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介護報酬改定の影響・効果調査、2019年度は「介護医療院」への転換意向やハードルなど詳しく調べる―介護給付費分科会

2019.10.16.(水)

2021年度に予定される次期介護報酬改定に向けて、2018年度前回改定の影響・効果を見極める必要がある。そのために、2018・19・20年度の3回に分けて改定の影響・効果に関する検証調査を実施するが、2019年度には「介護サービスにおける機能訓練の状況等」「介護ロボットの効果実証」「訪問看護サービス・看護小規模多機能型居宅介護サービス」「福祉用具貸与価格の適正化」「医療提供を目的とした介護保険施設におけるサービス提供実態」など7項目を調べる―。

10月11日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった方針を固めました。近く調査票を介護保険事業所・施設に発出し、来年(2020年)3月頃に調査結果の速報が報告される見込みです。

10月11日に開催された、「第171回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

2018年度改定の影響を18・19・20年度に調べ、2021年度改定につなげる

介護報酬は3年に一度、診療報酬は2年に一度、大きな見直し(改定)が行われます。その目的の1つとして「介護、医療現場の課題を解決し、介護・医療の質を向上させる」ことがあります。このため、介護報酬等改定においては「前回改定で、課題解決に向けて行った見直しの効果・影響はどうであったか」を見極め、それをベースに考えていくことが必要となります。

もっとも改定の内容によって「効果・影響がすぐ現れる」ものもあれば、「効果・影響が現れるまでに時間がかかる」ものもあります。さらに重要項目について「継続的にウォッチしていく」ことが必要です。そこで、2018年度改定の効果・影響については、2018年度・19年度・20年度の3回に分けて調査していくこととされ、2019年度には次の7項目を調査することとなりました。
(1) 介護保険制度におけるサービスの質の評価
(2)介護サービスにおける機能訓練の状況等
(3)介護ロボットの効果実証
(4)訪問看護サービスおよび看護小規模多機能型居宅介護サービスの提供の在り方
(5)福祉用具貸与価格の適正化
(6)定期巡回・随時対応型訪問介護看護のサービス提供状況
(7)医療提供を目的とした介護保険施設におけるサービス提供実態等



調査項目は膨大なため、ポイントを絞って調査内容を眺めてみましょう。

まず(7)は「介護医療院」および「介護老人保健施設」における医療提供内容を詳しく調べるとともに、都道府県・指定都市・中核市・保険者(市町村)にも「医療機関や施設からの相談状況や介護医療院への移行に関する課題、情報交換の状況」などを調べます。

介護医療院は、▼介護▼医療▼住まい―の3機能を併せ持つ新たな介護保険施設として創設されました。設置根拠の消滅する介護療養型医療施設や医療法標準を満たさない医療療養などからの有力な転換先として期待されていますが、医療現場などからは「転換に向けたハードルがあるのではないか」(小規模自治体では医療療養から介護医療院へ転換が進めば、介護保険料が急騰してしまう)との指摘も強く、医療現場および自治体サイドの意向を詳しく調べることになります。

介護医療院に対しては、入所者の状況(ADL区分、医療区分、疾病など)、生活施設としての環境(プライベートスペース、共有スペースの状況、入所者の好みに合わせた食事提供の実施の有無など)、転換を決めた理由、転換に当たり活用した助成制度などを調べます。

また自治体に対しては、転換促進に向けた取り組み(説明会の実施や相談窓口の開設の有無など)、他自治体との連携(市区町村と都道府県との情報交換の場など)、転換希望施設への支援状況などを詳しく調査します。

調査結果を踏まえ、「さらなる転換支援策が必要なのか」「医療現場の取り組みを見守るべきか」などを検討していくことになりますが、厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、現時点の状況について「4県では介護医療院が開設されていないなど、自治体・施設により取り組みに差はあるものの、希望者の転換は進んでいる。概ね順調ではないか」との見方を示しています。



