2020年度稼働の介護ケアデータベース【CHASE】、2019年夏までに初期仕様を固め、将来的な改善も検討―厚労省・科学的介護検討会
2019.5.10.(金)
「●●状態の要介護高齢者に、〇〇ケアを提供すれば、◎◎という効果が得られた」というエビデンスを構築するために、新たなデータベース【CHASE】を2020年度から稼働させる。現在、データベースに格納するデータとして265項目があがっているが、▼信頼性・妥当性▼現場の負担▼国際的な比較可能性―という観点から、専門家の意見を踏まえて「優先順位」をつけ(いわば絞り込み)、夏までにデータベースの初期仕様を固める。その後、介護現場でモデル事業を実施し、その結果を踏まえてバージョンアップに向けた議論を行っていく―。
5月9日に開催された「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(検討会)で、こういった方向を固めました。
目次
科学的な介護サービスに向け、介入や状態に関するデータベースを2020年度から稼働
介護分野・領域においても、エビデンスに基づいた介護サービスを確立していくこと重視されています。「●●状態の要介護高齢者に、〇〇ケアを提供すれば、◎◎という効果が得られた」という知見に基づく介護サービスが確立されれば、▼自立支援に資するサービス提供▼介護現場の負担軽減(効率化)―が実現できると期待されるためです。
厚生労働省では、すでに【介護保険総合データベース】(通称、介護DB:要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納する、2018年度より全保険者からデータを収集)と【通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業】(通称、VISIT:monitoring & evaluation for rehabilitation service for long term care:通所・訪問リハビリ事業所からのリハビリ計画書などの情報を格納、現在100か所弱の事業所から収集し、拡大予定)という2つのデータベースを構築していますが、さらに検討会では▼介入(どのようなケアを提供したか)▼状態―に関する新たなデータベース【CHASE】(Care, Health Status & Events)を構築し、エビデンスに基づく科学的な介護サービス提供を進める方針を固めています。
昨年(2018年)3月の検討会中間まとめでは、第3のデータベース【CHASE】には次のような265項目のデータを格納することになっています(関連記事はこちら)。
▽栄養マネジメントに関する情報:
例えば、「血清アルブミン値」「食事摂取量」「食事の留意事項の有無」「食事時の摂食・嚥下状況」「水分摂取量」「握力」など
▽経口移行・維持に関する情報:
例えば、「経口摂取の状況」「『食事を楽しみにしていない』などの気づいた点」「経口移行・維持に関する指導内容」など
▽口腔機能向上に関する情報:
例えば、「『口のかわき』や『食べこぼし』などの課題」「30秒間の反復唾液嚥下回数(RSST)」「口腔機能向上に関する指導内容」など
▽個別機能訓練に関する情報:
例えば、「自分でトイレに行く」「歯磨きをする」「友達とおしゃべりをする」「読書をする」「歌を歌う、カラオケをする」「体操・運動をする」ことなどをしているか、あるいは興味をもっているか、「食事や排泄などに課題はあるか」など
▽アセスメント等に関する情報:
例えば、「排泄」「寝返り」「食事」などに課題はあるか、「自分の名前はわかるか」「長期記憶が保たれているか」「介護に対する抵抗はあるか」「過去3か月に入院をしたか」など
▽各アセスメント様式等に関する情報:
例えば、「入浴」「排泄」「更衣」「寝返り」などに関する各アセスメント様式の評価結果
▽日常生活動作に関する情報:
「BI(Barthel Index)」「FIM」の得点
▽認知症に関する情報:
例えば「改定長谷川式認知症スケール」などに基づく評価結果、など
▽訪問介護におけるサービス内容に関する情報:
例えば、「健康チェック」「おむつ交換」「食事介助」「洗髪」「掃除」「洗濯」「衣類の整理」など、どういった身体介護・生活援助を実施しているか
2020年度からの初期仕様、データ収集項目を「信頼性・妥当性」などの視点で絞り込み
ところで、格納されるデータには「ブレ」があってはいけません。「同じ場面であれば、だれが評価しても、何度でも同じデータを収集できる」ことが求められます。また多忙な介護現場において「データ収集に大きな負担がかかる」こととなれば、十分なデータ収集が望めなくなってしまいます。
そこで検討会では、265項目について、次の観点から「優先順位」を設ける(絞り込み)方針を固めました。
(1)信頼性(同じ条件であれば、同じ結果が得られる)・妥当性(的確に必要なデータを収集できる)があり、科学的測定が可能なこと
(2)データ収集に新たな負荷がかからないこと(例えば、利用者の既往歴についてはほとんどの介護サービスですでに収集されており、新たな負担は発生しない。また加算の要件となっている項目(【ADL維持等加算】では「Barthel Index」の測定が要件)であれば、加算取得を目指す事業所では特別の負担は発生しない)
