2024年度の薬価・材料価格制度改革論議始まる、医薬品に関する有識者検討会報告書は「あくまで参考診療」—中医協総会(3)
2023.6.26.(月)
6月21日に開催された中央社会保険医療協議会・総会および、先立って開催された薬価専門部会・保険医療材料専門部会で、2024年度の薬価・材料価格制度改革論議が始まりました(外来その1に関する記事はこちら、オンライン資格確認等システムに関する患者・国民の満足度等調査に関する記事はこちら)。
主に、薬価専門部会・保険医療材料専門部会で検討が深められ、最終的に中医協総会で見直し内容を決定します。なお、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」でも薬価制度改革に向けた踏み込んだ提案がなされていますが、これらは「あくまで参考資料」であり、具体的な薬価制度改革案は中医協で議論していくことが確認されています。
医薬品市場の魅力向上、医薬品安定供給などに資する薬価制度を構築
2024年度には、診療報酬改定とセットで実施される、いわゆる「通常の薬価改定」が行われます。6月21日の中医協では、▼検討課題▼進め方—を整理したキックオフ議論を行いました。
これまでの薬価改定は、 2016年12月に、当時の塩崎恭久厚生労働大臣、麻生太郎財務大臣、菅義偉内閣官房長官、石原伸晃内閣府特命担当大臣の4大臣会合で決定された「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に沿って進められてきました。基本方針では、「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立し、「国民負担の軽減」と「医療の質の向上」を実現することを目指して、例えば▼新薬創出・適応外薬解消等加算の抜本的見直し(対象品目を革新性・有用性に着目して絞り込むとともに、企業指標に「革新的新薬の開発等の達成度」に応じた加算を盛り込む▼市場拡大再算定の見直し▼費用対効果評価の導入▼長期収載品から後発医薬品への置き換えを促進する仕組みの導入(いわゆるG1・G2)▼毎年度薬価調査・毎年度薬価改定の導入—などが行われてきています(関連記事はこちら(2023年度の中間年改定)とこちら(2022年度の通常改定))。
ただし、その後に基本方針策定時には想定されていなかった「新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症の発生・流行」「後発品をはじめとする医薬品の供給不安」「新たな形(日本市場の魅力低下)でのドラッグ・ラグ/ロスの発生」などの事態が生じています。これらの問題を解決するため、厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」では、▼後発品メーカーに、より厳格な「安定供給確保」要件を設け、クリアできない企業の撤退を促す▼先発品メーカーが特許期間中に研究開発コストを回収でき、特許期間後は後発品に市場を明け渡す環境を整える▼薬価制度の改革を行い、これらを下支えする—ことなどを盛り込んだ報告書をとりまとめています。
厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、こうした状況を踏まえて、2024年度薬価制度改革に向けた次のような議論を行うことを提案しています。
(1)2023年度薬価改定の骨子に記載されている事項
▽新薬創出等加算や長期収載品に関する薬価算定ルールの見直し
▽革新的新薬の日本への導入の状況や安定供給上の課題も踏まえた、これまでの薬価制度改革の検証
(2)2022年度薬価改定の骨子令和4年度薬価制度改革の骨子に記載されている事項
▽調整幅の在り方
▽診療報酬改定がない年の薬価改定
(3)「高額医薬品(感染症治療薬)に対する対応」に記載されている事項
▽市場規模の推計が困難な疾患を対象とした薬剤における薬価算定方法等や、緊急承認された医薬品の本承認時における薬価算定の方法等
(4)これまでに問題提起されている事項
▽「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」における指摘事項(安定供給の確保、創薬力の強化、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消、適切な医薬品流通に向けた取組)
▽「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)で指摘されている事項(長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、バイオシミラーの使用促進等、医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直しなど)
(5)その他
▽関係業界からの提起事項
▽薬価算定組織からの提起事項
こうした論点を議論していくことに反対意見は出ていませんが、中医協委員からは「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針の視点が引き続き重要となる。薬剤の評価充実に偏ることなく、薬価全体の中でのバランス確保が必要となる(優れた医薬品の評価を充実する場合には、そうでない医薬品の評価を下げる)。また調整幅については有識者検討会でも検討課題に挙げられており、今後、カテゴリ別・購入主体別の流通コストなどを詳しく見ていく必要がある」(松本真人委員:健康保険組合連合会理事)、「有識者検討会でも指摘されている日本市場の魅力向上、製薬メーカーの予見可能性確保などを薬価制度面で図っていく必要がある」(眞田享委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)、「中間年改定(毎年度改定)で中小規模薬局の経営は厳しさを増している。その在り方を丁寧に議論していく必要がある」(森昌平委員:日本薬剤師会副会長)などの意見・注文が出ています。
また安川薬剤管理官は「有識者検討会では医薬品産業構造・薬価・流通などの全体に関する改革の方向性を整理しており、薬価制度についての具体的な改革内容は中医協で議論し、決定してもらう」との考えを明示しました。有識者検討会のとりまとめでも、薬価制度改革に相当程度踏み込んでいる部分もありますが、あくまで参考診療であり、具体的な内容の検討・議論は「これまでどおり中医協で行う」ことになります。
今後、7月に「関係業界からの意見を聴取する」→7-9月頃に「新薬、長期収載品、後発品等の課題を整理し、薬価算定組織からの意見を踏まえた検討を行う」→10-11月頃に「関係業界からの意見を聴取し、新薬、長期収載品、後発品等の対応の方向性を固める」→12月頃に「2023年度の薬価調査の結果速報を受け、関係業界からの意見も踏まえて『薬価改定の骨子案』をとりまとめる」というスケジュールで議論が進められます。
プログラム医療機器の開発促進など、最新の動向を踏まえた材料価格制度改革を行う
2024年度には、保険医療材料価格制度改革(材料価格改定)も行われます。厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の中田勝己室長は、医療材料を取り巻く環境の変化(プログラム医療機器の拡大など)も踏まえて、2024年度改革に向けた次のような議論を行うことを提案しています。
(1)2022年度保険医療材料制度改革の骨子において検討を要するとされた事項
▽イノベーションの適切な評価
▽外国価格調整
(2)答申書附帯意見に関する事項
▽イノベーションの適切な評価
▽プログラム医療機器の評価(関連記事はこちらとこちらとこちら)
(3)その他
▽医療機器基本計画に基づく事項
▽関係業界から提起された事項
▽保険医療材料等専門組織から提起された事項
こうした方針に異論・反論は出ておらず、今後、7月に「保険医療材料等専門組織から意見(プログラム医療機器に関するものを含む)を聴取する」→8月に「関係業界からのヒアリング」を行う→9-11月に「各検討事項について議論を深める」→11月に「関係業界からの2度目のヒアリングを行う」→12月に「2024年度保険医療材料制度改革の骨子を固める」→2024年1月に「24年度保険医療材料制度の見直し内容を決定する」というスケジュールで議論が進められます。
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