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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

介護保険利用者の日常生活動作データなど集積し、報酬改定にも活用―厚労省・科学的介護検討会

2018.3.13.(火)

 2020年度から介護保険施設・事業所に対し、利用者の▼血清アルブミン値▼摂食・嚥下機能検査実施の有無▼口腔機能に関する観察・評価等の結果▼自分で服を着ることができるか、興味を持っているか▼カラオケなどを行っているか、興味を持っているか▼相手が話していることを理解できているか▼食事やトイレ動作などの自立状態はどの程度か▼訪問介護を行った際、洗髪や掃除などの行為を実施しているか―といった項目を、任意で報告してもらう―。

 3月9日に開催された「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」で、こういった方針と項目(中間とりまとめ)が概ね固まりました。鳥羽研二座長(国立長寿医療研究センター理事長)が文言等を整理したうえで、本年度中(2018年3月まで)に正式決定されます。

 これらのデータを集積・分析し、「自立に資する介護サービスの在り方」などを事業者や国民に情報提供することを目指すものですが、厚生労働省老健局の濵谷浩樹局長は「エビデンスが整えば、2021年度の次期介護報酬改定にも反映させていきたい」とコメントしています。

3月9日に開催された、「第5回 科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」

3月9日に開催された、「第5回 科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」

 

介護分野のエビデンス構築に向けて、介入や状態に関するデータベースを構築

 介護分野・領域においても、エビデンスに基づいた介護サービスを確立していくことが、▼自立支援に資するサービス提供▼介護現場の負担軽減(効率化)—のために極めて重要となります。介護現場では、個々の事業所や職員が「こういった状態の方には、こういった介入・サービスが効果的である」と考えてサービス提供を行っていますが、それは十分に「一般化」「標準化」されていません。

そこで厚労省は、「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(以下、検討会)を立ち上げ、例えば「どういう状態の方に、どういったサービスを、どの程度提供することが自立支援に資するのか」という標準化に向けた議論を行っています。

ところで標準化を考えるに当たっては、▼対象者はどういう状態か▼どういう介入・サービスを行ったのか▼どういう効果が得られたのか―というデータを集積する必要があります。厚生労働省はすでに、(1)介護保険総合データベース(通称、介護DB):要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納(稼働中、2018年度より全保険者から収集)(2)通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業(通称、VISIT:monitoring & evaluation for rehabilitation service for long term care):通所・訪問リハビリ事業所からの、リハビリ計画書などの情報を格納(稼働中、現在100か所弱の事業所から収集し、今後拡大予定)—という2つのデータベースを構築していることですが、「介入」や「状態」に関するデータは十分に収集できていません。

そこで検討会では、まず(1)と(2)のデータベースを補完する「介入や状態に関する新たなデータベースの構築」が必要と判断。「新たなデータベースにどういったデータを格納すればよいか」という検討を行い、今般、大枠を固めたものです(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

塩崎前厚労省が未来投資会議(2017年4月17日)に提示した「科学的介護の実現」に関する資料。検討会では当面、朱色の太い点線で囲った「新たに取得してくデータ」を詰めていくことになる

塩崎前厚労省が未来投資会議(2017年4月17日)に提示した「科学的介護の実現」に関する資料。検討会では当面、朱色の太い点線で囲った「新たに取得してくデータ」を詰めていくことになる

 
今後、このデータベースの準備・活用が進みますが、検討会では、その先を見据えて「データからは『A状態の人にB行為を行うと要介護度が改善する』とのエビデンスが導かれるが、それが事実なのか実証実験を行う必要があるのではないか」「エビデンスに基づくガイドラインを策定し、介護現場に普及すべきではないか」といったテーマについて議論してくことになります。

介入・状態等のデータをCHASEデータベースに格納し、エビデンス構築に活かす

 新たに構築される第3のデータベースは、前述のとおり(1)(2)を補完する「介入・状態等のデータ」で構成されるもので、通称「CHASE」(Care, Health Status & Events)と呼ばれることになりました。2020年度から、まず次のような項目のデータを介護保険施設・事業所から「任意」で収集します。

▽栄養マネジメントに関する情報
 例えば、「血清アルブミン値」「食事摂取量」「食事の留意事項の有無」「食事時の摂食・嚥下状況」「水分摂取量」「握力」など

▽経口移行・維持に関する情報
 例えば、「経口摂取の状況」「『食事を楽しみにしていない』などの気づいた点」「経口移行・維持に関する指導内容」など

▽口腔機能向上に関する情報
 例えば、「『口のかわき』や『食べこぼし』などの課題」「30秒間の反復唾液嚥下回数(RSST)」「口腔機能向上に関する指導内容」など

▽個別機能訓練に関する情報
 例えば、「自分でトイレに行く」「歯磨きをする」「友達とおしゃべりをする」「読書をする」「歌を歌う、カラオケをする」「体操・運動をする」ことなどをしているか、あるいは興味をもっているか、「食事や排泄などに課題はあるか」など

