介護保険施設等への外部訪問看護を認めるべきか、過疎地でのサービス確保と質の維持をどう両立するか—社保審・介護給付費分科会
2020.9.7.(月)
感染症対策・災害対策を介護保険事業所・施設で進めるために、介護報酬でどのような対応を図るべきか—。
過疎地においても介護サービスを確保するためには、人員配置基準などを緩和することが求められるが、その場合、介護サービスの質をどのようにして維持・向上していくべきか—。
医療ニーズの高い要介護高齢者等が増加する中で、介護保険施設や居住系サービスに対し、外部からの訪問看護提供を認めるべきか—。
9月4日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会でこういった議論が行われました。
目次
新型コロナ対応の介護報酬の臨時特例措置、終了すべきものと恒久化すべきとある
2021年度に予定される次期介護報酬改定(3年に一度)に向けて、介護給付費分科会ではこれまでに次のような議論を行っています(いわゆる「第1ラウンド」)。
▽横断的事項(▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる、関連記事はこちらとこちらとこちら)
▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護▼小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)
▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション▼短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)
▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)
▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼介護老人保健施設(老健)▼介護医療院・介護療養型医療施設—)
9月からは、第1ラウンドの議論を踏まえて、より具体的な「第2ラウンド」論議が行われています。9月4日には、横断的事項のうち「新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症対策・災害対策」と「地域包括ケアシステムの推進」の2点を改めて議題としました。
前者の「感染症対策・災害対策」に関しては、有事においても「サービス提供を継続する」ことの重要性を再確認するとともに、平時からの対応(事業継続計画(BCP:Business Business continuity planning)の作成や、感染防止対策の徹底)について介護報酬でどのように支援していくが論点に掲げられています。
現在、新型コロナウイルス感染症が介護現場に様々な影響を及ぼす中で、介護報酬の臨時特例措置が設けられています。例えば、利用者の同意をもとに通所・短期入所サービスについて「2段階上の高い介護報酬を算定する」ことを認めたり、各種の研修・実習について「代替措置を講じた上で、実施しなくともよい取り扱い」を認めるなどの措置が設けられていますが、新型コロナウイルス感染症の収束後には「終了」するのが原則です(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
しかし、委員からは、内容や効果を検証・精査し、▼原則に戻って「終了する」もの▼恒常的な対応とするもの—を鑑別すべきとの意見が多数出ています。
例えば、前述した通所・短期入所サービスに関する「利用者の同意を踏まえた高い報酬を算定可能とする」臨時特例措置に対しては、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)や鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)らから、強い批判(利用者に大きな不公平を生じさせ、サービスの対価以外の費用負担を求めるもの)があり、恒久化は難しそうです(即時の「公費負担」への切り替えを両委員は改めて要望)。
後者については、新型コロナウイルス感染症の影響で「人手不足が深刻化」する中でもサービス提供を継続するための柔軟措置(一部のスタッフについてサービスの兼務を認めるなど)は、今後の「より深刻化する介護人材不足」の中でも大いに参考にすることが可能です。堀田聰子委員(慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)も、こうした視点での検証・精査が必要と強調しています。
また、訪問系サービスでは「感染症対策に関する規定・義務が運営基準等に設けられていない(施設では義務、通所系・居住系サービスでは努力義務が設けられている)、「非常災害対策に関する規定・義務が運営基準等に設けられていない」(施設や通所系・居住系サービス等では義務規定あり)という点も問題視されました。
もっとも、訪問系サービスでは小規模な事業所が少なくないことから、こうした義務規定の導入等とセットで「国や都道府県等による支援」「報酬上の対応」を設ける声も出ています。
なお、感染症・災害対策に対する支援を介護報酬で行う手法としては、これまで見てきたように、▼運営基準等で「対策の義務付け」などを行う▼報酬の引き上げにより、対策を下支えする—ことが考えられます。この点、「全事業所に対して対応を求める」こととなれば「基本報酬の引き上げ」が、「対応可能な事業所にのみ対応を求める」こととなれば「加算の新設等」がマッチします。新興・再興感染症の発生や、大災害が増えている状況に鑑みれば、前者(全事業所へ対策を義務付け、基本報酬を引き上げる)が望ましいと考えられますが、小規模な介護事業所等では対策が難しい(義務付けとなった場合には、当該基準を守らなければ事業継続ができなくなることを意味する)という点への配慮も必要となります。
