2019年10月に消費税対応改定と新処遇改善加算創設を実施―介護給付費分科会
2018.12.25.(火)
来年(2019年)10月に予定される消費税率引き上げ(8%→10%)にあわせて介護報酬の引き上げ(消費税対応改定)を行うとともに、経験・技能のある介護職員をメインターゲットとした新たな処遇改善加算を創設する―。
12月19日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった内容の審議報告を取りまとめました(関連記事はこちら)。
経験・技能ある介護職員を中心に新たな処遇改善、「効果検証」を求める声多し
来年(2019年)10月予定の消費税率引き上げに伴い、介護事業所・施設の控除対象外消費税負担を補填するため「特別の介護報酬プラス改定」(以下、消費税対応改定)が行われます。
あわせて消費税収を財源(同時に保険料も充てる)とした、▼介護人材の確保▼介護人材の定着—を主な目的とする新たな処遇改善のための加算(ここでは【新加算】と呼ぶこととする)も創設します。
メディ・ウォッチでも、これまで議論の経過を追いかけてきましたが、改めてその内容を概観してみましょう。
まず後者の【新加算】は、介護サービス事業所・施設(以下、介護サービス事業所等)において、「利用者に提供したサービスに係る介護報酬」に一定の「加算率」を乗じることを認め、「介護職員等の処遇改善」に向けた原資を提供するものです。
加算率は、「技能・経験のある介護職員の処遇改善」を主眼としていることに鑑み、介護サービスの種類ごとに「現在、介護福祉士の資格を有する者であって、同一法人・事業所での勤続年数が10年以上の者」(以下、勤続10年以上の介護福祉士)の割合を見て設定されます(勤続10年以上の介護福祉士が多く配置されているサービスで高い加算率となる)。また、介護職員が従事していない、訪問看護や福祉用具貸与、居宅介護支援(ケアマネジメント)などは対象となりません(現在の介護職員処遇改善加算と同じ)。
同じ介護サービスであっても、事業所・施設ごとに「経験・技能のある介護職員」の配置状況は異なるため、各事業所等への配分に当たっては(1)【サービス提供体制強化加算】【特定事業所加算】【日常生活継続支援加算】等を算定する事業所・施設で高い加算率とする(下図のA1)(2)これら加算の算定がない事業所で低い加算率とする(下図のA2)―という2段階の加算率を設けることになります。
この点について、介護給付費分科会では「今後、より精緻に『経験・技能のある介護職員』が多い事業所や職場環境が良い事業所を把握する方法について検討する」よう厚生労働省に要望しています。
また、新加算の取得要件については、▼介護職員処遇改善加算(I)~(III)を取得している▼介護職員処遇改善加算の職場環境等要件に関し、「複数」の取り組みを行っている▼介護職員処遇改善加算に基づく取り組みを、ホームページ掲載などを通じて見える化している―の3点となります。このうち「複数の職場環境等要件」に関して、介護給付費分科会では「実効性のあるものとなるよう検討することが適当」と強く求めており、厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、「運用の中で工夫する」考えを明確にしています。解釈通知などで一定の指針が示されることになるでしょう。
各事業所等では、新加算を原資として介護職員等の処遇改善を行わなければなりません(処遇改善も当然、新加算取得の要件である)。その際、「技能・経験のある介護職員」の処遇改善が主目的であること、に加え、「その他の職員」についても処遇改善への期待が大きなことから、次のようなルールが設けられます。
【経験・技能のある介護職員】(下図の橙色部分)
▽対象:勤続年数10年以上の介護福祉士を基本とする。介護福祉士を要件とするが、「勤続10年」の考え方は事業所の裁量で設定可能とする
▽最低限のルール:次の2項目を満たすように賃金を引き上げる
▼事業所等の中で「月額8万円の処遇改善となる者」または「改善後の賃金が年収440万円(役職者を除く全産業平均賃金)以上となる者」が1人以上
▼平均の引き上げ幅は、「【その他の介護職員】の引き上げ幅の2倍」以上とする
【その他の介護職員】(下図の青色部分)
▽対象:「経験・技能のある介護職員」以外の介護職員
▽最低限のルール:平均の引き上げ幅が「【その他の職員】の引き上げ幅の2倍」以上となるように、賃金を引き上げる
【その他の職種】(下図の緑色部分)
▽「経験・技能のある介護職員」「その他の介護職員」以外の全職員
▽最低限のルール:「改善後の賃金額が『役職者を除く全産業平均賃金(年収440万円)』を超えない場合に、処遇改善を可能とする」旨のルール設定を検討する(全産業平均よりも給与の高いスタッフの賃金を、新加算でさらに引き上げることは、新加算の趣旨に反するため)
