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介護福祉士をメインターゲットとした【特定処遇改善加算】、取得状況や課題を詳しく調査—介護事業経営調査委員会

2019.11.12.(火)

本年(2019年)10月の消費税率引き上げ(8%→10パーセント)に合わせて創設された【特定介護職員処遇改善加算】(以下、【特定処遇改善加算】)について、介護保険事業所・施設にどの程度導入され、どのように運用されているのか、また取得に向けたハードルはどこにあるのか、などを調査する。またこの結果は、2021年度に予定される次期介護報酬改定の基礎資料としても活用する―。

11月11日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会「介護事業経営調査委員会」(以下、委員会)で、こういった方針が概ね了承されました。

委員会では、「【特定処遇改善加算】の取得ハードルとして『職種間・事業所間のバランス』を調べるとしているが、両者は明確に区分して調査したほうが良い」などの意見が出ており、修正のうえ、近く介護給付費分科会に報告することになります。

11月11日に開催された、「第29回 社会保障審議会 介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会」

【特定処遇改善加算】の創設踏まえ、臨時の処遇状況調査

介護人材の確保・定着を目指し、2012年度の介護報酬改定から【介護職員処遇改善加算】が設けられています(従前の介護職員処遇改善交付金を引き継ぐもの)。厚生労働省は、介護報酬改定の都度に、この加算の効果・課題を把握するための調査を行い、次の報酬改定での加算見直しにつないでいます(2017年度分調査の記事はこちら)。

今般、消費税率引き上げに伴う基本単位数の見直しが行われる(消費税対応改定)とともに、新たな【特定処遇改善加算】が新設されたことを踏まえ(特定処遇改善加算の創設に関する記事はこちらこちら)、臨時の調査が行われます。



具体的には、【特定処遇改善加算】の対象となる介護スタッフ(メインターゲットは「経験・技能のある介護福祉士」だが、法人・事業所の判断で柔軟な取り扱いが可能)が多く勤務する介護事業所・施設(サービス種類ごとに決定)に対し、▼加算の届出状況▼加算の配分範囲(加算を配分した職員の範囲)▼勤続年数の取扱い(「経験・技能」をどう判断したか)▼賃金改善の内容▼加算の届出を行わない理由―を詳しく調べます。

対象となるサービスの種類は、従前からの▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼介護老人保健施設▼介護療養型医療施設▼訪問介護事業所▼通所介護事業所(地域密着型を含む)▼認知症対応型共同生活介護事業所―に加え、加算の対象となる介護スタッフが多い▼通所リハビリテーション▼特定施設入居者生活介護▼小規模多機能型居宅介護―、介護療養等からの転換が進む▼介護医療院―を新たに対象に加えています。また、加算対象とならない居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)は、今回の調査対象からは除外されました。

処遇状況調査の大枠(介護事業経営調査委員会1 191111)

処遇状況調査の対象サービスと抽出率(介護事業経営調査委員会2 191111)



なお、2022年度には「2021年度介護報酬改定を踏まえた、介護職員の処遇状況に定期調査」が行われる見込みです。この点、調査対象サービスをどう考えるのかについて厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、「調査の継続性を考慮すれば、従前の対象サービスに戻すことが考えられるが、状況を見て都度、判断したい」との考えを示しました。介護保険制度・介護報酬ともに頻繁な改正が行われている点を踏まえた考えです。

加算をどの職種に、どの程度配分したのか、などを詳しく調査

これらのサービス事業所・施設を対象に、次のような点を調べます。

▽【特定処遇改善加算】を届け出ているか、その種類は何か(サービス提供体制強化加算などを取得している場合に算定できる加算Iか、そうでない加算IIか)

▽賃金改善について、▼給与表(賃金表等)の改定による引き上げ▼定期昇給▼各種手当の引き上げ・新設▼賞与等(一時金を含む)引き上げ・新設―のいずれを行ったか

▽【特定処遇改善加算】の配分は、▼経験・技能のある介護職員(いわゆるAグループ)▼その他の介護職員(Bグループ)▼その他の職員(Cグループ)―のいずれに配分したか

▽Cグループには、▼看護職員▼生活相談員・支援相談員▼PT、OT、ST、機能訓練指導員▼介護支援専門員▼事務職員▼調理員▼管理栄養士・栄養士▼その他(具体的に記述)―のいずれを対象としたか

【特定処遇改善加算】の配分範囲(介護事業経営調査委員会3 191111)