介護保険施設や居住系サービスへ、外部からの訪問看護提供を認めるべきか
地域包括ケアシステムの推進に関しては、(1)医療・介護の連携と看取りへの対応(2)認知症への対応力強化(3)地域の特性に応じた サービスの確保―の3点を議論してほしいと厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長が要望しています。
(1)は、高齢化の進展によって、「医療ニーズの高い要介護高齢者」「介護保険施設や居住系サービスで人生の最終段階を迎える高齢者」が増加していく点を踏まえたテーマです。
介護保険サービスには、「医療を包含しないサービス」(訪問介護や介護老人福祉施設、通所介護など)と「医療を包含したサービス」(例えば介護医療院や介護老人保健施設、訪問看護、訪問リハビリなど)とがあり、前者では「どのように利用者・入所者の医療ニーズに応えていくべきか」が重要な論点となります。
この点、齋藤訓子参考人(日本看護協会副会長、岡島さおり委員(日本看護協会常任理事)の代理)は、▼看護職員等を自前で配置できる施設・事業所では、人材確保のために加算等を設ける▼自前で看護職員等を確保できない施設・事業所には、外部からの訪問看護の提供を認める―などの対応を検討するよう提案しています。
訪問看護は、利用者の「居宅」を訪問するサービスゆえに、介護保険施設や居住系サービスへの訪問は認められていません。齋藤参考人の提案は、「この原則を修正すべき」と訴えるものと考えることができそうです。利用者・入所者の医療ニーズの高まりを考慮すれば、「自病が悪化した場合に、すぐ病院へ救急搬送する」のではなく、外部の看護スタッフの力を借りて「緊急搬送が必要か否か」を判断できるような体制の構築には大きな魅力を感じます。
ただし、こうした原則の修正を行った場合には、他の訪問サービス、例えば訪問介護についても「施設等への訪問を認める」ことにもつながりかねません(訪問看護だけで外部提供を可とすれば、「なぜ訪問看護だけ良しとするのか」という問題が別に浮上する)。介護保険施設への訪問サービスが可能となった場合、利用者サイドからすれば「多様なサービスを受けられる」というメリットがありそうですが、「そもそも介護保険施設とはなにか、介護サービスを自前で提供しなくともよいのか」という根本的な疑問も生じます。さまざまな要素を考慮すべき難しい論点と言えるでしょう。
認知症政策推進大綱の実現に向け、介護報酬でどうアプローチすべきか
また(2)の認知症対応に関しては、2019年6月に認知症施策推進関係閣僚会議で取りまとめられた「認知症施策推進大綱」の実現に向けて、介護報酬の側面からどうアプローチしていくかが重要論点となります。
例えば、▼認知症対応力の向上(介護に携わるすべての人が「認知症介護基礎研修」を修了するなど)▼ケア手法の標準化(BPSD(粗暴行動などの周辺症状)対策や介護負担の軽減など)―などに向けて、介護報酬上の手当て(加算の創設など)を検討していきます。
ただし、すでにある認知症関連の加算を見ると、算定率が芳しくないものも少なくありません(【認知症専門ケア加算】は、認知症対応型共同生活介護(I)の事業所でも20%程度、他の事業所では1%に満たないところも少なくない)。
このため井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)らは、「まず加算算定が低調な理由」を明らかにする必要があると訴えています。算定が低調なままでは、新設した加算も「飾り」に終わってしまいかねないためです。
一方、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、「認知症ケアを評価する指標の設定」を急ぐべきと提案します。例えば「記憶」などにとどまらず、「意欲」や「残存能力の維持」など幅広い視点でサービスを評価し、それを報酬に結び付けていくことが重要と東委員は強調しています。
過疎地でのサービス確保のため人員基準等を柔軟化すべきか、その場合、質の確保は十分か
さらに(3)に関しては、地方(多くは町村)から「各種基準の参酌基準化」などを求める声が数多く紹介されました。参酌基準とは「地域において、当該基準を十分に参酌したうえであれば、地域の実情を踏まえた別途の基準を設定してもよい」ほどの意味です。
例えば、参酌基準として「夜間には3名の人員を配置する」ことが求められとして、地域において「このあたりでは夜間の人材確保が難しい。3名の人員配置は重要だが、1名で良いこととする」などと判断することが認められるのです。
少子化や景気浮揚により「介護人材の不足」が日本全国で進み、とりわけ地方では人材確保が困難です。このために「各種基準を参酌基準化」して、サービスの継続を図ることが必要であると地方自治体から強い要請が出ているのです。この点、介護保険者代表として参画する椎木巧委員(全国町村会副会長、山口県周防大島町長)や大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)からもこうした柔軟措置を求める意見が出されました。
しかし、多くの委員からは「サービスの質を保つ」ことの重要性が説かれ、「参酌基準化などの柔軟措置は慎重に検討すべき」との声も出ています。
「過疎地等でもサービスを確保すべき」という主張と、「サービスの質確保が重要である」との主張と、双方ともに頷けるものです。「過疎地等のみの特例を認める」こととなっても、サービスの質確保という課題は避けて通ることはできません。この難しいテーマをどう考えていくのか、今後の第2ラウンド論議に注目が集まります。
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