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特定処遇改善加算の財源配分ルール柔軟化、職場環境等要件の見直しなどで介護職員処遇改善進める—社保審・介護給付費分科会(7)

2021.1.27.(水)

Gem Medでお伝えしているとおり、1月18日の社会保障審議会・介護給付費分科会で2021年度介護報酬改定の内容(単位数等改定)が了承されました(リハビリに関する記事はこちら、科学的介護に関する記事はこちら、通所介護に関する記事はこちら、訪問看護に関する記事はこちら、介護医療院・介護療養に関する記事はこちら、ケアマネジメントに関する記事はこちら)。

本稿では、介護職員の「処遇改善」に焦点を合わせて見ます。

職場環境等要件にメリハリをつけ、さらなる職場定着が進むように

我が国人口のボリュームゾーンとなっている、いわゆる団塊の世代が2022年度から75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達します。また2025年度から2040年度にかけて高齢者の増加ペースそのものは鈍化するものの、現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。こうした「少子高齢化」の進行により、今後、介護保険制度の基板が非常に脆くなっていきます。

とりわけ「介護提供体制の確保」が大きな問題となり、介護人材の確保・定着が最重要テーマの1つとなります。厚生労働省は▼介護職員処遇改善加算(2012年度改定で、介護職員処遇改善交付金を受けて創設され、その後、順次拡充)▼特定処遇改善加算(2019年度改定で創設、主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す)―という2つの加算で「賃金・給与の引き上げ」を狙っています。

2021年度の介護報酬改定では、例えば次のような見直しが行われます。「新たな加算の創設、加算率の引き上げなどが行われない」点をもって、処遇改善に向けた取り組みが弱いと考える向きもあります。しかし、処遇改善は本来「事業所とスタッフとの労使協議で進める」ものであり、利用者負担につながる「加算」に疑問を唱える識者も少なくありません。2021年度には、田村憲久厚生労働大臣・麻生太郎財務大臣等の合意によって「0.7%のプラス改定」が行われ、各種サービスにおいて「基本報酬の引き上げ」が行われます。これを踏まえて、各事業所・施設では「恒常的な処遇改善」などに積極的かつ自主的に取り組むことが強く求められます。

(1)処遇改善加算の職場環境等要件の見直し
(2)介護職員等特定処遇改善加算の見直し
(3)介護職員処遇改善加算(IV)及び(V)の廃止



まず(1)は、【介護職員処遇改善加算】【特定処遇改善加算】に共通する算定要件の1つである「職場環境等要件」について、職員の離職防止・定着促進を図る観点から次の取り組みがより促進されるような見直しが行われます。

▽職員の新規採用や定着促進に資する取り組み
▽職員のキャリアアップに資する取り組み
▽両立支援・多様な働き方の推進に資する取り組み
▽腰痛を含む業務に関する心身の不調に対応する取り組み
▽生産性の向上につながる取り組み
▽仕事へのやりがい・働きがいの醸成や職場のコミュニケーションの円滑化等、職員の勤務継続に資する取り組み

具体的な姿は、今後示される「通知」や「事務連絡(Q&A)」を待つ必要がありますが、下表の内容にメリハリをつけるものとなるでしょう。自施設・事業所における取り組み内容を精査し、上記の「促進すべき取り組み」が十分に行われているかを今のうちから確認しておくことが必要です。

職場環境等要件の概要(介護給付費分科会(1)1 201109)



また、職場環境等要件に基づく取組の実施について「当該年度における取り組みの実施」を求める、という見直しも行われます。

現在、【介護職員処遇改善加算】において、加算(I)(II)では「2015年4月以降に実施した職場環境等改善に向けた取り組み」を、加算(III)(IV)では「2008年10月以降に実施した職場環境等改善に向けた取り組み」を、また【特定処遇改善加算】においては「2008「10月以降に実施した職場環境等改善に向けた取り組み」を実績として認めています。

しかし「過去の取り組み実績」ではなく、「現在の実績」が重要であるとの指摘が強く、「加算を取得する当該年度の取り組み」のみを実績としてカウントする方向へ見直されます。具体的な内容は、こちらも「通知」や「事務連絡(Q&A)」を待つ必要があります。

