2024年度介護報酬改定に向け「介護療養からの移行予定」や「LIFE活用状況」など詳しく調査―社保審・介護給付費分科会(2)
2022.2.8.(火)
2024年度の次期介護報酬改定に向けて、「先に行われた2021年度介護報酬改定の効果・影響」を調査する。調査は2021・22・23年度の3回に分けて行い、2022年度には(1)都市部、離島や中山間地域などにおける「21年度改定等による措置」の検証、地域の実情に応じた必要な方策、サービス提供のあり方(2)介護保険施設のリスクマネジメント(3)介護保険施設における医療・介護サービスの提供実態等(4)LIFEを活用した取組状況の把握および訪問系サービス・居宅介護支援事業所におけるLIFEの活用可能性の検証(5)介護現場でのテクノロジー活用—の5項目について調査を行う―。
また、2024年度介護報酬改定に向けて、2020年度・21年度における介護事業所・施設の経営状況を調査する。その際、新型コロナウイルス感染症の影響も調査項目に加える―。
2月7日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった点について了承されました(新たな介護職員の処遇改善加算に関する議論の記事はこちら)。
2024年度改定に向け「LIFE活用状況」や「介護療養からの移行予定」など調査
昨年4月に介護報酬改定(2021年度改定)が行われたばかりですが、介護給付費分科会では早くも「2024年度の次期介護報酬改定(6年に一度の診療報酬との同時改定)」を見据えた議論が熱を帯びてきています。
まず2021年度改定の効果検証・調査研究調査について見てみましょう。
3年に一度行われる介護報酬改定は、▼公定価格である介護報酬を物価・賃金動向を踏まえて調整する▼介護事業所・施設の経営を安定化させる▼介護現場の課題を解決し、介護の質を向上させる―ことを主な目的としています。後者については「前回の改定によって課題解決が進んでいるのか」を常に検証していくことが求められ、効果検証調査が行われます。
もちろん、改定の効果・影響が「すぐに出る項目」と「比較的時間がかかる項目」とがあるため、調査は▼改定年度(2021年度改定に関しては2021年度)▼改定翌年度(同2022年度)▼改定翌々年度(同2023年度)―の3回に分けて行われます。改定年度には「すぐに効果の現れる」項目を、時間のかかる項目については「翌年度、翌々年度」という具合に分担するイメージです。
2022年度には次の5項目の調査を行うことが決まりました(2021年度調査に関する記事はこちらとこちら)。
(1)都市部、離島や中山間地域などにおける「21年度改定等による措置」の検証、地域の実情に応じた必要な方策、サービス提供のあり方
(2)介護保険施設のリスクマネジメント
(3)介護保険施設における医療・介護サービスの提供実態等
(4)LIFEを活用した取組状況の把握および訪問系サービス・居宅介護支援事業所におけるLIFEの活用可能性の検証
(5)介護現場でのテクノロジー活用
このうち(1)は市町村の判断で「定員超過減算を一定期間行わない」ことを可能とする措置等の実態を把握し、また措置の影響(サービスの質が悪化していないかなど)を調査するものです。
また(2)では、介護保険施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院など)において「事故報告の状況」などを調べます。また(3)では同じく介護保険施設等で、利用者の医療ニーズ、医療・看護の提供状況などを調べるほか、「介護療養からの移行」予定についても詳しく調べられます。
介護療養は2024年3月をもって完全廃止することが決まっており、現在の介護療養は他の施設(介護医療院など)への移行が必要となります。さもなくば、入所者は介護保険を利用した入所ができず、全額自己負担で入所継続をしなければならなくなります。しかし、2020年度の調査(2018年度介護報酬改定の効果検証等調査)では「2024年4月以降も介護療養にとどまる」との回答が23.7%もありました。誤解をしているのか、介護療養の廃止を覚知していないのか、詳細は明らかになっていませんが、どちらにしても「介護療養は廃止」となるため、移行準備を進めなければなりません。この点について、2022年度調査でも詳しく調べることになります。
他方、(4)は2021年度介護報酬改定で拡充されたデータベース「LIFE」の活用促進に向けて、▼リハビリや機能訓練、口腔・栄養等の他職種連携におけるLIFE活用の実態把握と活用方法の検討▼訪問系サービス・居宅介護支援事業所へのLIFE拡充に関する方法と課題の検討—を行います。
