「D to P with N」の発展形とも言える、看護師や介護スタッフがサポートするオンライン診療を推進せよ―社保審・医療部会(3)
2022.8.19.(金)
オンライン診療を、パソコンやスマートフォン操作に不慣れな高齢者も受けやすくするよう、例えば「通所介護事業所」(デイ・サービス)や「公民館」などでスタッフが機器操作などを手伝いながらオンライン診療を受けることを可能としてはどうか―。
自宅療養患者宅近くまで「訪問看護師が自動車で検査機器」などを運搬し、患者が当該自動車の中で、遠方の医師からオンライン診療を受け、それを訪問看護師がサポートすることも可能としてはどうか―。
8月17日の社会保障審議会・医療部会では、こういった議論も行われています。これらは通常の「医師-患者」間のみでのオンライン診療とやや異なり、看護師や介護スタッフなどが患者の傍でオンライン診療をサポートする(いわゆるD to P with Nなど)形態です。患者の状態(バイタル測定や容貌・雰囲気の観察)などを看護師等が行うことで、適切な診断・指導(医師の言葉を看護師等がかみ砕き、分かりやすく患者に伝える)につなげることが期待できます。
いわゆる「D to P with N」の発展的形態のオンライン診療
医療部会では、オンライン診療(D to P)や遠隔画像診断・遠隔病理診断(D to D)などを含めた「遠隔医療」について、安全性と質を確保しながら推進していくための「基本方針」を、今年度(2022年度)に策定する構えです(関連記事はこちら)。
この点、遠隔医療やオンライン診療の推進を強く求めている規制改革推進会議等からは次の2つの形態のオンライン診療を「実施可能に向けて検討する」よう要請がなされています(関連記事はこちら、内閣府のサイトはこちら)。
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(1)「通所介護事業所」(デイ・サービス)や「公民館」などでスタッフが機器操作などを手伝いながらオンライン診療を受けられるようにすること
(2)自宅療養患者宅近くまで「訪問看護師が自動車で検査機器」などを運搬し、患者が当該自動車の中で、遠方の医師からオンライン診療を受けられ、それを訪問看護師がサポートすること
まず(1)については、現在の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、オンライン診療指針)において「病院、診療所等の医療提供施設又は患者の居宅等で提供されなければならないこととされており、この取扱いは、オンライン診療であっても同様」、「第三者に患者の心身の状態に関する情報の伝わることのないよう、医師は物理的に外部から隔離される空間においてオンライン診療を行わなければならない」などと規定されている点に照らし、他者が大勢いるデイ・サービス事業所や公民館などにいる患者にオンライン診療を行うことは極めて困難です。
しかし、▼高齢者の多くはパソコンやスマートフォン操作に不慣れであり、自宅よりも、機器操作を支援してくれるスタッフがいるデイ・サービス事業所などの方がオンライン診療を受けやすい▼デイ・サービスの介護スタッフなどが医師に患者(高齢者)の状態(バイタルや雰囲気・要望など)を伝達し、また同スタッフが医師の指導内容をかみ砕き、分かりやすく患者(高齢者)に伝えることができる—というメリットもあると指摘されます。
この点、医療部会では「デイ・サービスなどに通える高齢者であれば、オンライン診療ではなく、医療機関外来を受診すればよいではないか」(角田徹委員:日本医師会副会長)との声もありますが、多くの委員は▼高齢患者の多くは要介護状態であり、安全性の高いD to P with N(看護師)、D to P with H(ヘルパー)などを進めていく必要がある。診療報酬などの手当ても検討していくべき(神野正博委員:全日本病院協会副会長)▼反対する論拠はいくらでもあげられるが、まず実行して課題等を整理し、次につなげていくべき(拡大に向けた条件の検討)ではないか(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)—などの賛成意見を示しています。
今後、「サポートするスタッフ要件をどう考えるか」(介護職員等の資格をどう考えるか、医療・介護専門職でないスタッフでも良しとすべきか)、「個人情報保護をどう確保するか」などを前向きに検討していくことになりそうです。
また(2)は、「重量のある(人の手で持ち運ぶことが大変な)検査機器等を車に積み、患者宅の近くまで行く」→「自宅療養患者は、当該車に乗り込み、遠方の医師からオンライン診療を受ける」→「その際、車に同乗する訪問看護師などがオンライン診療のサポート(バイタルチェックや、医師の指導内容のかみ砕いた伝達など)を行う」というものです。
患者宅を訪問する訪問看護師がサポートするオンライン診療(D to P with N)は従前より認められていますが、オンライン診療指針では「病院、診療所等の医療提供施設又は患者の居宅等で提供されなければならないこととされており、この取扱いは、オンライン診療であっても同様」などの規定があるため、現状では上記(2)のオンライン診療形態を実施することはできません。
この点、やはり角田委員ら一部委員は「患者宅の傍まで行くのであれば、患者宅まで行けばよいではないか」と反対していますが、▼自動車までの送迎サービスなども考えるべき(神野委員)▼自宅療養者にとって、わずかな時間・わずかな距離でも外出することで心身のリフレッシュができるという副次的効果も期待できる(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼看護師の同席には、大きな意味がある(井伊久美子委員:日本看護協会副会長、香川県立保健医療大学学長)—と推進に賛成する声が多数を占めています。
重量のある検査機器を「患者宅まで運ぶ」ことには大きな苦労が伴います(例えば訪問看護師1人では運べない機器も少なくない)。この点、機器を車に積んだままにし「患者に車まで来てもらう」ことが現実的であり、例えば「へき地等の巡回診療」や「移動検診車」などに近いものと考えることもできそうです。
上記(1)(2)のいずれも、「医師-患者」のみのオンライン診療ではなく、第三者(看護師や介護スタッフなど)が患者の傍にいて「医師-患者間のオンライン診療をサポートする」形態です。
「医師-患者のみのオンライン診療」では、どうしても医師が得られる情報が限られることから、誤診や見落としのリスクが高くなります。その点、看護師や介護スタッフが「実際に患者と相対し、情報を直接得られる」形態であれば、誤診・見落としのリスクは相当に軽減されるでしょう。そうした側面から考えると、まず「こうしたサポート者の介在するオンライン診療」を推進しながら、オンライン診療拡大に向けた方策を検討していく方が、オンライン診療の普及・浸透への地下道と言えるかもしれません。
この点、▼初診患者など、全く患者の状態に関する情報得ていない中でのオンライン診療には極めて慎重であるべきではないか(小熊豊委員:全国自治体病院協会会長)▼オンライン診療で終了ではなく、そこで「事態が急を要する」と判断した場合に、患者を病院等に搬送できる救急体制の整備も同時に進めるべきである(遠藤直幸委員:全国町村会、山形県山辺町長、加納繁照委員:日本医療法人協会会長)—などの意見も出ています。「オンライン診療で完結する医療がある」ことも事実ですが、「オンライン診療では完結しない。すぐさま対面診療に移行しなければならない」ケースもあり、後者へのサポート体制も、オンライン診療の普及の中で極めて重要となります。
なお、小熊委員は、「かかりつけ医がグループを組んで、夜間の救急患者等にオンライン診療で1次トリアージを行う」ような体制を地域で組めば、救急医療機関の負担は相当程度軽減する。こうした仕組みの検討も同時に行ってほしいと要望しています。
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