地域包括ケアシステムの進化・推進に当たって、基盤となる「人材の育成・確保」が最重要課題—社保審・介護保険部会
2022.5.20.(金)
地域包括ケアシステムの進化・推進に向けて、まずは基盤となる「人材の育成・確保」に努める必要がある。とりわけ訪問介護においては人材不足が深刻で、早急に手当てを行う必要がある—。
医療・介護連携については、医療制度と介護制度とのつなぎ目を議論する場を検討してはどうか―。
さらに、人口構造の変化を踏まえて「介護保険の保険者の在り方」の検討、具体的には「広域化」を検討する必要もあるのではないか―。
5月16日に開催された社会保障審議会・介護保険部会でこういった議論が行われました。
人口構造の変化踏まえた保険者の在り方、標準的認知症ケアパス作成など検討せよ
Gem Medで報じているとおり、2024年度からの新たな介護保険事業(支援)計画(市町村の介護保険事業計画、都道府県の介護保険事業支援計画)に向けた介護保険制度改正論議が介護保険部会で始まっています(関連記事はこちら)。
2000年度にスタートした介護保険制度は、「3年を1期」とする介護保険事業(支援)計画(市町村)に沿ってサービス提供体制整備や保険料設定などが行われます。2024年度からの新計画(第9期計画)に向けて、▼2022年に必要な制度改正内容を固める→▼2023年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ→▼改正法等を受け、2023年度に市町村・都道府県で第9期計画を作成する→▼2024年度から第9期計画を走らせる―というスケジュールで制度改正等を行う必要があるのです。
3月24日にはキックオフ会合が開かれ(関連記事はこちら)、今後、▼地域包括ケアシステムの更なる深化・推進▼介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進▼給付と負担▼その他の課題—といった大きな論点について夏頃までに第1ラウンド論議を行い、秋以降に具体的な第2ラウンド論議が進むと予想されます。
5月16日には「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進」に関して、さらに細かく(1)在宅・施設を通じた介護サービスの基盤整備、住まいと生活の一体的な支援(2)医療と介護の連携強化、自立支援・重度化防止の取組の推進(3)認知症施策、家族を含めた相談支援体制(4)地域における介護予防や社会参加活動の充実(5)保険者機能の強化—という論点が示され、これに基づいた議論が行われました(5月末予定の次回会合でもこの論点を議論する予定)。
今年度(2022年度)から、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年度にはすべてが後期高齢者となることから、今後、急速に医療・介護ニーズが増加していきます。こうしたニーズに効果的かつ効率的に対応するために「地域包括ケアシステムの構築」が急がれます。要介護状態が重くなっても、住み慣れた地域で生活を継続できるよう、地域において▼住まい▼医療(在宅+後方病床)▼介護▼生活支援(配食サービス等)—などを総合的に提供するシステムです。
委員からは、交渉の提示した5つの論点を推進し「地域包括ケアシステムを深化、推進させる」方向に賛同したうえで、「どういった点に留意していくか」という視点での意見が多数出されました。
その中でも目立つのが、基盤となる「人材の育成・確保」という視点です。例えば、▼山村、離島、僻地では人材確保が極めて困難である。地域の実情を踏まえた支援を強化するとともに、ロボットやICT活用を推進する必要がある(大西秀人委員:全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)▼訪問介護については人材不足が深刻であり、早急な対応をしなければならない(小林司委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長、染川朗委員:UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長、濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長)▼フォーマルサービス(保険適用のサービス)に加え、インフォーマルサービスを組み合わせることが重要ではないか。後者では「引退した専門職種」が担うことなどが考えらえる(及川ゆりこ委員:日本介護福祉士会会長)—などの意見が出ています。訪問介護については、施設介護に比べても「人材不足が深刻化」しており、どういう対応を図るのか今後の動きを注視する必要があります。
また(2)の医療・介護連携に関しては、▼介護だけ、医療だけの議論では連携は進まない。介護と医療のつなぎ目を議論する場が必要である(橋本康子委員:日本慢性期医療協会副会長、吉森俊和委員:全国健康保険協会理事)▼特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)における医療提供・保険給付(つまり診療報酬)の在り方を今一度検討すべき(桝田和平委員:全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)▼地域において、医療・介護提供体制は一体的に考えていくべきであり、「地域医療構想」は「地域医療介護構想」に発展的改組すべき(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)—などの前向きな意見が出ています。極めて重要な視点と言えます。
関連して江澤委員は「訪問リハビリ」に言及。従前より「訪問看護ステーションから提供されるリハビリ」が問題視されていますが、▼医療機関・老人保健施設から提供される訪問リハビリとの差(リハビリの内容・効果など)を検証すべき▼地域で訪問リハビリニーズが高いのであれば、医療機関・老健施設からの訪問リハビリを拡充すべき―との考えを示しています。この点も、今後の重要論点の1つとなりそうです。
さらに(3)の認知症対策に関しては、▼地域における標準的な認知症ケアパスの作成・実施をいそぐべき(吉森委員)▼多剤投与が認知症の発症・進行の原因となっている面もあるのではないか。介護保険施設におけるポリファーマシー対策も重要である(桝田委員、津下一代委員:女子栄養大学特任教授)▼認知症高齢者でも、残存能力の活用・維持という視点に立った「自立支援」を重視していくべき(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)—などの意見が目立ちました。
高齢化の進展とともに認知症高齢者も増加していきます(2025年度には675-730万人と推計)。適切な介護サービス提供(認知症対応型通所介護(いわゆる認デイ)や、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などの拡充)のほか、適切な医療提供(早期発見・早期治療)、さらに認知症研究の推進にも期待が集まります。
一方、(4)の介護予防等に関しては、▼「通いの場」への医療専門職関与(江澤委員)▼予防事業の費用対効果検証(河本委員)▼「元気高齢者」「プレフレイル」「フレイル」の3段階に分けた対応の検討(東委員)—などを提案する声が出ています。
さらに(5)の保険者機能の強化に関しては、いわゆる「インセンティブ交付金」(保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金:自立支援・重度化防止に積極的に取り組む市町村・都道府県に対し財政的な支援を行う仕組み)について、▼取り組み実績の低い保険者等にはペナルティを与えるなどし「財政中立」の仕組みとしていくべき(河本滋史委員:健康保険組合連合会理事)―との指摘が出されました。
なお、「保険者の広域化」の検討を求める声も大西委員や津下委員から出ています。現在、介護保険の保険者は住民に最も身近な行政機関である「市町村」が担っています。在宅サービスが主体となる介護保険では、「限定されたエリアでのサービス提供体制構築」が求められるためと考えられます(在宅サービスでは長距離移動は現実的でない)。しかし、規模の小さな町村では、高齢化の進展(都市部より高齢化が進んでいる)→要介護者等の増加による財政の逼迫化、人材不足が極めて深刻です。人口構造の変化を踏まえた「保険者の在り方」も今後の重要論点の1つになりそうです。
このような自由討議を経て具体的な「論点」を抽出し、秋以降に議論を深めていくことになります。
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