医師働き方改革サポートする【地域医療体制確保加算】取得病院で、勤務医負担がわずかだが増加している—中医協総会(1)
2023.6.14.(水)
医師働き方改革が2024年度から本格スタートする。このため診療報酬では医師働き方改革をサポートする【地域医療体制確保加算】などの創設・拡充を行っているが、同加算取得病院では、わずかながら「勤務医の負担が増している」状況にある点などをどう考えていくべきか—。
医師働き方改革の実現に向けた「宿日直許可の取得」が重要であり、ICU等のユニットにおいて医師の勤務実態を正確に把握したうえで、「施設基準の見直し」「宿日直許可基準都の整理」などを行ってはどうか―。
また、医師働き方改革に向けて「薬剤師や特定行為研修修了者へのタスクシフト」も非常に重要であるが、病院では薬剤師などの確保に難渋しており、診療報酬でのサポートをさらに進めてはどうか―。
6月14日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論(「医師働き方改革に関するその1」論議)が行われました。2024年度診療報酬改定に向けた「総論」論議(第1ラウンド、「その1」シリーズ)が進んでいます。
目次
【地域医療体制確保加算】取得医療機関で、わずかながら勤務医の負担が増加している・・・
2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されるものです。
新たな時間外労働規制のスタートに向け、診療報酬での医療現場支援などが重要となり、2018・20・22年度の改定でも対応が行われてきています(例えば【地域医療体制確保加算】の新設・拡大、【医師事務作業補助体制加算】の拡充など、関連記事はこちら)。
2024年度の次期診療報酬改定でも、医師、医療従事者の働き方改革をどう診療報酬でサポートしていくかが重要論点の1つとなります。
まず医師・医療従事者の勤務状況などについて、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は次のような報告を行いました(関連記事はこちら)。
▽現在の勤務状況について、「改善の必要性が高い」「改善の必要がある」と回答した医師は51%
▽「改善の必要性が高い」「改善の必要がある」を選択した理由としては、「医師の過重勤務により患者が不利益を被る可能性があるため」56%、「業務を継続していけるか不安があるため」51%、「ワークライフバランスがとれていないため」51%など
▽職位別に「医師の勤務状況の改善必要性」の考え方を見ると、部長・副部長、診療科の責任者、その他の管理職医師、非管理職医師では「改善の必要」を感じる者が多いが、院長・副院長、専攻医、臨床研修医は必要性を感じない者が多い
▽負担軽減策としては「薬剤師へのタスクシフト」が目立つ(上位5項目中3項目が薬剤師関連)
▽【地域医療体制確保加算】の届け出割合は41%で、ハードルとしては「救急医療に係る実績」などが目立つ
▽【医師事務作業補助体制加算】の届け出割合は68%で、ハードルとしては「救急医療にかかる実績」「全身麻酔手術件数の実績要件」などが目立つ
▽【地域医療体制確保加算】を算定している医療機関において、長時間の時間外労働をする勤務医の割合がわずかであるが増加してしまっている
▽宿日直(月平均)の回数は「2回未満」が増加し、「4回以上」が減少している。連日当直を実施した者の人数は減少しているが、回数は、2021年から2022年にかけてわずかながら増加している
このうち「【地域医療体制確保加算】算定医療機関での、時間外労働増加」について支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「加算の効果・成果が現れていないことは残念だ。長時間労働をする勤務医の割合がわずかであるが増加してしまっている。『加算を継続すべきか』を議論する必要があり、仮に継続するとしても『勤務時間短縮の計画作成だけでなく、時間短縮の実績を要件化する』などの見直しが必須である」と強く訴えました。
これに対し診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「医師働き方改革はこれからが本番であり、10数年かけて継続していかなければならない。【地域医療体制確保加算】の廃止などはあり得ない」と強く反論しています。
この点、「新型コロナウイルス感染症対応で一部医師の負担が増加している」ことなども考えられ、最新にデータを慎重に分析し、その結果に基づいた議論が待たれます。
ICU等の医師勤務実態を把握し、施設基準と宿日直許可基準との再整理してはどうか
ところで、医師の働き方改革を実現するうえでは「宿日直許可の取得」が非常に重要となります(関連記事はこちら)。
「宿日直許可」については、2019年7月に厚労省が通知「医師、看護師等の宿日直許可基準について」を示し、「医師・看護師等の宿日直は『通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のもの』で、『特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務』実施のみを行う場合に限って認められる。例えば、夜間の救急搬送患者が常に多く、それに少ない宿直医等で対応しなければならないなど『通常の業務と同態様の業務が稀でない』ような場合には、宿日直は認めらない」との考えを整理しています。宿日直許可が認められなければ、夜間に行う業務などは「夜勤」、つまり「労働時間」(時間外労働)と扱われ、960時間・1860時間の制限をクリアすることが難しくなってきます。