いずれも、「スタッフの職場定着に向けて、より実効性のある取り組み」を行う事業所・施設を評価する見直しで、言わば「頑張っている事業所・施設が、より適正に評価される」こととなります。

【特定処遇改善加算】の財源配分ルールを柔軟化

ところで、2019年度改定で新設された【特定処遇改善加算】は、主に「勤続10年以上の介護福祉士」を対象にさらなる処遇改善を行うことを目的としており、次のような財源配分ルール(加算を財源として、どのようにスタッフの賃金改善等に充てるかのルール)が設けられています。

▼勤続10年以上の介護福祉士等▼その他の介護職員▼それ以外のスタッフ―の賃金改善額を「2対1対0.5」の範囲に収める



しかし、精緻な賃金テーブルを設けている先進的な介護事業所・施設では、かえってこの「2対1対0.5」ルールが足枷となり、「賃金体系を守るために、あえて【特定処遇改善加算】を取得しない」ケースもあることが分かっています。

これでは加算新設の意義がそがれてしまうため、2021年度改定では(2)のように、【特定処遇改善加算】について次のような「財源配分ルールの柔軟化」が行われます。

(A)「勤続10年以上の介護福祉士等」と「その他の介護職員」とでは「2対1」ルールを廃止し、「より高くする」と柔軟化する
(B)「その他の介護職員」と「それ以外のスタッフ」との財源配分は現行を維持し、「1対0.5」ルールとする

特定処遇改善加算の財源配分ルールを柔軟化する(介護給付費分科会(7)1 210118)



この柔軟化により、多くの施設・事業所で【特定処遇改善加算】の取得・算定が進むと期待されます。

なお、議論の過程では「財源配分ルール」をより柔軟に見直すことも検討されましたが、その場合には「主に『勤続10年以上の介護福祉士』を対象にさらなる処遇改善を行う」という本来趣旨が瓦解してしまう可能性も否定できず、今般の内容に落ち着いています。

【介護職員処遇改善加算】の(IV)(V)、2021年度をもって廃止

また(3)は、従前からの【介護職員処遇改善加算】について、上位の加算(加算(I)(II)(III))への移行・転換を促進するために、「1年間の経過措置」を置いたうえで、下位区分(加算(IV)、(V))については廃止することを確定したものです。

廃止の方針は2018年度の前回介護報酬改定で固められており、現在は「経過的に継続」となっています。調査研究で、社会保険労務士の事業所派遣などによって「上位加算への転換が進んでいる」状況が確認できたことから、「廃止」の期限を明確化したものです。

加算(IV)(V)の算定事業所は700程度あり、上位区分への移行・転換を急ぎ進めることが求められます。

介護職員処遇改善加算のIVとVについては2021年度をもって廃止する(介護給付費分科会(7)2 210118)



●2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事●
【第1ラウンド】

▽横断的事項▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)介護老人保健施設(老健)介護医療院・介護療養型医療施設—)

【第2ラウンド】
▽横断的事項
(▼人材確保、制度の持続可能性自立支援・重度化防止地域包括ケアシステムの推進―)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護・認知症対応型通所介護、療養通所介護通所リハビリテーション、福祉用具・住宅改修短期入所生活介護、短期入所療養介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護、訪問入浴介護訪問リハビリ、居宅療養管理指導居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護医療院・介護療養型医療施設介護老人保健施設、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)短期入所生活介護、短期入所療養介護―)

▽横断的事項(その2)(▼地域包括ケアシステムの推進▼自立支援・重度化防止の推進(関連記事はこちら(ADL維持等加算)こちら(認知症対策、看取り対応、科学的介護など)、▼処遇改善、▼人材確保、制度の安定性・持続可能性の確保など―)

▽実態調査(▼介護事業経営処遇改善―)

▽詰めの議論(▼多機能型サービス短期入所系サービス通所系サービス訪問看護「介護医療院・介護療養型医療施設」科学的介護の推進(データ提出)ADL維持等加算ケアマネジメント―)

▽最終調整の議論(▼運営基準見直し、▼GHの夜勤配置・個室ユニット定員の緩和、▼ICT活用した場合の夜勤スタッフ配置緩和等、▼訪問看護―)

審議報告論議



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