科学的介護データベース「CHASE」の項目固まる、介護版DPCのような「ベンチマーク」分析にも期待―厚労省・科学的介護検討会
2019.7.5.(金)
科学的介護を目指した、新たな介護サービスのデータベース「CHASE」について、現場の負担などを考慮して、2020年度から初期仕様では▼できるだけ多くの事業所に入力してもらう30の「基本的な項目」▼加算取得事業所にできるだけ入力してもらう47の「目的に応じた項目」―などに絞り込んでデータ収集を行う―。
7月4日に開催された「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(以下、検討会)で、こういった点が固められました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
厚生労働省は近くモデル事業所を選定して、実際にデータ収集をはじめ項目の妥当性を検証し、2020年度からのCHASE本格稼働に備える考えです。
目次
多くの介護事業所等で入力すべき30の「基本的な項目」等に絞り込み
介護分野・領域においても、エビデンスに基づいた質の高い介護サービスを確立していくこと重視されています。「●●状態の要介護高齢者には、〇〇ケアを提供すれば、◎◎という効果が得られた」という根拠に基づく介護サービスが確立されれば、▼自立支援に資する効果的なサービス提供▼介護現場の負担軽減(効率化)―が実現できると期待されます。
厚労省は、介護のエビデンス構築に向けて、すでに(1)介護保険総合データベース(通称、介護DB:要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納する、2018年度より全保険者からデータを収集)(2)通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業(通称、VISIT:通所・訪問リハビリ事業所からのリハビリ計画書等の情報を格納、現在500か所程度の事業所から収集し、拡大予定)―という2つのデータベースを稼働させています。
さらに検討会では「介入(どのようなケアを提供したか)」「利用者の状態」に関する新たなデータベース【CHASE】(Care, Health Status & Events)設置を決定。昨年(2018年)3月の検討会中間まとめでは、第3のデータベース【CHASE】に265項目のデータを格納する方針を固めました(関連記事はこちら)。
その後、検討会では「介護現場の負担などを考慮し、収集項目を絞り込む」方向でさらに検討を進めてきました。さまざまなデータを収集・解析できれば、より多くのエビデンス構築が期待できます。しかし、多くのデータ収集は介護現場の負担増につながることから、「介護現場の理解を得られず、却ってデータが集まらなくなるのではないか」などの点を考慮した検討です(関連記事はこちらとこちら)。
構成員がそれぞれの専門分野についてギリギリまで絞り込みを行い、さらに検討会での討議を経て次のように決定されました。
●CHASE初期仕様において収集の対象とする項目(案)(検討会とりまとめ案)
まず、できるだけ多くの事業所等で入力されるべき「基本的な項目」は以下のように決められました。被保険者番号・性別・生年月日のいわゆる3情報により、他のデータベース(介護DB、VISIT、NDBなど)との連結解析(個人が誰かの特定をしないまま、紐づけを行える)を見据えたものとなっていると言えるでしょう。基本的な項目ではあるものの、介護現場に遍く浸透するまでには、いくつもの課題があるでしょう。
【総論】保険者番号、被保険者番号、事業所番号、性別、生年月日、既往歴(新規診断含む、主治医意見書等からの情報と連携できるよう今後検討)、服薬情報、同居人等の数・本人との関係性(主たる介護者等についても記載を検討)、在宅復帰の有無、褥瘡の有無・ステージ、BI(Barthel Index)
【認知症】認知症の既往歴等(新規診断含む)、DBD13(モデル事業等で項目を整理)、Vitality Index(同)
