科学的介護に向けたデータ収集、評価者間のブレがなく、生活機能変化を把握できる指標とせよ―全老健
2018.8.30.(木)
エビデンスに基づいた介護サービス(いわゆる科学的介護)の確立を目指し、2020年度からの介入・状態等に関するデータベース(CHASE、Care, Health Status & Events)本格稼働が目指されている。データ収集の際の評価指標については、「利用者の生活機能変化を把握する」「曖昧な基準を避ける」ために、例えば「ICFに基づいた介護現場における適切な評価指標」などを採用してはどうか―。
全国老人保健施設協会(全老健)は8月29日に、こういった内容の要望「『介護分野における今後のエビデンスの構築に向けて収集すべき情報』について」を厚生労働省老健局の大島一博局長と、厚労省「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」の鳥羽研二座長(国立長寿医療研究センター理事長)に宛てて提出しました(全老健のサイトはこちら)。
2020年度から、「介入・状態等のデータベース:CHASE」が本格稼働する予定
「ある状態の要介護者には、Aという介護サービスを週に●回程度提供することが自立支援に向けて有用である」—。こういったエビデンスが確立され、介護現場で活用できるようになれば、▼自立支援に資する有効かつ適切なサービス提供▼介護現場の負担軽減(効率化)—が実現できます。
エビデンス構築ためには、まず▼要介護者の状態▼介入・サービスの内容▼得られた効果―に関するデータの集積が必要となります。厚生労働省は、▼介護保険総合データベース(介護DB):要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納(稼働中、2018年度より全保険者から収集)(2)通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業(VISIT:monitoring & evaluation for rehabilitation service for long term care):通所・訪問リハビリ事業所からの、リハビリ計画書などの情報を格納(稼働中、現在100か所弱の事業所から収集し、今後拡大予定)—という2つのデータベースに加え、新たに「介入・状態等のデータ」(CHASE、Care, Health Status & Events)というデータベースを構築することとしています。
このCHASEにどのようなデータを格納するかについては、厚労省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」で、まず、次のような項目とし、任意で介護保険施設・事業所からデータ収集を行う方針を固めました(厚労省のサイトはこちら(検討会の中間とりまとめ))(関連記事はこちら)。
▽栄養マネジメントに関する情報:
例えば、「血清アルブミン値」「食事摂取量」「食事の留意事項の有無」「食事時の摂食・嚥下状況」「水分摂取量」「握力」など
▽経口移行・維持に関する情報:
例えば、「経口摂取の状況」「『食事を楽しみにしていない』などの気づいた点」「経口移行・維持に関する指導内容」など
▽口腔機能向上に関する情報:
例えば、「『口のかわき』や『食べこぼし』などの課題」「30秒間の反復唾液嚥下回数(RSST)」「口腔機能向上に関する指導内容」など
▽個別機能訓練に関する情報:
例えば、「自分でトイレに行く」「歯磨きをする」「友達とおしゃべりをする」「読書をする」「歌を歌う、カラオケをする」「体操・運動をする」ことなどをしているか、あるいは興味をもっているか、「食事や排泄などに課題はあるか」など
▽アセスメント等に関する情報:
例えば、「排泄」「寝返り」「食事」などに課題はあるか、「自分の名前はわかるか」「長期記憶が保たれているか」「介護に対する抵抗はあるか」「過去3か月に入院をしたか」など
▽各アセスメント様式等に関する情報:
例えば、「入浴」「排泄」「更衣」「寝返り」などに関する各アセスメント様式の評価結果
▽日常生活動作に関する情報:
「BI(Barthel Index)」「FIM」の得点
▽認知症に関する情報:
例えば「改定長谷川式認知症スケール」などに基づく評価結果、など
▽訪問介護におけるサービス内容に関する情報:
例えば、「健康チェック」「おむつ交換」「食事介助」「洗髪」「掃除」「洗濯」「衣類の整理」など、どういった身体介護・生活援助を実施しているか
データ収集に当たり、評価者間でブレがなく、生活機能変化を簡易に把握できる指標が必要
これらは、「介護現場の負担」を考慮し、すでに現場で収集しているものや、収集が容易なものとなっています。しかし、全老健では「やはり現場の負担が増えてしまうのではないか」と懸念。例えば、現場の介護職員がデータ収集(評価)に当たって、「この利用者では、自立と判断すべきだろうか、それとも要介助と判断すべきだろうか」と頻繁に迷うような場面があれば、また「特殊な知識・知見を保有していなければ、評価ができない」ということがあれば、現場の負担は重くなります。
こうした懸念を払拭するためには、データ収集の際の評価指標が、▼科学的裏付けに基づき「利用者の生活機能の変化」が把握できる▼評価者で差がでないよう、「一部介助」等の曖昧な基準を避ける▼どの職種でも評価でき、将来的にICT等によるデータ収集などの省力化が見込める―という要件を満たすことが求められます。
全老健では、こうした要件を満たす評価指標として、例えば「ICFに基づいた介護現場における適切な評価指標」が考えられると提案。さらに、有効かつ効率的なデータ収集手法についても検討を行うよう要望しています。
ICF(国際生活機能分類、International Classification of Functioning, Disability and Health)は、WHO(世界保健機関)で採用された「生活機能」と「障害」に関する分類です。全老健では、この分類に基づいた評価指標案を提示しており、例えば「心身機能」の「基本動作」について、▼「つかまらずに一定時間立位を保持できる」状態であれば「ステージ5」、▼「つかまらずに一定時間の立位保持はできない」が、「例えばベッドに座った状態から、車椅子などへ移動できる」状態であれば「ステージ4」—という具合に、利用者の状態を評価することになります。
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