▽アセスメント等に関する情報
 例えば、「排泄」「寝返り」「食事」などに課題はあるか、「自分の名前はわかるか」「長期記憶が保たれているか」「介護に対する抵抗はあるか」「過去3か月に入院をしたか」など

▽各アセスメント様式等に関する情報
 例えば、「入浴」「排泄」「更衣」「寝返り」などに関する各アセスメント様式の評価結果

▽日常生活動作に関する情報
 「BI(Barthel Index)」「FIM」の得点

▽認知症に関する情報
 例えば「改定長谷川式認知症スケール」などに基づく評価結果、など

▽訪問介護におけるサービス内容に関する情報
 例えば、「健康チェック」「おむつ交換」「食事介助」「洗髪」「掃除」「洗濯」「衣類の整理」など、どういった身体介護・生活援助を実施しているか

 こうしたデータを、2020年度以降、CHASEデータベースに蓄積していくことになります(必要に応じて過去のデータ等とも連結が行われる可能性もある)。

CHASEデータベース、2021年度以降の介護報酬改定に活用される可能性も

 これらCHASEデータベースに格納される「介入・状態に関するデータ」は265項目に上ります(今後、多少の調整が行われる可能性がある)。しかし、「すべての事業所で、全入所者・利用者について、全項目を報告しなければならない」わけではありません。

 例えば、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)では、実際の介入を行わないので「訪問介護のサービス内容」などを報告ことはできませんし、その必要もありません。また、訪問介護事業所では、利用者のアセスメントを行うわけではないので、アセスメント情報を報告する必要もありません。また、好ましいこととは言えませんが、「データは保有しているが報告しない」という選択を行うことも可能です。

 厚労省では、2018年度にCHASEデータベースを構築し、2019年度から試行、2020年度から本格運用を行うスケジュールを描いています。このデータベースから、例えば「脳梗塞で日常生活に不自由を来し、さらに認知機能低下が生じている」といった患者には、○○リハビリを週に●回、◇◇サービスを週に◇回提供すると、機能向上効果が高い―といった知見が得られたとします。その後「知見が事実であるのかの実証研究」等を行って「エビデンス」に昇華させ、介護現場に「ガイドライン」として普及・啓発していくこと、さらに広く一般国民に対し「ガイドラインに沿ったサービスを提供している事業所」の公表などを行う、といった活用が考えられます。

 さらに、濵谷老健局長は「多くの項目は加算などの要件であり、現場で既にデータ収集が行われているものだ。これを国が集めさせてもらうことになる。それを分析し、介護現場にフィードバックする中で、個別事業所の課題等も見えてくるかもしれない。さらに『この部分を手厚く評価したほうがよい』との知見が得られるかもしれない」と述べ、早ければ2021年度の次期介護報酬改定に反映させる考えも示しています。

後述するように、既に介護保険施設・事業所で収集されている(あるいは容易に収集できる)項目のみが選別されており、厚労省は「報告のために、新たに測定などをしていただくような負担は課さない」ことを強調しています。長期的なメリット(介護の質向上や負担軽減)、短期的なメリット(介護報酬への反映や事業所の課題解決)の双方があり、全介護保険施設・事業所が積極的にデータ報告に協力していくことが期待されます。

  
 なお、2018年度の介護報酬改定では、上記(2)のVISITへのデータ提出等を要件とする新たなリハビリテーションマネジメント加算(IV)が新設されており(関連記事はこちら)、2021年度移行の改定で「CHASEへのデータ提出」が報酬として評価される可能性もありそうです。

報告データ、「研究利用の重要性」と「データ収集の可能性」を考慮して選別

 CHASEデータベースに格納される265項目は、「研究利用の重要性」と「データ利用の可能性」の2点のバランスを考慮して設定されました。

 前者の「研究利用」の観点からすれば、「できるだけ多く」の「精度の高い」データ収集することが求められます。しかし、多忙な介護現場に、「新たに●●を測定してください」などと依頼することは困難です。

そこで、「自立支援に向けて重要性が高いと考えられる」、かつ「すでに、ほとんどの現場で電子的にデータが集積されている」項目を選別したのです。

このため、例えば▼窒息発生の有無▼褥瘡発生の有無▼転倒回数▼外傷受傷回数▼本人の思い▼視力低下▼膝関節数▼高度障害(家族の顔を認識できない、笑顔の消失など)—といった項目は、「研究利用の重要性が高い」ものの「データ利用の可能性」が現時点では低い、ことから「2020年度からスタートするCHASEの初期仕様には盛り込まない」こととなりました。

例えば、介護分野では「ADL改善度合いは思わしくないものの、本人が笑顔で暮らせている」場合には、必ずしも「サービスの質が低い」とは言い切れません。しかし、本人の満足度などを評価する指標が現時点では存在しないため、今後、「一定程度、客観的・定量的に評価できる指標」の開発等を待って、報告データ項目への追加を検討することになっています。現在は、「顔認証システム」が実稼働するなど科学技術が目覚ましく進展しています。将来的に、本人の表情から「満足度を測定できる」日が来るかもしれません。

 
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