また(5)の福祉用具貸与価格については、2018年10月から「上限価格を設け、上限超過のケースは保険給付から除外する」仕組みが導入されました。ただし、この仕組み導入により「超高額な貸与価格」は相当程度是正されたことなどを踏まえ、「今後の上限価格設定」(価格の見直し)については現在「保留」されている状況です。

今般の調査では、介護保険総合データベース(介護DB)の分析やアンケート調査、ヒアリング調査を行い、「上限価格を超過して福祉用具貸与を受けている利用者の負担感」や「上限価格改定がなされた場合の事業者の対応」などを詳しく見ていきます。その結果を踏まえ、今後の「上限価格見直し」について検討していくことになるでしょう。



こうした調査内容について特段の反対意見は出されませんでしたが、口腔機能管理の状況について「歯科診療所を対象にした調査を加えるべき」との小玉剛委員(日本歯科医師会常務理事)の意見などを踏まえ、若干の調査票修正が行われる見込みです。

厚労省は、調査票を早々に修正して介護保険事業所・施設に発送。回収の後に詳しく分析し、年明け3月(2020年3月)にも結果速報を介護給付費分科会等に報告する予定です。



なお、今後の調査に向けて石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学看護学部教授)は「利用者に対する調査票が貧弱すぎはしないか」と指摘しています。例えば、介護報酬でも各種の加算が設けられていますが、事業者(専門家)に「利用者の状態などがどのように変化したか」を調べているが、利用者・家族に対し「加算が設けられたが、サービスはどのように変化したと感じているか」という視点での調査を行うべきと、強く求めました。2020年度調査以降の重要な検討課題と言えるでしょう。

また東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)や鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)は、「ADL改善の視点だけでなく、認知症についても詳しく調べ、それを報酬に活かしていく必要がある」と要望しました。こちらも2020年度調査以降の重要な検討課題となります。

介護文書の標準化・ICT化を急げ、電子カルテの轍を踏んではいけない

また10月11日の介護給付費分科会では、「介護分野の文書に係る負担軽減」に関する検討状況報告も行われました。

介護人材の確保・定着が極めて重大な課題となる中で、厚労省は「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」を設置し、▼まず介護分野の文書について簡素化を行えないか▼次いで介護分野の文書の標準化を進められないか▼さらに簡素化・標準化を進めたうえでICT等の活用を行えないか―という視点で、「指定申請」「報酬請求」「指導監査」に関する文書作成・提出の負担軽減に向けた検討を行っています。

例えば指定申請文書と報酬請求文書に相当程度の重複があれば、「変更部分のみの提出」を求めることが効率的です。また、保険者によって提出書類の種類や記載内容が異なることが指摘されますが、どのようにすれば標準化が進められるか(これは厚労省の示す基準の明確化が最大のポイントとなる)などの検討が進められています。

もちろん、一度に、すべての文書の簡素化・標準化・ICT化を進めることは難しいため、「短期的なテーマ」(例えば押印、原本提出、持参提出の見直し)、「短期・中期的なテーマ」(例えば標準様式例の整備と普及など)、「長期的なテーマ」(例えばweb入力、電子申請など)に分け、実現を図ることになるでしょう。

介護文書負担軽減の論点案(介護給付費分科会 191011)



ただし、松田晋哉委員(産業医科大学教授)や河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)は、「ICT化は中長期的課題と位置付けず、短期・中期的な課題とすべき」と指摘しました。とくに松田委員は「電子カルテのように各ベンダーで独自に開発が進めば、標準化が不可能となる。まず標準化をし、そこからベンダーの開発を促すべきである。電子カルテの轍を踏んではならない」と厚労省に提言しています。電子カルテについては、標準規格などのないまま各ベンダーが医療現場の要望を踏まえて発展・進化させたため、「異なるベンダー間でデータの共有ができない」状況が生まれ、地域医療連携等を阻害していると指摘されます。今後、どのような検討が進むのか注目を集めます。

 
 
 
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