2021年度介護報酬改定、介護サービスのアウトカム評価、人材確保・定着策の推進が重要—社保審・介護給付費分科会
2020.6.26.(金)
2021年度の次期介護報酬改定においては、「自立支援・重度化防止のために、データに基づくアウトカム評価等を推進していくべきではないか」「人材確保・定着のために、これまでの処遇改善の効果等を検証し、必要な対応をとるとともに、ロボットやICTの活用をさらに推進してはどうか」―。
6月25日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった議論が行われました。
目次
自立支援・重度化防止に向け、データに基づき介護サービスの「アウトカム評価」推進
公的介護保険サービスの公定価格である介護報酬は、介護事業所・施設の経営動向や賃金・物価水準、さらに介護現場の課題解決などを総合的に勘案して改定されます(介護報酬改定)。現在は介護保険事業(支援)計画に合わせて、3年に一度改定が行われています。
次期介護報酬改定は2021年度に予定されており、厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、3月16日の会合で、当面、(1)地域包括ケアシステムの推進(2)⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進(3)介護⼈材の確保・介護現場の⾰新(4)制度の安定性・持続可能性の確保―の4つの横断的項目を議題とし(第1ラウンド)、その後に個別サービスの報酬論議(第2ラウンド)を行っていく考えを提示。6月25日の会合では、このうち(2)(3)(4)をテーマに意見交換を行いました(5月21日の前回介護では(1)の地域包括ケアシステムについて議論)。
まず(1)の自立支援・重度化防止は、介護保険制度の基本理念であり、これまでにも▼介護予防・日常生活支援総合事業(市町村の地域支援事業の1つ)の推進(要支援者に対する訪問・通所サービスを総合事業に移管し、地域の実情を踏まえた柔軟な取り組みを可能とする)▼インセンティブ交付金(介護保険保険者努力支援交付金)の導入拡大(介護予防等に取り組む市町村・都道府県に財政支援を行う)▼質の高い介護サービスの報酬上の手当て(【サービス提供体制強化加算】【ADL維持等加算】の創設など)―などのさまざまな取り組みが行われてきています。
また、介護サービスの質の評価に当たっては「サービス内容と効果に関するデータ」の取集・解析が必要であり、これまでの介護保険総合データベース(要介護認定・レセプトデータを格納)、VISIT(リハビリデータを格納)という2つのデータベースに加え、新たにCHASE(サービスの内容や高齢者の状態に関するデータを格納)が稼働を始めています。
2021年度改定に向けては、こうしたデータを踏まえて各種サービスの効果を検証し、「自立支援・重度化防止に資するサービス」の報酬引き上げによる推進を検討していく方向が厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長から示されました。眞鍋老人保健課長は、より具体的に▼アウトカム評価の推進▼リハビリ・機能訓練、口腔・栄養分野における取り組みの推進―を例示しています。
現行の介護報酬は、要介護度別に設定されているため、要介護度が改善すると報酬が下がってしまい、事業所や利用者のモチベーションが維持できないとの指摘があります。そこで2018年度の前回改定で、重度化防止に積極的に取り組み、かつ効果を上げている(つまり要介護度を向上・維持できている)通所介護等事業所を【ADL維持等加算】として評価することになりました。ただし、▼「5時間以上の通所介護費の算定回数が5時間未満の算定回数より多く、6か月以上連続してサービスを利用する者が20名以上」などの要件が厳しい▼単位数が低すぎる―などの現場の声もあり、2021年度改定で要件の在り方を検討しなおすとともに、「他サービスへの拡充」なども検討されることになるでしょう。
この点について、河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)は「状態(要介護度)改善に向けたインセンティブを高めるべき(つまり加算単位数の引き上げ)」と提案。ただし「加算の財源は、サービスの質が低い事業者に対する『報酬減算』で賄い、財政中立とすべき」とも付言しています。同じサービスを行う事業所間で、質の良し悪しによって報酬に差を設けることで、全体の質を上げていくとの考えに基づく提案と言えます。「報酬の減算」には介護サービス提供サイドから大きな反発が出ると予想されますが、後述する「介護保険制度の持続可能性確保」とも合わせ、河本委員の提案は積極的に検討していくべきテーマと言えそうです。
また、自立支援・重度化防止に向けては「他職種が連携した介入が極めて重要である」との声が多数の意見から出されています。介護職とリハビリ専門職、医療専門職が、知識・技術を持ち寄ることで、より効果的なサービス提供が可能となり、要介護度の改善等といった成果に結びつくと期待されます。こちらも極めて重要案視点です。
さらに、評価のベースとなる「データ提出」(CHASEへのデータ提出)についても何らかのインセンティブを検討していくことになりそうです(2018年度改定ではVISITへのデータ提出を、訪問・通所リハビリの【リハビリテーションマネジメント加算】の中で評価)。また、委員からは、今後のCHASE発展に向けて「医療データ(とくに検査データ)の収集」(武久洋三委員:日本慢性期医療協会会長)、「社会参加(買い物や外出なども含めて)のデータ収集」(石田路子委員:高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学看護学部教授)などの提案も出ています。
介護職の人材確保・定着のため、負担軽減や処遇改善、魅力度向上などを総合的に推進
また(2)の人材確保は、少子高齢化が進む中で介護サービス提供体制を維持する視点から、まさに「喫緊の課題」となります。2025年度には約245万人の介護人材が必要と試算され、このためには「年間6万人」の人材育成が求められますが、2016→17年実績では「5.1万人」にとどまっており、さまざまな対策を早急かつ強力に進める必要があります。
