支給限度基準額の7割以上利用(うち訪問介護6割以上)のケアマネ事業所でケアプラン点検―社保審・介護給付費分科会
2021.7.30.(金)
区分支給限度基準額の利用割合が7割以上となり、うち訪問介護が6割以上となっているケアマネ事業所(居宅介護支援事業所)を抽出し、多職種で「より良いケアプランにできないか」を点検・検証する仕組みをこの10月(2021年10月)からスタートさせる―。
その際、より良いケアプランを目指すことが狙いであることを十分に周知し、この基準に該当したケアマネ事業所が「悪」という誤解がないように、また訪問介護の利用制限につながらないように配慮する必要がある―。
7月28日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論が行われました。
また、介護従事者の処遇改善状況や、そこに新型コロナウイルス感染症が影響していないかなどを調べる「介護従事者処遇状況等調査」の内容も了承されました。総務省の確認などを経て調査を実施し、来年(2022年)3月に介護給付費分科会に結果報告が行われます。
多職種で点検し、「より利用者の意向・状態を踏まえた質の高いケアプラン」を目指す
本年度(2021年度)の介護報酬改定では、「区分支給限度基準額いっぱいまで訪問介護を組むケアマネ事業所」について、事業所単位で抽出し「ケアプランの点検を行う」という仕組みが導入されました。
一部に「生活援助の訪問回数が著しく多い(1か月に100回以上など)ケアプランがある」ことが問題視され、2018年度の前回改定論議を踏まえて、1か月当たりの生活援助サービスの回数が▼要介護1:27回▼要介護2:34回▼要介護3:43回▼要介護4:38回▼要介護5:31回—以上の場合には、そのケアプランを市町村に届け出て、市町村の地域ケア会議で「必要があって頻回の利用となっているのか、あるいは不適切な部分があるのか」を検証する仕組みが導入されています。
さらに、2021年度介護報酬改定論議の中では、「単に生活援助から身体介護に切り替えているだけのケースがあるのではないか」との指摘があり、▼区分支給限度基準額の利用割合が高い▼訪問介護が利用サービスの大部分を占める—などのケアプランを作成するケアマネ事業所を事業所単位で抽出し、ケアプランを点検・検証する仕組みが新たに導入されます(この10月(2021年10月)から適用)。
厚生労働省厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課の笹子宗一郎課長は、この事業所抽出基準について、次のように設定する考えを報告しました(現在、パブリックコメント募集中)。ケアマネ事業所のおよそ3%が該当し、10月からケアプラン点検等が行われることになります。
▽ケアマネ事業所ごとに見て、「区分支給限度基準額の利用割合」が7割以上
▽その利用サービスの6割以上が訪問介護サービス
この仕組みは、「ケアプランを多職種で様々な角度から分析し、より適切なケアプランに改善できないか」を探っていくものとされています。例えば「訪問介護がほとんどを占めているが、利用者の医療ニーズを踏まえれば、訪問看護や訪問リハビリを組み合わせたほうが、より自立支援につながるのではないか」などのアドヴァイスが行われると見込まれます。
ただし、現場や利用者からは「訪問介護の利用制限につながるのではないか」との心配の声があがっていることが、鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)や濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)から報告されました。田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)も「地域によっては介護サービスの種類が不足し、やむを得ず『訪問看護がほとんどとなる』ケースもあれば、またケアプラン作成に当たっては利用者や家族の意向も十分に勘案する必要がある。基準に該当したケアマネ事業所が『悪い事業所である』との誤解が生じないように留意する必要がある」と指摘しました。
これを受け、笹子認知症施策・地域介護推進課長は「この仕組みの趣旨は、利用者等の意向に沿った、より質の高いケアプラン作成を目指すものである。訪問介護の利用制限につながらず、また『基準該当=悪』といった誤解が生じないよう、仕組みの趣旨を周知していく」考えを強調しています。
介護職員の処遇状況等を調査、コロナ感染症の影響が出ていないかなども同時に把握
また7月28日の介護給付費分科会では、「介護従事者処遇状況等調査」の詳細が固められました。
少子高齢化が急速に進行する中では「介護職員の確保」が極めて重要な政策課題となっており、厚労省は▼介護職員処遇改善加算(2012年度改定で、介護職員処遇改善交付金を受けて創設され、その後、順次拡充)▼特定処遇改善加算(2019年度改定で創設、主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す)―という2つの加算を設け、「賃金・給与の引き上げ」「賃金・給与以外の処遇改善」「職場環境の改善」を狙っています。
介護報酬改定後に、介護職員の処遇状況に関する調査が定期的に行われており(必要に応じて臨時調査も行われる)、今般、2021年度改定を受けた調査が行われるものです。
すでに下部組織である「介護事業経営調査委員会」で調査項目等の議論を行い、そこでの意見も踏まえた調査項目案が厚労省老健局老人保健課の平子哲夫課長から介護給付費分科会に報告されています。調査の大枠は次のとおりで、介護事業経営調査委員会の意見(ケアマネ事業所も調査対象に加える、新型コロナウイルス感染症の影響(コロナ感染症の影響で賃金引下げを行ったなど)も調べる)を踏まえた内容となっています。
(1)調査対象(20分の1から4分の1の抽出)
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院、訪問介護事業所、通所介護事業所(地域密着型含む)、通所リハビリ事業所、特定施設入居者生活介護事業所、小規模多機能型居宅介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所、居宅介護支援事業所および当該施設・事業 所に在籍する介護従事者等(2020年度調査に倣う)
(2)調査項目
▽施設・事業所に対して
→新型コロナウイルス感染症の影響、給与等の状況、介護職員処遇改善加算の届け出状況、介護職員等特定処遇改善加算の届け出状況、給与等の引き上げ以外の処遇改善状況など
▽従業者(介護職員)に対して
→性別、年齢、勤続年数、勤務形態、介護職員等特定処遇改善加算の状況、労働時間、資格の取得状況、兼務の状況、基本給の額、手当の額、一時金の額など
(3)調査・公表時期
今年(2021年)10月に「今年(2021年)4-9月の状況」を調査し、来年(2022年)3月に公表(委員会や介護給付費分科会に報告)
調査内容に異論は出ていませんが、委員からは「介護職員の処遇改善の一環として、介護助手の活用が進んでいるかなども把握できるようにしてほしい」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)、「特定処遇改善加算の配分柔軟化が、リーダー級介護福祉士の給与改善に悪影響を及ぼしていないか把握する必要がある」(藤野裕子委員:日本介護福祉士会常任理事)、「回答率の向上に向けた工夫を行ってほしい」(吉森俊和委員:全国健康保険協会理事、鎌田委員ほか)などの意見が出ており、記入要領や分析などで考慮されます。
関連して石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学看護学部教授)は「新型コロナウイルス感染症の影響で、介護事業所が経営悪化などで閉鎖が進んでいる状況がないか心配している。そうした点を把握してほしい」と要望。笹子認知症施策・地域介護推進課長は「まず、今年度(2021年度)の老健事業などで、介護事業所等の経営状況を把握する」考えを示しました。
あわせて、松田晋哉委員(産業医科大学教授)は、「レセプトの請求・算定状況を見ると、医療では入院・入院外ともに大きく減少しているが、介護では全体としてはコロナ感染症による減少などはほとんど見られていない」ことを紹介。個々の事業所ベースでは影響が出ている可能性が否定できませんが、全体としては「コロナ感染症が流行する中でも、感染対策をとり、介護サービス提供が続けられている」ことが伺えます。
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