訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
2023.5.19.(金)
今後、高齢化がさらに進展し、医療・介護ニーズが増大・多様化する中では、医療・介護の双方に跨る「訪問看護」について質と量の充実が強く求められる—。
24時間・365日対応の推進、医療ニーズが高い利用者への対応力向上、医療保険・介護保険の制度上の差異解消などを進めていく必要がある—。
5月18日に開催された、中央社会保険医療協議会と社会保障審議会・介護給付費分科会の主要メンバーが参画する「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」で、こういった議論が行われました。同日には「人生の最終段階における医療・介護」も議題となっており、別稿で報じます。
今後、3回の意見交換会論議も踏まえて、中医協、介護給付費分科会のそれぞれで具体的な改定論議が深められます。
24時間・365日対応の推進、スタッフの精神的・身体的負担の解消が重要課題
2024年度には診療報酬・介護報酬の同時改定(さらに障害福祉サービス等報酬の改定も加わり、トリプル改定となる)が行われることから、医療・介護等のいずれにもまたがる課題について解決していくことが求められます。
このため「中医会における診療報酬改定論議」と「介護給付費分科会における介護報酬改定論議」を始めるまえに、両会議体の委員が「医療・介護等のいずれにもまたがる課題」を整理し、共通認識を持っておくことになりました。
意見交換会は3回(3月・4月・5月)開かれ、(1)地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携(2)リハビリテーション・口腔・栄養 (3)要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療(4)高齢者施設・障害者施設等における医療(5)認知症(6)人生の最終段階における医療・介護(7)訪問看護(8)薬剤管理(9)その他—の9項目を議題とします(第1回意見交換会の記事はこちら)。
5月18日の第3回会合では、(6)人生の最終段階における医療・介護(7)訪問看護—を議題としました。本稿では「訪問看護」に焦点を合わせ、「人生の最終段階における医療・介護」については別稿で報じます。
訪問看護は、医療保険・介護保険の双方に跨るサービス類型です。2025年度には、いわゆる団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者となることから、医療・介護ニーズが急速に増加していくことから、要介護度が高くなっても、住み慣れた地域での生活を可能にすることを目指し、地域の実情に応じて▼住まい▼医療▼介護▼予防▼生活支援―を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築が急がれています。この地域包括ケアシステムの中では、医療・介護の両面から給付を行う訪問看護が「要の1つ」になると期待されています。
このため訪問看護ステーションの整備が進んでおり、▼昨年(2022年)4月時点で医療保険給付を行う事業所は1万3866か所、介護保険給付を行う事業所は1万2498か所▼5人以上の大規模事業所(24時間・365日対応のハードルが低くなる)割合が2021年7月1日時点で45.2%▼機能強化型1事業所(規模が大きく、重度者対応実績が多い)が増加している(2021年7月1日時点で400か所)—などの状況が明らかになっています。
しかし、訪問看護に関しては(a)さらなる高齢化を見据えなければならない(b)地域の医療・介護ニーズによりしっかりと応えなければならない(c)医療保険・介護保険のいずれの給付を行うのか、対象者をより明確にしなければならない(d)医療保険・介護保険の制度上の対応を明確化しなければならない—という課題があると指摘されます。
まず(a)について厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は、例えば▼ニーズの多様化に対応し、適切な訪問看護を提供できるように「質の担保・向上」を図る必要がある▼大規模化を進める中で「管理者のマネジメント能力向上」が求められる▼サービス付き高齢者住宅など住まいが多様化する中でも、適切な訪問看護提供を図る必要がある▼いわゆる「D to P with N」(訪問看護の場とオンライン診療をつなぎ、医師が映像を確認しながら看護師に指示を出し、より適切なオンライン診療を行う形態)を推進する必要がある—などの具体的な論点を提示しています。
(b)も(a)と重なる部分がありますが、一部の事業所で▼特定の利用者への訪問看護提供に特化し、「点滴実施など基本的な診療の補助」「24時間対応」に消極的である▼医療ニーズが高い特別な管理を必要とする者に対応していない—点への対応が求められます。この点、従前から問題視されている「スタッフの多くをリハビリ専門職が占め、日中に(24時間対応はしない)、軽度者を中心に(重度者対応はしない)訪問によりリハビリテーションを行う」訪問看護ステーションの動向にも注目が集まります(関連記事はこちらとこちら)。
また「24時間・365日対応」「医療ニーズの高い利用者への対応」を行っている事業所においても、▼看護職員の精神的・身体的負担が大きい▼夜間・休日対応できる看護職員が限られているため負担が偏る—といった課題もあり、例えば「機能強化型訪問看護ステーションによる他のステーションの利用者のケアに関する助言」実施や「訪問看護に携わる看護職員のさらなる確保、訪問看護の質の担保・向上」対策などが極めて強く求められます。