この点、▼介護職員処遇改善加算(2012年度改定で、介護職員処遇改善交付金を受けて創設され、その後、順次拡充)▼特定処遇改善加算(2019年度改定で創設、主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す)▼地域医療介護総合確保基金▼文書負担軽減や事業仕分け(専門職でなければできない業務と、そうでない業務を仕分けし、後者をボランティア等に委ねるなど)の検討▼ロボット、センター、ICT等の導入支援—などが行われてきており、2021年度改定でも「各種加算の検証と、それに基づく見直し」や「新たな人材確保・定着策の検討」などが行われることになるでしょう。
この点について、「人材確保・定着には、やはり給与増が重要となる。加算の取得推進に向けた要件緩和等を行うべき」(大西秀人委員:全国市長会介護保険対策特別委員会委員長・香川県高松市長、伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)、「離島や中山間地域など、人材確保がとりわけ難しい地域における支援を行ってほしい」(椎木巧委員:全国町村会副会長・山口県周防大島町長)、「同一法人内における専従要件の緩和等を、サービスの質を維持しながら進めるべき」(小泉立志委員:全国老人福祉施設協議会理事)、「保険外サービスを活用した、新たな高収益モデルを構築していくべき。またロボット導入やICT推進に向けた助成等をより強化すべき」(井上隆委員:日本経済団体連合会常務理事)など、さまざまな意見が出ています。
また江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「介護という職の魅力は『提供したサービスで利用者の状態が改善したり、笑顔が出るようになる』ことで、これがやりがいにつながる。ロボットやICTも、介護職の負担軽減のために極めて重要あるが、それだけでは介護人材の確保・定着はできない」と強調しています。
介護現場の負担を軽減するとともに、処遇改善を行い、あわせて「介護の魅力向上」に向けた広報強化などを総合的に実施していくことが重要です。
少子高齢化が進展し財政が逼迫する中で、介護保険制度をどうやって維持していくか
また(3)の制度の持続可能性確保も極めて重要です。2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達します。その後、高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、「支え手」となる現役世代人口が急速に減少していきます。「少なくなる支え手」で「多くの高齢者」を支えなければならず、公的介護保険制度は、サービス提供体制とともに、財政基盤が極めて脆くなっていくのです。
このため限られた財源を、質の高いサービス等に「重点化」していくことが必要となってきます。そこで、前述したとおり河本委員は「質の高いサービスの財源を、質の引くサービスの減算で生み出すべき」と提案しているのです。2021年度改定に向けて、各種サービスの単位数が適切な水準かどうか、要件設定が適切かどうかなどを洗い直していくことになります。
感染症や大規模災害への備えも、2021年度改定の重要視点
もっとも、例えば介護報酬を低く抑えれば「制度の安定」は確保できますが、「介護事業所・施設の運営が不可能」となる事態も起こり得ます(所謂「保険あってサービスなし」の事態)。事業所・施設の経営が成り立つような介護報酬設定が重要となりますが、今般の新型コロナウイルス感染症も、この議論に大きな影響を与えます。
例えば、訪問・通所サービスでは「感染を恐れた利用者サイドが、サービス利用を手控え、結果として事業所の収益が激減し、経営の危機に陥っている。事業所経営をどう支えるか」という問題が浮上し、また全サービスにおいて「感染防止策を十分にとる必要があるが、それにはコストも必要となるが、それは報酬でどう評価するのか」という大きなテーマも浮かび上がってきています。
新型コロナウイルスの新規患者数発生は落ち着いてきていますが、第2波・第3波も懸念され、また別の感染症が流行する可能性、大規模災害が発生する可能性もあります。2021年度改定では、こうした点も重要な論点となるのです。
この点、「臨時特例対応の効果も踏まえ、臨時で終えるもの、恒常的な対応とするものを切り分けるべき」「感染症対策の専門家などは限られ、各事業所・施設での配置は難しい、地域や職能団体でバックアップする体制を構築すべき」「感染対策に積極的に取り組む事業所・施設について基本報酬で十分に評価すべき」などの意見が相次いでいます。
通所系・短期入所系サービスの臨時特例、「同意の有無で利用者負担の不公平」との指摘も
なお、新型コロナウイルス感染症への臨時特例的な対応の1つに、通所系・短期入所系サービスにおいて「サービスの一部について、高い報酬を算定可能とする」特例が設けられました。利用者の同意を条件として、提供したサービスの一部について「2区分上の報酬」の算定を認めるものです(関連記事はこちらとこちら)。
この点について厚労省老健局振興課の尾崎守正課長は、「感染対策を十分にとりサービス提供を行う事業所では、その感染対策にかかる手間・コストを評価する必要がある」と臨時特例の趣旨を説明しました。
しかし鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)は、「上位報酬算定に同意した利用者と、同意しない利用者とで大きな不公平が生じてしまう」「利用者には内容が理解しにくく混乱が生じている」「事業所の利用者にきちんと説明ができず困惑している」といった問題が生じていることを指摘したうえで、「事業所の経営確保が重要なことは理解できるが、利用者のそのコストを負わせるのではなく、公費で支援すべきではないか」とコメントしました。
本臨時特例については、確かに利用者にとっては「受けていない長時間サービスの利用料を支払うことになる」という意識が強く、十分な説明等が求められます。
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