【口腔】食事の形態(モデル事業等で形態の分類を整理)、誤嚥性肺炎の既往歴等(新規診断含む)、
【栄養】身長(計測が容易な場合のみ)、体重(同)、栄養補給法、提供栄養量・エネルギー(給食システムと連携等し自動取得を模索)、提供栄養量・タンパク質(同)、主食の摂取量(給食システム等と連携、加算の様式例等に含まれる場合のみ)、副食の摂取量(同)、血清アルブミン値(検診等情報を取得できる場合のみ)、本人の意欲(加算の様式例等に含まれる場合のみ)、食事の留意事項の有無(同)、食事時の摂食・嚥下状況(同)、食欲・食事の満足感(同)、食事に対する意識(同)、多職種による栄養ケアの課題(同)
また、加算対象事業所などで入力されるべき「目的に応じた項目」は次のとおりです。加算対象事業所であれば、すでに把握しているデータが主であり、データ収集のハードルはそれほど高くなさそうです。
【総論】食事、排泄、入浴、更衣、整容、移乗、屋内移動、屋外移動、階段昇降、調理、洗濯、掃除、起き上がり、座位、立ち上がり、立位(いずれも事業所で任意に入力可能な個別機能訓練等に関する項目)
【口腔】摂食・嚥下機能検査の実施、検査結果や観察などを通して把握した課題の所在、食事の観察の実施日、食事の観察者、気づいた点、会議実施日、会議参加者、支援の観点(食事の形態・とろみ、補助食の活用)、食事の周囲環境、食事の介助の方法、口腔ケアの方法、医療または歯科医療受療の必要性、記入日、かかりつけ歯科医、入れ歯の使用、課題等、アセスメント・モニタリング実施日、記入者、観察・評価等、RSST、オーラルディアド コキネシス、問題点、サービスを継続しないことによる口腔機能低下の恐れ、サービス継続の必 要性、計画変更の必要性、口腔機能改善管理指導計画作成日、指導等、機能訓練、本人実施項目、介護者実施項目、改定水飲みテスト(結果)(いずれも加算の様式例等に含まれる場合のみ)
さらに、各事業所で任意に入力すべき「その他の項目」は多数あり、目立つものを拾うと次のようになります。利用者・入所者の状態を把握するために非常に重要な項目ですが、「データ収集に向けた、介護現場の実際の負担はどの程度か」なども検証する必要があります。
【総論】評価方法(包括的自立支援プログラム方式、居宅サービス計画ガイドライン方式、MDS方式(施設)・MDS-HC方式(在宅)、R4(ICFステージング)―のいずれか)と評価結果、FIM、興味のあるアクティビティの有無、寝返り、座位の保持、座位での乗り移り、自分の名前がわかるか、その場にいる人が誰かわかるか、長期記憶は保たれているか、簡単な計算はできるか、脱水状態になったことはあるか、日常生活圏域ニーズ調査等―など
【認知症】改定長谷川式認知症スケールなど
【口腔】食事時のポジショニング
【栄養】低栄養のリスクレベル、3%以上の体重減少の有無―など
これらの項目で「2020年度から本格稼働させるCHASEの初期仕様」は固まり、今後、具体的なデータベース構築が進められます。
あわせて、上述した課題、例えば「基本的な項目の1つ『食事の形態』について分類をどう整理するか(介護施設によって、同じ形態の食事でも呼称はさまざまであり、また同じ呼称でも形態に相違があるため標準化を行う)」「その他の項目の収集(入力)に関する実現可能性はどの程度か」「将来、追加すべき項目としてどのようなものが考えられるのか」などを検証するために、厚生労働省はモデル事業を実施します。ただし、すべての課題等を一度に検証等することは困難なため、「まず2019年度には、できるだけ多くの事業所等で入力すべき『基本的な項目』についての課題検証から行っていく」などの優先順位がつけられます。厚労省でモデル事業所を選定し、実際に「基本的な項目」「目的に応じた項目」「その他の項目」の入力をしてもらい、課題等を探っていくイメージです。
データの現場還元、介護版DPCのような「ベンチマーク分析」目指せとの指摘も
こうした項目内容等について特段の反対意見は出されず、多くの構成員から「将来に向けた提案」がなされました。