こうした論点については、「規模の拡大も重要であるが、複数事業所で連携した24時間・365日対応を推進していく必要がある」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事、介護給付費分科会委員)、「日常生活を支える訪問看護ステーションと、専門的なサービスを提供する訪問看護ステーションとで機能分化し、ICTを活用した地域のネットワークづくりを進める必要がある」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与、介護給付費分科会委員)、「ターミナル期や看取りへの対応について、訪問看護ステーションだけでなく、併設医療機関や老健施設の看護職員とも連携した対応を可能とすべきである」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長、介護給付費分科会委員)、「訪問看護ステーションへの『特定行為研修修了者』の配置を報酬で十分に評価することが重要ではないか」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事、介護給付費分科会委員)、「リハビリ専門職による訪問看護について、管理者が訪問看護の本来の役割を十分に理解したうえで実施・運営することが強く求められる」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事、中医協・介護給付費分科会委員などの提案・意見が出されています。
医療技術の進展で在宅療養が可能になったが、頻回な訪問看護を受けられない制度的課題も
他方(c)では、医療保険・介護保険の「いずれからの給付が妥当か」が明確でないケースがあるのではないか、との問題意識を眞鍋医療課長が示しました。
上述の通り、訪問看護は医療保険・介護保険の双方に跨るサービスですが、自由に両方のサービスを使えるわけではなく、次のようなルールが設けられています。「重度者には頻回な訪問看護サービスを可能としている」ことが分かります。
▽要介護高齢者(65歳以上で、要介護・要支援認定を受けている人)は介護保険の訪問看護を利用する(要介護状態に応じた支給限度基準額の中で、ケアプランで利用回数を定める。上限はない)
▽上記以外の者は医療保険の訪問看護を利用する(原則として週3日以内)
▽ただし、▼末期がん患者など(いわゆる別表7)▼在宅で人工呼吸器等を使用する者(いわゆる別表8)▼気管カニューレ使用者など、医師による特別訪問看護指示書が出されている者—では、医療保険の訪問看護について利用制限を設けない
▽また、▼末期がん患者など(いわゆる別表7)▼気管カニューレ使用者など、医師による特別訪問看護指示書が出されている者—などでは、要介護者であっても医療保険の訪問看護を利用できる
ところで、昨今の医療技術の進展により、従前は入院が必要であったが「在宅療養が可能になる」者が少なからず現れてきています。重度者であり医療ニーズが極めて高いことから「頻回な訪問看護提供」が求められますが、上述の別表7・別表8などに該当せずに「頻回な訪問看護を受けられない」ケースもあるようです。十分な訪問看護提供がなされなければ在宅療養を継続することが難しくなり、「せっかく医療技術の進展で在宅療養を送れる環境が整ったが、制度の不備により在宅療養が阻害され、入院に戻らなければならない」事態が生じてしまいます。
そこで眞鍋医療課長は、2024年度の同時改定に向けて「医療技術進歩などで新たに在宅医療 が可能となった利用者が、必要な訪問看護受け、出来る限り在宅療養を継続できるよう、訪問看護の介護保険と医療保険の対象者をどう考えるべきか」という論点を提示しました。
この点については、「医療保険・介護保険の区分けルール・境界は安易に見直すべきではない。慎重に検討すべき」(長島公之委員:日本医師会常任理事、中医協委員)との意見が出る一方で、実際に訪問看護ステーションと連携して慢性期医療・介護サービス提供を行う田中委員や田母神委員は「末期がん以外でも医療保険の訪問看護を利用しやすくするなどの工夫が必要である」と訴えています。例えば、「別表7・8の対象を拡大する」ことなどを中医協で検討していく可能性があるでしょう。
また、上記のルールを見れば明らかなように、利用者の疾患・状態など(例えば別表7・8に該当するか否か、要介護認定を受けるか否か)により医療保険と介護保険が切り替わることになります。例えば、70歳で要介護と判定されたAさんは「介護保険の訪問看護」を利用していたが、一時的に状態が悪化し特別訪問看護指示書が出されたために「医療保険の訪問看護」に切り替わり、その後、状態が改善し「介護保険の訪問看護」に戻った、などの事例がありえます。
その際、介護保険のサービスを管理するケアマネジャー(介護支援専門員)の多くは、介護保険以外のサービス(上記の「医療保険の訪問看護」など)も把握して、ケアプラン(介護サービスの計画)の中に位置づけていますが、一部にはそうした把握・ケアプランへの位置付けが行われていません。後者の場合、訪問看護ステーションは「利用者に提供されている医療・介護サービスの全体像を把握できない」、ケアマネジャーには「利用者に提供されるサービスの総量が把握できない」こととなり、適切なサービス提供等に支障が出ている可能性があります。
眞鍋医療課長は訪問看護ステーションとケアマネ事業所との連携をさらに充実する必要があるとの考えを示しています。ここでは「ICTによる情報連携」も重要な視点となります。
さらに(d)の制度上の問題としては、例えば▼同じ趣旨の評価であるにも関わらず、診療報酬(訪問看護療養費)と介護報酬とで施設基準、算定の要件や評価の範囲などが異なる場合がある▼本来「共して評価すべき」ものが、どちらかの保険でしか評価していない場合がある—などの課題があり、同時改定時の解消可能な論点として浮上してきています。田母神委員は「ターミナル期の評価について報酬上の差異があり、2024年度の同時改定で解消すべき」と強く訴えました。
このほか、「本来は、在宅療養支援診療所や在宅療養支援病院が訪問看護ステーションを併設などし、在宅療養と入院をセットで提供(ときどき入院、ほぼ在宅)しながら看取り対応までする姿が求められる。主治医と訪問看護ステーションとの連携が非常に重要である」(長島委員)、「営利企業による訪問看護ステーションが増加しているが、サービスの質に問題がないかなどを検証すべき」(松本真人委員:健康保険組合連合会理事、中医協委員)などの意見も出ています。
これらの意見も踏まえ、今後、中医協と介護給付費分科会で「訪問看護の報酬見直し」が進められます。
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