▽Aグループの「経験・技能」について、▼10年以上勤続のみ▼5年以上▼その他(具体的に記述)―のいずれを対象としたか

▽Aグループで「1人以上実施すること」とされている賃金改善内容について、▼月額8万円以上の賃金改善▼年額440万円以上となる賃金改善▼既に年額440万円以上の者がいる▼月額8万円以上・年額440万円を設定できなかった―のいずれとしたか

▽月額8万円以上・年額440万円を設定できなかった理由は、▼小規模事業所等で加算額全体が少額なため▼職員全体の賃金水準が低く、直ちに1人の賃金を引き上げられないため▼賃金改善に当たり、これまで以上に事業所内の階層・役職やそのための能力・処遇を明確化することが必要になり、規程の整備や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要するため▼その他(具体的に記述)―のいずれか

▽【特定処遇改善加算】を届け出ていない理由は、次のいずれか
▼賃金改善の仕組みをどのようにして定めたらよいかわからないため
▼賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため
▼賃金管理を行うことが今後難しくなるため
▼職種間・事業所間の賃金バランスがとれなくなると懸念されるため
▼介護職員間の賃金バランスがとれなくなると懸念されるため
▼賃金改善の仕組みについて、法人内、施設・事業所内での合意形成が難しいため
▼2021年度度以降の取扱いが不明なため
▼計画書や実績報告書の作成が煩雑であるため
▼追加の費用負担が発生するため
▼利用者負担が発生するため
▼賃金改善の必要性がないため
▼その他(具体的に記述)

【特定処遇改善加算】を届け出ない理由(介護事業経営調査委員会4 191111)

法人単位の加算取得も可能、バイアスが生じる可能性も踏まえた分析が必要

こうした調査の実施、内容については「今年(2019年)10月に【特定処遇改善加算】が稼働したばかりであり、時期を得た迅速な調査で高く評価できる」(千葉正展委員:福祉医療機構経営サポートセンターシニアリサーチャー)との声が出るなど、概ね了承されました。

ただし、いくつかの注文や提案も行われており、厚労省は田中滋委員長(埼玉県立大学理事長)と相談の上、調査内容等の一部修正を行う考えです。

まず注文・提案の中で目立ったのが「法人単位での加算届け出を行っている」ケースをどう考えるかというものです。

今般の加算も、他の報酬・加算と同じく届け出・算定は事業所・施設単位で行いますが、「法人単位で要件を満たせば、事業所単位での届け出を認める」との特例が用意されています。例えば、原則として「事業所の中でAグループ、Bグループ、Cグループを設定する」ことが求められますが、「法人の中でAグループ、Bグループ、Cグループを設ける」(ただし、▼月額8万円以上の賃金改善▼年額440万円以上となる賃金改善―を行う者が各事業所に1人以上必要)ことも可能とされています。

このため、千葉委員は「サンプルにバイアスがかかる」点を危惧しています。厚労省では「調査の設計上、一定の限界がある。そうした点に留意した分析を行う」考えを示しました。

一方、藤井賢一郎委員(上智大学准教授)は、加算の取得状況や配分状況などは▼法人がどういったサービス種類を提供しているか▼地域の産業全体の賃金水準(例えば地域全体で見て介護職員の給与水準が高ければ、「これ以上の引き上げは必要ない」と判断する経営者も出てくる)▼「軽減・技能」の捉え方(10年以上の限定するのか、より広く捉えるのか)―によって変わってくると見通し、「今後の調査においては、そういった点も把握すべきではないか」と提案しました。処遇状況に関する調査以外にも、研究事業などで把握する手法も考えられます。

藤井委員は、【特定処遇改善加算】を届け出ていない理由の選択肢に「職種間・事業所間の賃金バランスがとれなくなる」との項目について、「職種間のバランス」と「事業所間のバランス」は区別して調査すべきとも指摘しています。

両者を区別することで、サービス種類ごとに設定した加算率の妥当性を見ることが可能となります。また、介護療養や介護医療院では、病院に併設されている場合などには「医療保険適用病棟のスタッフ(看護補助者など)との賃金バランスを考慮しなければならず、介護職員の処遇改善に苦慮している」との指摘もあり、こうした点を議論する際の重要な資料にもなるでしょう。



上述のとおり、これらの注文・提案を踏まえて必要な修正を行い、介護給付費分科会の了承を得たうえで調査が実施されます。来年(2020年)4月頃に調査票が発送され、秋には結果速報が公表される見込みです。

2020年秋と言えば、「2021年度介護報酬改定」に向けた議論の真っ最中であり、今般の調査結果は、次期改定の基礎資料にもなることでしょう。

 
 
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