「介護施設・事業所がリハビリや栄養・介入などのデータを提出する」→「LIFEデータベースに蓄積され、集計・解析が行われる」→「LIFEから各施設・事業所にデータ解析結果がフィードバックされる」→「各施設・事業所でフィードバック結果をもとにサービス内容の改善を行う」ことにより、全体としてケア・サービスの質が向上していくことを目指すもので、科学的根拠に基づいて「効果的かつ効率的なサービス提供」が進むことに期待が集まります。
さらに(5)では、▼介護ロボットなどの導入状況や活用状況▼ロボット等導入に伴う人員基準緩和、その際のケアの質—などを調べます。従前より、いわゆる3K職場とされる介護分野ではスタッフの確保が難しく、それに少子化が拍車をかけていきます。そうした中では「ロボット」や「ICT技術」の活用が必要不可欠となり、国は「ロボット等導入に向けた経費支援」や「介護報酬における人員基準の緩和」(例えばセンサー配置で夜間の人員配置を通常よりも少なくすることを認めるなど)が行われています。こうした取り組みの進み具合を調査するとともに、「ロボットは人間の代わりにはなりえない。介護・ケアの質が低下することを懸念する」との指摘を踏まえた実態調査も行われます。
今後、具体的な調査票が介護給付費分科会の下部組織で練られますが、それに向けて▼(2)のリスクマネジメントについては施設系以外のサービスでも調査を行ってはどうか(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)▼老健事業での調査と組み合わせた調査を検討してほしい(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長)—などの注文が付いています。
7-8月頃に調査票を固め、実際の調査は8-9月に実施。結果を10-12月に取りまとめて分析等を加え、来年(2023年)3月頃に介護給付費分科会で調査結果を議論することになります。
2020年度・21年度における介護事業所・施設の経営状況を調査
また、上述のとおり介護報酬改定では「介護事業所・施設の経営安定化」も非常に重要な視点となります。介護事業所・施設において収益(収入)の柱は介護報酬となるため、「経営状況が芳しくなければ、次期の介護報酬改定で何らかの手当てを行うべきではないか」「経営状況は好調なので、次期改定での手当は不要であるな」などの判断が介護給付費分科会で行われるのです。
経営状況は、次のように2種類の調査で把握されます。定点調査(同一の事業所・施設のデータを3年度分収集する)ではないことから厳密な比較分析はできないものの、介護事業所・施設の経営状況の大枠を3年度分把握することができ、介護報酬改定に向けた重要なエビデンスの1つとなります
▽直近改定(ここでは2021年度改定)の翌年度(ここでは2022年度)に「介護事業経営概況調査」を行い、直近改定前後の2年度分(ここでは2020年度および2021年度)の経営状況を把握する
▽直近改定(同)の翌々年度(ここでは2023年度)に「介護事業経営実態調査」を行い、次期改定の翌年度(ここでは2022年度)の経営状況を把握する
今回は前者の「概況調査」(2020年度・21年度の経営状況調査)について詳細を固めました。1月24日開催の介護事業経営調査委員会(介護給付費分科会の下部組織)での意見を踏まえ、▼コロナ感染症の発生状況・対応状況(事業縮小したかなど)を詳しく調べる▼この2-9月の「介護職員の処遇改善」補助金の収益を別項目で把握する―という修正が行われました(関連記事はこちら)。
この点、コロナ感染症の発生状況について「クラスターが生じたか否かで分けて調べるべき」とのさらなる要望が江澤和彦委員(日本医師会常任理事)や小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会副会長)、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)から出されており、今後、厚労省と田中滋分科会長(埼玉県立大学理事長)で修正すべきか否かを検討します。
また東委員は「コロナ禍での経営悪化を把握するため、2019年度と20・21年度との稼働率比較を行えるような調査を行ってはどうか」と要望。この点、厚労省老健局老人保健課の古元重和課長は「介護保険データベース(介護DB)で把握できる」旨を説明しています。
今後、総務省の審査を経て調査票を確定し、調査が実施されます。
また田中分科会長は、厚労省に対し「コロナ感染症の影響については、経営状況調査の一部にとどまらず、どこかのタイミングでしっかり調査する必要がある」と指示しています。コロナ感染症の一定の収束を待って検討することになるでしょう。
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