この点、例えば非常に多忙な2次救急医療機関などにおいても、様々な工夫によって「宿日直許可を得る」ことが可能ですが、診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「業務負荷が大きな医師において安易に宿日直許可が出るとなれば本末転倒である」(実態は「業務継続中」であるにもかかわらず、宿日直許可を得て「業務外」となれば、当該勤務医の負担は全く減らない)と指摘。
そのうえで、「医師が常時勤務することが求められるユニット(ICUなど)については、『医師の勤務実態』を踏まえて、『診療報酬上の施設基準』(常時ユニット内で勤務することなど)や『宿日直許可基準』の見直し・整理を行っていく必要がある」と提案しました。ユニットの中にも「常時の医師配置が必ずしも求められず、宿日直許可を得た医師で対応可能なもの(急変時のわずかな処置など)」があるやもしれず、そうした実態が見られたユニットでは「医師の常時配置」という施設基準を見直し、あわせて「宿日直許可を得やすい」仕組みを整備することなどが考えられ、眞鍋医療課長も検討の余地ある旨の考えを示しています。
医師からのタスクシフト進めるため、薬剤師・特定行為研修修了者の評価を引き上げては
また、医師の働き方改革に向けては、医師の業務のうち「医師以外の医療従事者での実施可能な業務、医師以外の専門職種が実施した方が効果的な業務」について他職種に移管していく「タスクシフト」が非常に重要で。この移管先として「薬剤師」や「特定行為研修を修了した看護師」に期待が集まります(関連記事はこちら)。
しかし、「病院での薬剤師確保」や「特定行為研修を修了した看護師の育成」は思うように進んでおらず、「特定行為研修を受けるインセンティブを設けるべきである、また病院が薬剤師を確保できるような診療報酬での対応を考える必要がある」(診療側の池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長・福井県医師会長)、「昨年(2022年)10月に新設された【看護職員処遇改善評価料】について、病院に勤務する薬剤師の処遇改善にも支弁可能とすることを考えるべき」(支払側の安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)などの提案が出ています。
診療報酬で「介護福祉士配置」評価を行うべきか?看護補助者確保も重要論点
ところで、医師から他職種にタスクシフトが進められた場合、業務移管先の他職種において「負担が過重」になっては意味がありません。医療職種全体で「どの業務をどの取得が担うことが効率的かつ効果的か」を考えたタスクシフトを進める必要があります。
この点、看護職員についても、「看護師資格を保有しなくとも実施可能な業務は、看護補助者に移管する」ことが重要となりますが、眞鍋医療課長から「看護業務補助者数は、2014年以降減少している」などの厳しい現状が報告されています。
こうした問題については、「難しい論点ではあるが、医療機関における『介護福祉士の配置、診療報酬上の評価』をそろそろ検討しなければならない」(池端委員)との声もある一方で、「介護現場ですら介護福祉士確保に苦労している。介護福祉士は介護現場でまず活躍してもらう必要があり、診療報酬での評価には反対である」(看護職代表の吉川久美子専門委員:日本看護協会常任理事)という声もあります。「急性期病棟における介護配置基準」とも関連し、今後、様々な角度から検討していく必要があります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
なお、吉川専門委員は「看護補助者のなり手不足が指摘されるが、一般国民がそもそも看護補助者の存在を知らずない点に対策をとる必要がある(看護補助者を知らなければ、そもそも補助者になろうとは思わない)。看護補助者の正規雇用推進、研修・教育体制の充実、業務の切り分け・明確化などに取り組む病院では、看護補助者の雇用が継続されている。そうした取り組みへの評価を併せて検討すべき」とも提案しています。
このほか、「スタッフの働き方改革に向けてはトップの意識改革が最も重要だが、病院では院長などの6割近くが『現状のままでよい』と考えており、ここを改善していかなければならない。診療報酬での評価に当たっては現行の延長ではなく、より効果の出る内容への重点化が必要である」(支払側の眞田享委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)、「介護現場でスタッフの負担軽減のためにロボットやICT導入が進められているが、介護の質維持などに関するエビデンス構築にはまだ時間がかかる。また報酬(人員配置基準)上の対応もなされているが、活用もごく一部にとどまっている。医療現場(とりわけ急性期医療)におけるスタッフ負担軽減のためのロボット活用(夜間の見守りなど)は時期尚早と考える」(診療側の江澤和彦委員:日本医師会常任理事、吉川専門委員)、「医療DX論議が進んでいるが、診療の質向上とあわせ、医療現場の負担軽減につながる視点も重要してほしい」(診療側の長島委員)などの意見が出ています。
なお、診療側の長島委員は「医師働き方改革は、勤務医の生命・健康確保だけでなく、地域住民・患者の生命・健康確保をも目指すものであり、そのためには必要な診療報酬改定財源を確保しなければならない」と訴えています。この点、支払側の松本委員は「地域医療介護総合確保基金での対応と、診療報酬上の対応とを明確に切り分けて考える必要がある」とコメントしました。
医療従事者の働き方改革に関しては、秋以降に、より具体的な「地域医療確保体制加算や医師事務作業補助体制をどう見直していくべきか」という第2ラウンド論議が行われます。上記の意見は、その際の論点などに反映されていきます。
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