある(介護給付費分科会(2)6 200708)

看多機の利用者数も増加傾向にある(介護給付費分科会(2)7 200708)



整備量が少ない背景には、▼看護・介護職員の新規確保が困難である▼安定的な経営が困難である(報酬が低い)―などのほか、「利用者の確保が困難である」「地域にニーズがない」といった声も出ています。

看多機について、スタッフ確保が困難などの声が強い(1)(介護給付費分科会(2)9 200708)

看多機について、スタッフ確保が困難などの声が強い(2)(介護給付費分科会(2)10 200708)



もっとも、地域ニーズに関しては、「利用者等が看多機の機能を正しく認識」していない可能性もあること、さらに高齢化の進展(とりわけ2022年度からはいわゆる団塊の世代が後期高齢者となり始める)により医療ニーズの高い高齢者が増加すると考えられることから、徐々に高まっていくと考えられます。

一方、人材確保については、処遇改善などを進めるほか、ロボットやICTなどを活用した負担軽減・生産性向上を進めていくことが重要で、介護報酬改定で対応できる部分が少なくありません。前者は、もちろん「処遇改善加算」の充実が論点となり、後者は「ロボットやICTを活用する事業所における、人員配置基準の緩和」を推進していくことなどが考えられます。この点、2018年度の前回介護報酬改定では、特養ホーム等において「見守り機器を導入した場合の夜勤職員配置加算の要件緩和」が行われており、その効果を踏まえて看多機をはじめとする他サービスへの拡充なども検討されることになるでしょう。

この点、岡島さおり委員(日本看護協会常任理事)からは、▼緊急短期入所(緊急ショート)受け入れの柔軟化(小多機と同様)▼本体事業所とサテライト事業所の実績合算(現在は、サテライト事業所単体で実績を上げなければ加算が取得できない)―などが提案されています。



また(5)の認知症対応型共同生活介護(グループホーム)についても、▼都市部や中山間地域等のいかんにかかわらずサービスを受けることができるようにする▼医療ニーズへの対応や在宅支援機能の強化を図る▼介護人材の有効活用や業務の効率化を図る―方策が、(6)の特定施設入居者生活介護では、▼終の棲家としての役割を果たすための看取り等の推進(上述のとおり、特養ホームの新規入所者が「原則、要介護3以上」に制限され、代替となる施設・サービスが求められている)▼スタッフの業務負担を軽減するためのICT等の活用促進―方策が検討されます。

「限られたスタッフによって、質の高いサービスを提供し、かつ事業所の経営を安定化させる」という難しい宿題に答えることが2021年度介護報酬改定で求められており、そこでは横断的事項論議でも多数出された「複合的なサービス提供」の推進が重要ポイントの1つとなりそうです(関連記事はこちらこちらこちら)。

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