定期巡回・随時対応サービス、依然「同一建物等居住者へのサービス提供が多い」事態をどう考えるか—社保審・介護給付費分科会(1)
2020.7.13.(月)
定期巡回・随時対応型訪問介護看護については、2018年度の前回介護報酬改定で「同一・隣接建物居住者へのサービス提供に係る減算」を拡充したが、依然として「同一・隣接建物居住者へのサービス」が多く、それ以外の地域利用者へのサービス提供は低調である。これを2021年度の次期介護報酬改定でどう考えていくか―。
7月8日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論が行われました。
目次
利用者宅への訪問回数が多いほど、家族介護者の不安は軽減する
2021年度に予定される次期介護報酬改定(3年に一度)に向けて、介護給付費分科会では、これまで▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―の4つの横断的項目を議論。併せて新型コロナウイルス感染症をはじめとする「感染症対策・災害対策」も次期介護報酬改定の重要ポイントとなることを確認しました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
さらに7月8日からは個別サービスに関する議論に入り、(1)定期巡回・随時対応型訪問介護看護(2)夜間対応型訪問介護(3)小規模多機能型居宅介護(4)看護小規模多機能型居宅介護(5)認知症対応型共同生活介護(6)特定施設入居者生活介護―という6つの地域密着型サービスについて課題等の整理を行いました。
横断的項目のうち「地域包括ケアシステム」は、要介護状態が重くなっても可能な限り住み慣れた地域での生活を継続できる環境を地域ごとに整備するもので、そこでは「いわゆる在宅限界を高める」ことが重要ポイントとなります。この点、在宅介護サービス(訪問介護や訪問看護、通所介護など)の充実だけでは不十分で、「同居家族等のレスパイトや、利用者の安心・安全確保のための施設・居住系サービスの充実」「在宅介護サービスと在宅医療との連携」「認知症高齢者向けサービスの充実」「重度化防止」などを複合的に組み合わせることが必要となり、「複数サービスを組み合わせている地域密着型サービス」(例えば看護小規模多機能型では、▼訪問介護▼通所介護▼短期入所▼訪問看護―を組み合わせたものと言える)の重要性がさらに増してきているのです。
本稿では、(1)の定期巡回・随時対応型訪問介護看護と(2)の夜間対応型訪問介護に焦点を合わせ、(2)-(6)は別稿で見ていくこととします。
(1)の定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、▼定期的に訪問介護と訪問看護を一体的に提供する▼急変時などに利用者の要請に応じて訪問対応等を行う―ものです。2012年度の介護報酬改定で創設された新たな地域密着型サービスですが、順調に普及し、2019年4月に事業所数は946か所(2013年4月に比べて5.4倍に増加)、利用者数は2万5000人(同11.9倍)、2018年度の介護費は462億9500万円(2012年度の29.3倍)となっています。
また利用者の47.8%が要介護3以上(要介護3:18.5%、要介護4:17.3%、要介護5:12.0%)で、利用者1人当たりの介護費用は16万4880円(2013年4月に比べて1.17倍)となりました。
地域包括ケアシステムにおいて、非常に重要なサービスであり、利用状況も増えている背景には、「訪問系サービスの訪問回数増加により、家族介護者の不安が減少する」という点があります。まさに在宅限界を高めるとともに、いわゆる介護離職(家族を介護しなければならないため、仕事を辞めざるを得ない)防止に向けて、今後も拡充が期待される重要なサービスであることを再確認できます。
同一・隣接建物居住者へのサービス提供が依然として多い
ただし、事業所の中には「事業所の所在する建物」居住者にサービス提供が偏りすぎているところがあるのではないか、という問題点もあります。効率的かつ安定的に事業を運営するために、例えば、有料老人ホームなどの1階に定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所を設置し、当該建物に居住する要介護高齢者にサービス提供を特化するといった事業所の存在です。
これは、地域密着型サービスの本来の趣旨である「地域全体の在宅要介護者にサービス提供を行ってほしい」(例えば、「要介護状態で1人暮らしの高齢者であっても、有料老人ホーム等に入らず、自宅での生活を続けられる」ような環境を整備してほしい)との考え方と異なるため、「事業所と同一敷地内・隣接する敷地内の建物に居住する利用者については、報酬を低く設定する」(減算)の仕組みが導入され、2018年度の前回改定で減算対象の拡大等が行われています。
従前は「事業所と同一・隣接敷地内に所在する建物(養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に限る)に居住する利用者」へのサービス提供について1か月当たり「600単位の減算」が行われていたところを、次のように拡大しています。
▽事業所と同一・隣接する敷地内に所在する建物(上記以外も対象)に居住する利用者へのサービス提供では、1か月当たり「600単位の減算」とする(対象建物の拡大)
▽事業所と同一・隣接する敷地内に所在する建物に居住する者のうち、当該建物に居住する利用者の人数が1か月あたり50人以上の場合には、1か月当たり「900単位の減算」とする(利用者が多い場合の減算幅拡大)