介護給付費分科会では、この仕組みによって実際にどのような処遇改善が行われるのか、「検証」を十分に行うよう求めています。12月19日の介護給付費分科会では、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)が、「介護現場において離職理由のトップは人間関係である。事業所等の中に『月額8万円の処遇改善』『改善後賃金が年収440万円以上』が1人いればよいとのルールが設定され、これにより人間関係の悪化も懸念される。十分な検証を行ってほしい」と再三にわたって要請しています。
なお、新加算の財源は、満年度ベースで2000億円(公費1000億円・保険料1000億円、来年度(2019年度)はその12分の5(2019年11月―2020年3月支払分)となる)とされています。保険料からも財源が出るため「介護保険料の引き上げが行われるのではないか」とも思われますが、眞鍋老人保健課長と厚労省老健局介護保険計画課の橋本敬史課長は、「2018年度からの第7期介護保険事業計画の中で、新加算創設による保険料負担増(2%程度の増加)を見込むよう依頼してある」と説明しており、第7期(2018-20年度)中の介護保険料には影響しないと考えられます。
こうした処遇改善は、介護人材の確保・定着に向けて一定の効果を発揮すると考えられますが(効果検証が必要との指摘も多い)、「処遇改善に保険料を充てることは問題である」と考える意見も少なくありません。安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)や河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)は「本来、処遇改善は労使関係の中で決めるべきもの」と述べ、2021年度以降の介護報酬改定に向けて改めて議論すべきと強く要請しています。今回の処遇改善は、「経験・技能のある介護職員(概ね勤続10年以上の介護福祉士)の給与水準を全産業平均並みに引き上げる」ことを主目的としています。しかし、介護保険料を負担する現役世代の中には「介護福祉士よりも給与の低い」方もいます。こうした方の負担を重くし、それよりも給与水準の高い介護職の給与をさらに引き上げることは好ましくない、との考えに基づく要請です。どちらの意見にも頷けるものがあり、今後、より根本的な議論がなされることが期待されます。
消費税10%による負担増を補填するため、介護サービスの基本単位数を引き上げ
次に、前者の消費税対応改定について見てみましょう。公的介護の費用は消費税非課税となっており、介護事業所・施設(以下、事業所等)が物品等を購入した際に支払う消費税は、利用者・入所者に転嫁できず、事業所等が負担しなければなりません(控除対象外消費税負担)。消費税率の引き上げにより、この負担が大きくなることから、事業所等の経営を圧迫してしまうため、事業所等の負担増を補填する「特別の介護報酬プラス改定(消費税対応改定)」が必要となるのです。
介護給付費分科会では、2014年度の消費税率引き上げ時(5%→8%)に倣い、次のような消費税対応改定方針を固めています。
▽介護サービスごとの「支出に占める消費税が課税される費用の割合」(課税経費率、減価償却費や物品等購入費の割合)から、介護サービスごとの「負担増」(消費税率引き上げに伴う課税経費の増加分)を算出し、この負担増を賄えるように、基本単位数の引き上げ(上乗せ)を行う
▽加算単位数の引き上げは原則として行わないが、介護老人保健施設における【所定疾患施設療養費】(入所者に肺炎治療などを行った場合の加算)、【緊急時施設療養費】(入所者が意識障害などに陥り、緊急治療を行った場合の加算)など、「課税費用の割合が大きいと考えられる加算」についても引き上げ(上乗せ)を行う
▽区分支給限度基準額(要介護度別に定められた、1か月当たりの居宅サービス利用限度額、超過分は自費となる)の引き上げを行う(利用可能なサービスが減少しないよう)
▽食費・居住費について、基準費用額の引き上げを行う(これに伴い、低所得者への食費・居住費補填である【補足給付】についても引き上げを行う)
▽特定福祉用具販売・住宅改修サービス費については引き上げを行わない
▽今年(2018年)10月から設定された福祉用具貸与の上限額については、引き上げを行う
このうち基準費用額の引き上げは、2014年度の消費税対応改定では行われておらず、施設サービス代表委員から「歓迎」「感謝」の声が多数出されましたが、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、「実際の食費・居住費と、基準費用額との乖離状況について調査する必要がある」と指摘しています。介護保険制度において、施設入居者の食費・居住費は、居宅生活者との不公平が生じないように「自費」とされており、その価格は施設と入居者との契約で決まり、これが基準費用額と「近い価格なのか」「相当程度離れているのか」を調べ、あわせて「補足給付」(低所得者における食費・居住費の補填分)のあり方についても、根本的な検討が必要であると東委員は求めています。
介護給付費分科会では、年明けから、より具体的な単位数(各基本単位が●単位にするのか、新加算の加算率が◆%にするのか)を議論し、年度内にも厚労省で、新単位数表等の告示、関連通知発出などを行うことになります。
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