2021年度介護報酬改定に向け「人員配置基準」改正を了承、サービスの質確保前提に基準緩和—社保審・介護給付費分科会
2021.1.14.(木)
少子高齢化の進展により介護人材確保が難しくなる点を踏まえて、「介護サービスの安全性や質の確保」を大前提として、介護施設・事業所の人員配置基準等を一部緩和する。例えば、認知症高齢者グループホームの夜勤体制について、一定の基準を満たした場合には「1ユニット1人」から「3ユニット2人」に緩和することを可能とする—。
すべての介護サービスにおいて、CHASE・VISITといった介護データベースの利活用を推進するとともに、「介護に直接携わる者について認知症介護基礎研修を受講させる」ことを介護事業主に義務付ける—。
1月13日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった内容が了承されました。厚生労働省は1月下旬にも「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令」を交付する考えです。
また、介護給付費分科会では、近く「単位数」に関する審議も行い、2021年度介護報酬改定の全体像がそこで固められることになります。
個室ユニット型の定員を「最大15人」に緩和、ただしサービスの質確保が大前提
来年度(2021年度)の介護報酬改定に向けた議論が介護給付費分科会で精力的に進められ、昨年(2020年)12月18日に審議報告をまとめました。これを受けて、田村憲久厚生労働大臣が「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の改正」について1月13日に諮問。介護給付費分科会で諮問内容について審議を行い、了承されています。
改正内容は、すでに議論されてきたものですが、目立つ部分を振り返ってみましょう。
まず今回改正の最大のポイントは「人員配置基準を、サービスの質を確保したうえで緩和する」という点です。2022年度からは、いわゆる団塊の世代が後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達します。このため、介護ニーズが急速に高まっていきます。一方、2025年度から2040年度にかけて高齢者の増加ペース自体は鈍化しますが、現役世代人口が急速に減少していくため「介護人材の確保」が極めて難しくなります。こうした状況の中では「人員配置基準」の緩和をしなければ、介護保険サービスの確保が適わなくなります。一方、人員配置基準の緩和は、▼安全性▼スタッフの負担▼サービスの質—という面で課題もあり、介護給付費分科会では「安全性確保」等を最重要テーマに据えたうえで、「人員配置基準をどう緩和できるか」を検討してきたのです。
例えば、次のような人員配置基準緩和が行われます(ピックアップしています)。
▽個室ユニット型施設について、ケアの質を維持しつつ、人材確保や職員定着を目指し、ユニットケアを推進する観点から次の見直しを行う
▼1ユニットの定員を、「夜間・深夜を含めた介護・看護職員の配置実態を勘案して職員を配置するよう努める」ことを求めつつ、現行の「概ね10人以下」から「原則として概ね10人以下とし、15人を超えない」と改める
▼ユニット型個室的多床室について新設を禁止する
▽認知症グループホームの夜勤職員体制について、現行の「1ユニットごとに1人以上配置」から、3ユニットの場合で、「各ユニットが同一階に隣接し、職員が円滑に利用者の状況把握を行い、速やかな対応が可能な構造」となっており、安全対策(マニュアルの策定、訓練の実施)をとっていることを要件として、例外的に「3ユニットにつき2人以上配置」に緩和する体制を事業所が選択可能とする
▽短期入所生活介護(生活ショート)において、看護職員を配置しなかった場合でも、利用者の状態像に応じて必要がある場合には、「病院」「診療所」「訪問看護ステーション」などとの密接かつ適切な連携により「看護職員を確保」することを求める
▽小規模多機能型居宅介護について、2020年の地方分権改革提案を踏まえ、厚生労働省令で定める登録定員・利用定員の基準を、市町村が条例で定める上での「従うべき基準」(必ず適合しなければならない基準、全国一律)から「標準基準」(通常よるべき基準であり、合理的な理由がある範囲内で、地域の実情に応じて異なる内容を定めることが許容される)に見直す(法律上の措置を講じた上で、運営基準について所要の改正を行う)
個室ユニットの定員拡大(裏返せば人員配置基準緩和)、認知症高齢者グループホームの夜勤体制緩和については大きな議論があったところです。1月13日の介護給付費分科会でも▼安全性やサービスの質について低下が生じていないか▼スタッフの負担が過重になっていないか—などを経時的に確認することを求める意見が出ています。この点、昨年(2020年)の介護給付費分科会では、厚労省老健局高齢者支援課の齋藤良太課長から「事後に確認を行い、サービス提供に支障が出ていることが確認されるなどした場合には、必要な対応を行う」旨の考えが示されています。
科学的介護を推進、認知症対応力を向上、感染症対策の徹底
また、科学的介護(データに基づく介護)の推進、感染症対策、災害対策、認知症対応力の向上といった、介護を取り巻く重要課題に対応するために、次のような見直しも行われます。認知症介護基礎研修については、事業主に「スタッフに研修を受講させる」義務が課せられるもので、これに違反する場合には指導監督の対象となります。
▽すべての介護サービスにおいて、CHASE・VISIT(いずれも介護サービスのデータベース)を活用した計画作成や事業所単位でのPDCAサイクルの推進、ケアの質の向上を推奨する
▽すべての介護サービスにおいて感染対策の強化を求める