また、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業者について、「正当な理由がある場合を除いて、地域の利用者(同一・隣接建物居住者以外)に対してもサービス提供を行わなければならない」旨が明確化されています。
しかし、サービス提供実態を見ると、まだまだ「同一・隣接建物へのサービス提供が多く、地域利用者へのサービス提供は必ずしも十分とは言えない」ことが分かります。
【2019年3月における同一・隣接建物居住者への定期サービス提供回数】(要介護3以上を抜粋)
▽要介護5:148.3回(2018年3月に比べて10.2%減)
▽要介護4:151.5回(同0.3%増)
▽要介護3:136.9回(同8.0%増)
【2019年3月における同一・隣接建物居住者「以外」への定期サービス提供回数】(要介護3以上を抜粋)
▽要介護5:85.4回(2018年3月に比べて9.2%減)
▽要介護4:82.3回(同9.0%減)
▽要介護3:70.6回(同7.5%減)
同一・隣接建物居住者と、それ以外とのサービス提供回数の比率を見ると、要介護5では1.74倍、要介護4では1.84倍、要介護3では1.94倍と、同一・隣接建物居住者の2倍近い量のサービス提供が行われています。
また、随時対応の回数はさらに極端で、同一・隣接建物居住者と、それ以外とのサービス提供回数の比率を見ると、要介護5では4.45倍、要介護4では4.07倍、要介護3では5.59倍と、同一・隣接建物居住者の4-5倍の量のサービス提供が行われています。
この背景には、やはり移動コストの要素が大きいようです。集合住宅への「移動方法」を見ると、同一・隣接建物居住者へのサービス提供では、92.0%が「徒歩」なのに対し、それ以外では「自動車」の割合が56.7%と最も高くなります。また移動時間を見ると、同一・隣席建物居住者では、92.0%が「5分以内」なのに対し、それ以外では「5分以内」の割合は34.4%にとどまり、「10-20分」の割合が29.9%となっています。
「移動コストを抑えられる」、さらには「利用者を安定的に確保できる」という面で、「同一・隣接建物居住者」へのサービス提供が多くなってしまっています。もちろん、同一・隣接建物居住者へのサービス提供が「好ましくない」わけではありません。同一・隣接建物居住者だけでなく、「他の利用者」にも積極的にサービス提供を行うことが期待されるものです。
このため2021年度の次期介護報酬改定では、やはり「同一・隣接建物居住者へのサービス提供に関する減算の見直し」が論点の1つとなりそうです。例えば「減算幅の拡大」や、「同一・隣接建物居住者『以外』へのサービス提供割合の要件化」(利用者のうち●%は、同一・隣接建物居住者「以外」でなければならない、などとの要件導入)などが考えられそうです。
定期巡回・随時対応サービスの平均では8%超の黒字経営だが、赤字経営の事業所も
ところで、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所の経営状況(平均)を見ると、2017年度の6.3%から18年度には8.7%となり、「安定した黒字経営が確保できている」ようにも思えます。しかし、事業所によっては、マイナス数十%の赤字経営を余儀なくされているところもあります。
前者の結果(黒字経営)だけを見て、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護には体力があり、ややコストのかかる同一・隣接建物居住者『以外』への一定のサービス提供を義務化しよう」と安易に考えれば、後者の赤字事業所ではサービスからの撤退を考えざるを得ず、地域包括ケアシステムの構築が難しくなってしまうでしょう。この点、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「赤字は地域性によるものなのか、経営ノウハウの不足によるものなのかを詳しく見ていく必要がある」と指摘したうえで、「同一・隣接建物居住者などの移動コストだけでなく、サービスの質(要介護度の改善や維持など)に着目した報酬体系を検討していく必要がある」と提言しています。
これは、横断的項目の1つ「自立支援、重度化防止」におけるアウトカム評価推進の視点であり、藤野裕子委員(日本介護福祉士会副会長)も同旨の考えを述べています。2021年度改定では、さまざまなサービスにおいて「質、効果に着目した評価」が重要なポイントとなることでしょう。ただし、介護サービスの質・効果の測定には、解決すべき課題が様々ある点にも留意が必要です(例えば、要介護度の改善が期待できる利用者の選別や、逆に改善が期待できない利用者の忌避という「クリーム・スキミング」が生じない仕組みを合わせて導入する必要があるなど)。
なお、夜間において、定期巡回訪問、あるいは随時通報を受け利用者(要介護者)の居宅を訪問介護員等が訪問し、入浴・排せつ・食事等の介護等の提供を行う「夜間対応訪問介護」については、定期巡回・随時対応型訪問介護看護へのシフト(夜間対応型訪問介護→定期巡回・随時対応型訪問介護看護)が進められていますが、石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学看護学部教授)らは「夜間対応型訪問介護のメリットもあると思う」と述べ、サービスの廃止(例えば定期巡回・随時対応型訪問介護看護への完全移行など)には慎重な構えを見せています。
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