(3)国際的な比較が可能なこと(ADLであれば「Barthel Index」、栄養であれば「BMI」、認知機能であれば「MMSE」など)
とくに(1)の信頼性・妥当性や(2)の現場負担について、検討会では近く専門家からヒアリングを行い、その意見を踏まえて、具体的な「優先順位」付け(絞り込み)を行う考えです。
なお、現在、国会で審議中の健康保険法等改正案や介護保険法等改正案では、医療に関するNDB(National Data Base、医療レセプトと特定健康診査のデータを格納)と介護に関する介護DB(介護保険総合データベース、介護レセプトと要介護認定情報を格納)との連結解析を可能とする規定が盛り込まれています。将来的には、リハビリデータを格納した【VISIT】や、介入等データを格納した【CHASE】との連結解析も視野に入れられており、それをにらんだ仕掛け(例えば個人を特定できないように匿名加工を施したうえで、同一人物を紐づけできるような仕掛け)も行われます。このため、【CHASE】においても利用者の「介護保険被保険者番号」や「生年月日」などの情報を収集・格納することになります(関連記事はこちらとこちら)。
データの精度確保のため、介護ケアの「コード」化を研究・開発
ところで、前述のように【CHASE】データベースには「介入」や「状態」のデータが格納されます。その際、「〇〇ケアを実施」とのデータがあったとして、A介護者が実施した介入行為と、B介護者が実施した介入行為とが同じ内容でなければ、適切なデータベースが構築されません。
このため厚労省は、WHOで開発中のICHI(International Classification of Health Interventions)なども踏まえて「介護関連のケアコード」を開発する必要があるとの考えを示しています。
この点に関連して、真田弘美構成員(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野教授)は「例えば看護職と介護職では、同じ行為について用いる言葉が異なっている。例えば、自分自身で排尿できるようにするケアについて、看護職は『排尿自立』と言い、介護職は『おむつ外し』と言う」ことを紹介し、「共通用語の確立が必要ではないか」との考えを示しました。
ただし鳥羽研二座長(国立長寿医療研究センター理事長特任補佐)や慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授は、「患者・利用者・家族の視点で、行為を紐づけていけばよいのではないか」と、非常に明快な解決策を提示しています。看護職・介護職・医療職の共通言語を新たに構築する手間は膨大ですが、ケア行為等について「患者・利用者・家族にどう説明しているか」を軸に紐づけを行い、そこにコードを付していけば、ブレなく、比較的簡便に「共通の理解」を実現できそうです。
将来「画像・動画データ」も格納し、褥瘡のステージ判定などの活用を目指してはどうか
検討会では夏までに意見を取りまとめます。それをもとに【CHASE】のいわば初期仕様(version.1.0)が固められ、2020年度から稼働(データ収集の開始)することになります。
もっとも、「現時点では収集へのハードルがあるが、今後のICT技術革新などによって収集が容易となる有用なデータ」などもあると考えられます。このため、検討会での意見取りまとめの後に、厚労省は「モデル事業」等を実施する考えも示しています。将来、このモデル事業の結果を踏まえて、【CHASE】の将来仕様(version.2)に向けた議論が改めて行われることになります。
この「将来仕様」に関連して、厚労省の松本純夫顧問(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター名誉院長)は「画像」や「動画」の収集・格納を強く提案しています。
例えば、介護現場では「褥瘡」対策が大きな課題となります。医療職・看護職は「褥瘡」の程度(真皮の部分欠損(ステージII)にとどまるのか、骨などが露出してしまっている(ステージIV)のか、など)を的確に把握(データ収集)できますが、介護職では的確な把握が困難なケースも少なくありません。
その際、褥瘡の患部を撮影し、それをデータベースに合わせて格納すれば、仮に介護職の記載が誤っていても、後に修正することも可能となります。さらに、最近ではAI技術が発展し、「画像データをもとに褥瘡の大きさを測定できる」システムが開発されており、近く「画像をもとに褥瘡のステージを的確に判別できる」ことも期待されます。こうしたシステムが確立すれば、介護職が患部を撮影し、画像データを格納すれば、自動的に「褥瘡のステージ」データなどがデータベースに格納されるという仕組みの構築も可能となることでしょう(褥瘡評価の手間が1つ減ることになる)。
また将来的には、動画ファイルをもとに、利用者の表情や話し方などから「認知機能」などを測定できる可能性もあるでしょう。
このような「拡張性」も視野に入れ、今後、検討会で新たなデータベース【CHASE】の将来仕様に関する議論も積極的に行われる見込みです。
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