▽非常災害対策(計画策定、関係機関との連携体制の確保、避難等訓練の実施等)が求められる介護サービス事業者を対象に、訓練の実施に当たって地域住民の参加が得られるよう連携に努めることを求める(対象は通所系サービス、短期入所系サービス、居住系サービス、施設サービス)
▽介護に関わる全ての者の認知症対応力を向上させていくため、介護サービス事業者に「介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を有さない者について、認知症介護基礎研修を受講させるために必要な措置を講じる」ことを義務づける。その際、3年の経過措置期間を設ける(対象は(介護予防)訪問入浴介護、通所系サービス、短期入所系サービス、多機能系サービス、居住系サービス、施設サービス)
より公正中立なケアマネジメント体制の確立を目指す
なお、公的介護保険の要となる居宅介護支援(ケアマネジメント)については、次のような見直しが行われます。
▽ケアマネジメントの公正中立性の確保を図る観点から、事業者に、次の要点を利用者に説明を行うことを義務付ける
▼前6か月間に作成したケアプランにおける訪問介護、通所介護、地域密着型通所介護、福祉用具貸与の各サービスの割合
▼前6か月間に作成したケアプランにおける訪問介護、通所介護、地域 密着型通所介護、福祉用具貸与の各サービスに関し同一事業者によって提供されたものの割合
▽「区分支給限度基準額の利用割合が高く、かつ、訪問介護が利用サービスの大部分を占める」などのケアプランを作成するケアマネ事業者を「事業所単位で抽出する」などの点検・検証の仕組みを2021年10月から導入する
前者(前6か月間のケアプランの説明)については、ケアマネ事業所の負担を考慮して、現行の【特定事業所集中減算】の仕組み(年に2回、ケアプランが一部のサービス事業所に集中していないかどうかをチェックする)を参照にする(つまり、ケアプラン作成毎に「前6か月のデータ」を提供するといったわけではない)ことなどが、厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課の笹子宗一郎課長から説明されています。
介護給付費分科会では、こうした内容を了承。親会議である「社会保障審議会」にその旨が報告され、同日(1月13日)に社会保障審議会の遠藤久夫会長(学習院大学経済学部教授)から田村厚労相に対し「諮問内容を了承する」旨の答申が行われました。厚労省は答申を受けて、1月中にも改正省令を交付する構えです。
また、近く「単位数」(告示事項)に関する諮問・答申も行われる見込みで、これにより2021年度介護報酬改定の全体像が固まります。その後、通知や事務連絡等で改定内容の詳細が示され、4月から新単位数・新基準が適用されることになります。
●2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事●
【第1ラウンド】
▽横断的事項(▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)
▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護▼小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)
▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション▼短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)
▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)
▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼介護老人保健施設(老健)▼介護医療院・介護療養型医療施設—)
【第2ラウンド】
▽横断的事項(▼人材確保、制度の持続可能性▼自立支援・重度化防止▼地域包括ケアシステムの推進―)
▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)▼認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)
▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護・認知症対応型通所介護、療養通所介護▼通所リハビリテーション、福祉用具・住宅改修▼短期入所生活介護、短期入所療養介護―)
▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護、訪問入浴介護▼訪問リハビリ、居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)
▽施設サービス(▼介護医療院・介護療養型医療施設▼介護老人保健施設、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼短期入所生活介護、短期入所療養介護―)
▽横断的事項(その2)(▼地域包括ケアシステムの推進▼自立支援・重度化防止の推進(関連記事はこちら(ADL維持等加算)とこちら(認知症対策、看取り対応、科学的介護など)、▼処遇改善、▼人材確保、制度の安定性・持続可能性の確保など―)
▽詰めの議論(▼多機能型サービス▼短期入所系サービス▼通所系サービス▼訪問看護▼「介護医療院・介護療養型医療施設」▼科学的介護の推進(データ提出)▼ADL維持等加算▼ケアマネジメント―)
▽最終調整の議論(▼運営基準見直し、▼GHの夜勤配置・個室ユニット定員の緩和、▼ICT活用した場合の夜勤スタッフ配置緩和等、▼訪問看護―)
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