多くの委員から指摘されたのは、「データベースを現場にどう活かすか」が極めて重要であるという点です。データベースの構築が目的ではなく、「データベースに格納されたデータを活用して一定の知見(エビデンス)を得て、これを現場に還元することで、現場の改善を促す」ことが求められるためです。
ただし、「現場への還元」にはさまざまな意見が出ています。例えば、海老原覚構成員(東邦大学医療センター大森病院リハビリ科教授)は、状態のデータを見て「自事業所・施設の振り返りを行い、1つ1つのケアを改善していく」ことが重要と指摘します。
一方、折茂賢一郎オブザーバー(全国老人保健施設協会副会長)は「介護現場のベンチマーク分析」を見据えるべきと提案。急性期入院医療では「DPC」制度が導入され、入院基本料や投薬・検査などを包括評価するとともに、病院側には詳細なデータ提出が義務付けられています。このデータ提出は病院には大きな負担となっていますが、データを解析し「自院の立ち位置」などを把握することができます。例えば「抗菌剤の投与日数」データを見れば、自院では「他院に比べて抗菌剤を使い過ぎである」ことなどが客観的なデータとして判明し、自院の取り組みの改善につなげていくことができます。2003年度からDPCが段階的に拡大され、現在の急性期入院医療は、驚くほどの「標準化」「質の向上」が実現できています。介護分野でも、こうした方向を目指すべきと折茂オブザーバーは提案しているのです。
両者ともに「介護の質改善」に向けてデータベースを活用することを目指しており、実現可能性(介護分野で一足飛びにDPCデータ提出のようなことを求めることが可能なのか)なども踏まえて、今後、厚労省と関係者で検討していくことが期待されます。
「介入」データの収集に向けて、ICHIなど活用した「介入のコード化」を
この点、「介護の質改善」を目指すのであれば、「どのようなケア・行為が行われ、それが状態改善にどう結び付いたのか」というエビデンスが必要となります。松田晋哉構成員(産業医科大学公衆衛生学教室教授)や折茂オブザーバーらは、このため「介入に関するデータ収集」の重要性を強調しました。
上述のとおり、科学的介護の実現には「どのようなケアを実施したら」(介入)、「どのような改善効果が得られたのか」(状態)といったデータ収集が不可欠です。しかし、初期仕様では後者の「状態」に関するデータ収集がほとんどで、前者の「介入」に関するデータはごく一部にとどまっています。
「介入」データ収集に当たっては、「どのような行為を行ったのか」を詳しく・正確に入力してもらうことが必要です。例えば「通所リハビリを提供した」といったデータにとどまらず、▼リハビリの内容▼時間▼頻度▼期間―などのデータを詳細に入力してもらう必要があるのです。しかし、我が国では「介入に関するコード」が十分に整備されていません(詳細なデータを文章で入力したとしても、集計するにははやりコードが必要となる)。現在、WHOで介護関連のケアコード「ICHI」(International Classification of Health Interventions)が開発途中であり、厚労省や研究者で「日本語への翻訳など」も行いながら、「介入に関するコード」の整備を進めていくことが求められます。
データ入力の「負担」軽減のみならず、「負担感」軽減も重要
このような「現場への還元」は、データを入力する介護スタッフのモチベーション向上にもつながります。データ入力を「面倒な作業」としか捉えられなければ、モチベーションが上がらず、データの精度も低下しがちです。しかし、「このデータ入力には介護の質向上に向けた重要な意味がある」と積極的に捉えることができれば、データの量・質が向上していくと期待されます。鳥羽研二座長(国立長寿医療研究センター理事長)は「現場スタッフに、データ入力の意義などを周知する工夫が重要となる」と強調しています。
この点、厚労省の鈴木康裕医務技監も、「データ項目の絞り込みによる『負担』軽減と、データ入力の意義浸透などによる『負担感』軽減の双方が重要になる」とコメントしています。今後のモデル事業や研究事業なども踏まえ、積極的な検討が進められることが期待されます。
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